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隠者の食卓 ヒメジョオンとハルジオンで鶏の水炊きを作る 【週末隠者】

 雪解けの始まりからゴールデンウィーク前後にかけての時期、北海道の野山は山菜採りのピークを迎えます。フキノトウから始まり、ギョウジャニンニク、コゴミ(クサソテツ)、タラの芽、ウド、もう少し遅い時期であれば根曲がり竹(チシマザサ)のタケノコといった山菜を目当てに多くの人が山に入り、時にはそういう人たちからお裾分けにあずかることもあります。
 北海道で山菜採りの文化が強く根付いている理由はいくつか考えられます。自然そのものが豊かなこと、山野の幸への依存が強かったアイヌ文化や開拓時代の生活の名残、雪解けのあと畑の野菜が育つまでのビタミン源の必要性などが、おそらく背景としてあるのでしょう。
 その山菜ですが、必ずしも人里離れた山の中に入らなければ出会えないというものではなく、実は都市部の河川敷や街中の空き地、さらに道ばたや庭先など身の周りにも、けっこう食べられる植物が生えているものなのです。今回はその中で、通称「貧乏草」と呼ばれるヒメジョオン・ハルジオンの実食レポートをお送りします。
 ヒメジョオン(姫女菀 Erigeron annuus)とハルジオン(春紫菀 Erigeron philadelphicus。なお「ハルジョオン」はヒメジョオンとの類似から来た誤称とのことです)はどちらも北米原産のキク科ムカシヨモギ属の植物で、日本には明治以降に入ってきてそのまま定着した外来種です。現在では世界各地で雑草化しており、街中でもあちこちで見かけます。詳しい人によれば多少味が違うそうですが、食用になる芽生えの頃は見分けが付きにくく、混生していることもあって今回は特に区別せずに扱います。
 採集時期はゴールデンウィーク初頭の4月末、北海道D市にある私の庵の庭先(注1)に生えているものを摘んでみました。

注1:私の庵がすでに人里離れた山の中なのではという部分はさておきます。

 摘むのは伸び始めたばかりの若葉の部分【写真1】。成長してしまうと固くなって食用には不適となるため、採れるのはこの時期だけです。繁殖力が強く雑草扱いされている種ですので雑草取りを兼ねてありったけ採取しても問題ありません。ただ、街中に生えているものを採る場合、除草剤や排気ガスを浴びていないきれいな場所のものを選ぶようにしましょう。

【写真1】春先の若葉

 煮ると縮んでかさが減ることを考慮して、少し多めに採ります。なるべく柔らかそうなものだけ選んで摘むようにしましたが、それでも20分ほどで十分な量が集まりました【写真2】。

【写真2】料理用に摘んだもの

 味は香り・食感いずれも同じキク科の春菊をソフトにした感じで、アクも少なく野草としては食べやすい方です。そのまま春菊の代わりに使えば良いでしょう。今回は素材そのものの味が分かりやすい料理をと考え、鶏肉の水炊きに使ってみることにしました。このほかしゃぶしゃぶなどの野菜としても良さそうです。
 調理に使うのは、以前リサイクルショップで2千円ほどで手に入れた囲炉裏いろり鍋です【写真3】。分厚い鋳鉄製で見た目も風情があり、ロケットストーブや薪ストーブとの相性も良いため愛用しています。ただしやたらに重く、子供や老人だと中身が入った状態で運ぶのは一苦労するような重量です。安売りされていたのはそのためかもしれません。

【写真3】今回使った囲炉裏鍋

 作り方はシンプルに、出汁取り用の昆布、豆腐、ネギ、シイタケ、ぶつ切りにした鶏のもも肉を鍋に入れて煮立たせます。軽く火が通ったら洗った野草を入れます【写真4】。煮込むうちに汁に多少緑の色がつきました。

【写真4】鍋に野草を入れたところ

 しばらく煮込んで完成【写真5】。ポン酢でいただきます。

【写真5】ヒメジョオン・ハルジオン入り鶏の水炊き、完成です

 食べてみると、わずかにざらざらした舌触りはあるものの、ほとんど気にならない程度のものです。香りもあまり強くなく、むしろ春菊より食べやすいように思いました。他の素材から出た味も十分に染みていて、普通に美味です。予備知識なしで食べれば、これが野草であることさえ気付かないでしょう。逆に野草らしいクセやアクを期待していると拍子抜けするかもしれません。残った汁にはうどんを入れてみましたが、こちらも普通に食べられる味でした。
 こうした身近な野草を味わって、ささやかな季節の風情を感じるのも隠者の楽しみの一つです。皆さんも試してみてはいかがですか?

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