人にスイッチが入る瞬間(議会3日目)
人にスイッチが入る瞬間を見た。
釜石市議会、3日目。全日程で15人が質問する中、
ひとりだけ質問項目を「市長の所信表明について」しか提出してない議員。
今回、16年ぶりに選挙を経て就任した市長の初議会。
だから多くの議員が「市長の所信について」「市政運営について」
を挙げる一方で、ほかのテーマも質問している。
だけど、ひとりだけ、ひとつだけ。
全面対決するつもりだろうな、と思った。
案の定、その先輩議員の質問演説は10分間、
議会初日に市長が行った所信表明の中身の点検。
鋭く突き刺さる、しかもマシンガントーク。
に対して、市長はゆっくり、15分かけてすべてひとりで答弁した。
答弁の内容の大筋は市長、細部は役所、だろう。
所信表明の原稿自体、そうやってつくっている。
それは市政を預かる者たちとして当然だ。
ただ市長はそれを、一人で背負っている演出をした。
質問ー答弁はまだまだ続く。
一人1時間与えられているから、あと35分ある。
残りは部長や課長が答弁。
市長の出番はない。
ところが、最後5分。
議員が仕掛ける。
この3日間、医療問題が常にテーマに上がってきた。
釜石には、産婦人科も脳外科も循環器科もない。
岩手県の方針で、広域医療化されて、
重要な診療科はとなりの大船渡市に重点配備された。
市長は県議会議員時代、その過程をずっと見てきた。
先輩議員は、
「県議会議員なら県全体の利益を考慮しなければいけないだろう。
そうなれば、広域医療やむなし、だ。
しかし今は釜石の市長だ。釜石の利益が第一じゃないのか」
と肚をくくってくれと、話を向ける。
ホントに、市長の顔が紅潮したように見えた。
すっと立ち上がって、
「議員、その通りです!」
と。
スイッチ入った。
なぜ釜石から医療が奪われたのか、
岩手県の当局に尋ねても本当のことはわからなかった。
ただ推測するに、釜石出身の医者がいなかった。
だから釜石の病院で働いていても、
釜石に対する愛着はそれほどないだろう。
県の方針に抗うことはない。
一部奪われた医療は、次々とほかの部分も召し上げられた。
こんなに悔しいことはない。
だから、医者を育てよう、時間がかかっても釜石の子どもたちから医者になる人を育てようと思った。
幸い、震災前にはいなかった医学部進学者が、震災後は少数だけどでてきた。
(優秀な中学生は釜石市外の高校に進学するので、その生徒たちの大学進学先は見えにくいのが、釜石の現状)
希望はまだある。
中期的には、医者になる生徒たちをつくる、
医者になるために学んでいる学生たちを支援しながら、
一方で短期的に勝ち取るものを勝ち取っていく。
熱く語った5分間だった。
市長の本気が初めて見えた。