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いつでも辞められるように仕事する

文字にするとショッキングだが、いつも自分が心がけていることだ。もちろん、実際に仕事を辞めたところで次の仕事が簡単に見つかるわけでもないし、少なくともそんな簡単に投げ出さない程度には今の仕事には愛着がある。

どこでも評価される力をつける

社会人生活が始まった頃、「今働いている企業の中だけでありがたがられる仕事をするなよ、どこでも評価される仕事をしろよ」とどこかで言われたような記憶がある。いや、何かで読んだ話だったかもしれない。遠すぎていつのことだかは覚えていない。「特定の企業の中だけでありがたがられる仕事」がどういうものか、自身の経験で感じたことはないが。

この言葉がすっと自分の腑に落ちたのは、私自身が新卒で就職する会社を大企業ではなく、規模は小さくても力が付きそうな会社を選んで入ったつもりだったからだろう。就職活動の真っ只中にあった震災は様々な側面から従来の価値観を揺さぶったが、大きな金融機関のシステムがうまく動かなくなった事件は、"IT系"を就職先に考えていた自分が「名の知れた企業に入ることと、良いものを作れるかどうかは関係ない」と思うきっかけとなった。

新卒1年目の時、師匠だった (と僕が勝手に思っている) 上司に読まされた雑誌の中に、「仕事はわらしべ長者」という言葉があった。その時出来る精一杯の仕事を、しっかりと評価して貰える人に提供して、替わりにもうひと回り歯ごたえのある仕事が与えられる。それを繰り返していくことでキャリアは積み重なっていく。組織を回すための仕事をするだけでずーっと等価交換を繰り返して横ばいになるなよ、という話だったのかもしれない。

いつでも休めるようにする

さて、私が普段からそんな意識の高いことを考えて職務にあたっているかと言うと、そんなことはない。それでも「いつでも会社を辞められるようにする」ことを意識しているわけだが、それはおおよそ「いつ休んでも職場が回るようにする」と言ったほうが近い。

最近は "コロナ禍" および息子の誕生でめっきり少なくなったが、去年まではいかに平日に横浜スタジアムに向かえるかが重要だった。去年は、2週間に1度は16時で職場を去るようなことがあったくらいだ。
身体も強い方ではないから、いつ体調不良になるかもわからない。長時間労働も苦手なので、夜遅くまで仕事をしたくてもエンストしてしまう。
息子がいる今となっては、どんな理由で急に息子のケアに走り回る必要に迫られるかは全く予想がつかない。

そんなときに、自分が居ないことが理由で仕事に支障が出てほしくない。だからいつでも職場を去れるようにする。仕事を他人に押し付けるという低レベルな話ではない。自分がいま取り組んでいることを周囲から観測可能にする。自分の仕事や成果がどういう仕組で出来上がっているかを説明可能にしておく。普段の自分が誰と、どんなコミュニケーションを取っているかを隠さない。だから Slack は Public Channel を使うことを原則とし、メールは CC にプロジェクトのメーリングリストを必ず入れる。 メモはローカルファイルじゃなくて wiki に残す。

複雑な問題に取り組む職場では何が起きるかも不確実性が高いから、突発的に何かが起こって、状況が変わっても、「いつでも休めるように仕事をする」ことで、変化に対応できるようになる。

自分の仕事を他人に譲り、新しいことに手を伸ばす

そうやって、自分の仕事を「自分にしか出来ない仕事」から「誰にでも出来る仕事」に変えたり、「手を加えなくても動くようにする」ことで、自分の価値が無くなるのではないかと心配してはいけない。自分の仕事を手放す理由は、自分が次のステップに進んでより難しい仕事をするためだ。改めて「仕事はわらしべ長者」である。自分が仕事を与えたら、自分にとってもう少し価値のある仕事を手に入れる。その仕事を洗練させて、またそれを誰かに与えられるレベルまで昇華させていく。

大事なことはベイスターズが教えてくれた

こんな考え方で仕事をするようになったのはベイスターズのおかげだ。DeNA が球団を買収して最初に球団社長に就いた池田純は、ちょっと急進派なところがあって苦手だなと思う側面もあるけど、それまで全てが属人的だった球団のオペレーションを抜本的に見直した功績は、今のベイスターズの躍進につながっている。ここらへんは彼の著書に詳しく書いてあるが、「人が替わってもリセットされない組織にする」ことが重要だ。

そういえば、チームの編成でこの球団の礎を築いた高田繁も、最後の2年間は三原一晃球団代表を中心とした「組織を作る組織」づくりに心血を注いだ。最後の1年を迎えるに当たり、とあるムックに掲載されたインタビューに、「もう、僕がいなくてもベイスターズは大丈夫」という高田の言葉を見たときに、どこか寂しいけれども、この域に来たんだ、という感慨もあった。もちろん、球団編成という仕事は長期的に成果が残せて初めて評価される長大なプロジェクトだけれども。

そんな感じで、組織をロバストにしていければ良いんじゃないかと思っている、という話でした。

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