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天を覆い象を狩る風説の巨鳥「ロック鳥」/幻獣事典

世界の神話や伝承に登場する幻獣・魔獣をご紹介。今回は、ペルシアに伝わる巨大すぎる鳥「ロック鳥」です。

文=松田アフラ

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ゾウを掴んで舞うロック鳥。チャールズ・デトモンド画。

 ロック鳥は、8世紀ごろに成立したとされるペルシアの説話集『千夜一夜物語』に登場する巨大な鳥である。

 話によれば、船乗りシンドバッドはその2回目の航海において、とある島にひとり取り残されてしまう。その島で彼は「空高く聳え、回りが途方もなくある白亜の大伽藍」を見つけた。間もなく大きな雲が太陽を覆い隠したので「顔を上げてみると、雲は一羽の巨大な鳥にほかならなかった」という。先ほどの伽藍と見えたものは、この巨鳥の卵だったのである。シンドバッドはこの鳥の脚に自らの身体を括りつけ、島からの脱出に成功する。

 13世紀の旅行家マルコ・ポーロの著名な旅行記『東方見聞録』においても、この巨鳥が語られる。曰く、それはインド洋の「モグダシオ島(マダガスカル島と考えられる)」に棲息する「素晴らしく巨大でかつ強力な鳥」であり、「一頭の象をその爪で攫って楽々と空中高く吊上げることができ」「大空に高く吊し上げた象を地上に叩き落して粉砕し」「嘴で肉を裂き餌食としてこれを平らげ」「両翼の全幅は30ペース(約4.6メートル)に達する」という。

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シンドバッドはロック鳥の巨大な卵と遭遇する。19世紀の挿絵。

 しかも彼は、チンギス・ハーンの使臣がモグダシオ島から持ち帰ったこの鳥の羽毛の現物を実見したとまで主張している。「本書の語り手たるマルコ・ポーロその人が自分で量ってみたのであるが、何と驚くなかれ、その長さは90スパン(2メートル)、羽茎の円周は2パーム(40㎝)にも及んでいた」とある。マルコ・ポーロ自身はこの巨鳥を「グリフォーン」と呼んでいるが、島の原住民は「ルク」と称しているという。

 幻獣としてのロック鳥はただ単に「巨大な鳥」というだけで、これといった特徴や能力に乏しい。一説によればこのロック鳥の正体は、マダガスカルに生息していた史上最大の巨鳥エピオルニスであるという。エピオルニスは高さ3.5メートル、体重500キロにおよび、卵も駝鳥の卵の2倍もある。この鳥は17世紀まで棲息しており、マルコ・ポーロがその存在を知っていたとしても不思議はない。
 ただし、エピオルニスの翼は退化しており、空を飛ぶことはできなかった。ロック鳥の正体が話に尾鰭の付いたエピオルニスであるとするならば、この巨鳥は本連載でこれまでにご紹介していた幻獣たちとは異なり、現実世界と精神界の境界近くに位置していた幻獣であるといえるだろうか。

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マダガスカル島に実在した世界最大の巨鳥エピオルニス。



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