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線路の電流で病気を治そうとする無茶な話など/南山宏・ちょっと不思議な話

「ムー」誌上で最長の連載「ちょっと不思議な話」をウェブでもご紹介。今回は2013年4月号、第348回目の内容です。

文=南山宏

知らぬがハト

 2012年4月12日付「MXニューズ」紙によれば、フランスはストラスブールのアパート住人クレマン・ジラール老人(仮名)は、3年前に78歳で世を去ったが、独り暮らしで身寄りもいないため、その死にだれも気がつかなかった。
 たまたま破れ窓から入り込んだハトがラジオに止まり、スイッチが入って大音量で昼も夜も鳴りつづけたおかげで、ようやく隣人たちが騒ぎだし、警察に通報された。
 検死の結果、老人は自然死と判明したが、行政当局も大家も気づかなかったのは、アパート代などあらゆる料金が口座から自動引き落としされていたからだった。


理不尽な刑罰

 ベラルーシ共和国の首都ミンスクの裁判所は、アレクサンドル・ルカシェンコ大統領が2011年7月7日に行った国民向けの演説を″激しい拍手の抗議行動″で妨害したかどで、グロドノ市在住の失業者コンスタンチン・カプリンさんを、100万ベラルーシルーブル(約1万円)の罰金刑に処した。
 コンスタンチンさんは暴動を起こした群衆に加わってはいたが、じつは片腕しかない障害者だった。
 だが、片腕だけでどうやって拍手の抗議が可能だったのか、裁判官はひとことも説明をしなかった。
 この国では別の裁判でも、反政府スローガンを叫んだ罪で、ある聾唖(ろうあ)者が量刑を科されている。


ロボットこそ命

「あなたの脳を電脳工学的(サイバネティックス)アバターロボットにアップロードして、病気も死も老衰もない不老長寿を手に入れるお手伝いをします!」
 昨年7月、ロシアの若きベンチャー起業家ドミトリ・イツコフ氏(32歳)が、有力経済誌「フォーブス」恒例の世界長者番付で常連の億万長者たちに呼びかけた。
 その目的でハイテク研究プロジェクト「アバター」(もちろん巨匠キャメロン監督の大ヒット映画からとった)を創設したイツコフの構想はすこぶる単純で明快だ。
 向こう10年以内に電脳工学的人工肉体のアバターロボット(そっくりさんサイボーグ)を製作し、依頼人の脳髄を移植する。
 それから10年以内に、依頼人の臨終の際、人格を転写した人造脳をアバターに搭載する。
 最終的にはさらに10年以内に、依頼人の″心″をホログラム状アバターにアップロードする。
 イツコフ氏はこの究極のゴール達成を目指し、優秀な科学者30人を雇用ずみで、広く世界中から金に糸目をつけない大金持ちの顧客を事業投資家ともども募っている。


懐妊椅子

 イギリスはミルトンケインズのベストウェスタンムーアプレース・ホテルのフロント係の女性たちは、デスクの青い回転椅子を使うことを断固として拒否している。
 受付の仕事中にその椅子に坐った同僚女性7人――エレーン・レッドスター、キム・ギドレー、ローラ・バーチル、ジーナ・リプレー、アリス・グリスレー、クレア・フィチェット、セラン・デインズの諸嬢が、わずか1年6か月のうちに次々と妊娠したからだ。
「最初は冗談話だったが、妊娠者が増えるにつれて、気味悪がられるようになった。今では″懐妊椅子″という仇名までついて、女性社員みんなに敬遠されてます」
 とホテル総支配人のジャイルズ・ショーさんは困惑している。


感謝の激突

 米ペンシルヴェニア州リーディングのトラック運転手、リチャード・ペイラーさん(55歳)は、車がコンクリートの壁に激突したおかげで、かじっていたリンゴを喉に詰まらせた窒息死から生還した。
 つかえた瞬間、目の前が真っ暗になって激突したのだが、その衝撃でリンゴのかけらが気管からはずれ、窒息せずに助かったのだ。
「あの壁には感謝しなけりゃいけないと思う。窒息死の代わりに衝突死だってありえたんだものね」
 とは命拾いした当人の感想。


神輿還る

 1200年以上昔に創建された宮城県山元町の八重垣神社は、海岸に近かったため、東日本大震災の津波に社殿も鳥居も社務所も、すべて跡形なく押し流された。
 神社だけでなく周辺に住む氏子の家屋約300戸も、数戸を残してあとはみな流失してしまった。
 だが、例祭の掉尾とうびを飾る神輿渡御〈神輿を担いで海に入る儀式〉に使われる神輿だけは、奇跡的にほとんど無傷のまま発見された。
 祭神・素戔嗚尊すさのおのみことのご神意が働いたのか、周囲がすべて流される中でただ1軒、辛うじて津波に耐えた住宅の室内に流れ込んだのだ。
 その家は八重垣神社の氏子をまとめる元総代長の自宅だった。


レール療法

 インドネシア当局は、医者にかかる余裕のない貧困層の間に流行りだした、危険すぎる治療法をやめさせようと躍起になっている。
 電車のレールに寝転んで、そこに流れる電流で病気を治そうという、新種のトンデモ代替療法(オルターナティヴ・セラピー)だ。
 首都ジャカルタ郊外ラワブアヤ付近の電車線路には、脳卒中で麻痺した体を悲観した華僑の男が自殺しようとレールに近づいたらケロリと治った、という風説に誘われて、毎日20人以上は現れる。
 じつはこれでも、業を煮やした国営鉄道会社が現場に立ち入り禁止の看板を押し立てて、「違反者は3か月以下の禁固刑または1500万ルピア(約15万円)の罰金刑に処する」と警告するまでは、日に50人は下らなかったそうだ。
 ″レール療法″はほかにも高血圧、糖尿病、リューマチ、不眠症など万病に効能があるとされる。
 原理的にはたしかにレールには電流が通っており、架線とレールに同時に触れたり、水溜まりを避ければ感電はしないが、走る電車に近づくのは危険きわまりない。
 しかし、半身麻痺のハジ・ウィノト氏(50歳)はひるまない。
「どうしても治りたいから、これからも通うのをやめないよ」
「接近する電車から電流が押し寄せるのを感じた」というスリ・ムルヤチさん(50歳)も主張する。
「私も持病が完治するまで続けるわ。高血圧も不眠症も高コレステロールもみんな軽くなったのよ」


(月刊ムー2013年4月号掲載)

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