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月がだんだん地球から遠ざかっている、という話など/南山宏・ちょっと不思議な話

「ムー」誌上で最長の連載「ちょっと不思議な話」をウェブでもご紹介。今回は2013年5月号、第349回目の内容です。

文=南山宏

山上に落ちた男

 2011年2月の真冬、オーストリアはマルニッツ付近の標高2000メートル、雪のアルプス山上で、高価なデザイナーシューズを履いたスーツ姿の男の死体が、うつ伏せの状態で発見された。
「とてもあり得ない。防寒服も登山靴もなしに、こんなに高い冬の雪山を歩いて登ってくるなんて」
 警察のスポークスマンは語る。
「現場は雪と氷ばかりで、滑落しやすい場所だ。飛行機から落ちた可能性ぐらいしか考えられない」
 さすがにほかの場所から″瞬間移動(テレポーテーション)″した可能性は無視された。
 遺体は東部アルプスの山上からヘリが吊り上げて運び去ったが、男の身元は現在までのところまだ確認されず、不明のままである。


風に舞う紙幣

 米オハイオ州コロンバス北方、ルート23号線の中央分離帯付近で2011年3月7日、紙幣がばらまかれているのが発見された。
 通りがかりの車のドライバーから「窓の外にドル札が舞ってる」と通報された警察は、現場で数時間かかって、ようやく合計1万ドル以上の紙幣を拾い集めた。
 FBIに照会し、銀行や現金輸送車を走らせる警備会社にも問い合わせたが、当時どこにも強盗事件や紛失事件はなく、現金の出所はわからずじまいに終わった。


犬鳴山の案内犬

 白い紀州犬クウ君(4歳)は、大阪府泉佐野市は犬鳴山七宝瀧寺(いぬなきやましっぽうりゅうじ)近くのカフェテラス″空″の看板犬だが、近年お寺の参拝客が山道に迷わぬように案内する親切なワンちゃんとしても有名になった。
 飼い主の話では、教えたわけでもないのに、生後1年ほどすると自然にやるようになったという。
 ただし参拝客ならだれでもというわけではなく、しばらく観察してから″波長が合う″(?)人だけを選んで、道案内に立つそうだ。
 ちなみに犬鳴山という地名の謂(い)われは、猟犬が急に吠えたため猟師が狙いをつけた獲物のシカを穫り逃がしたという昔話からとか。
 猟師は激怒して愛犬の首を切り落としたが、それでも首は宙を飛んで、大蛇の頭にかぶりついた。
 猟師は初めて愛犬の吠えた理由が大蛇の危険を知らせるためだったと知った、という悲しい伝説だ。
 ひょっとしたらクウは、昔話の忠犬の生まれ変わりかも?


自動駐車

 昨年1月7日付「キャンベラタイムズ」紙によると、オーストラリアはアデレード市郊外の丘陵地帯、アデレードヒルズのショッピングセンターからステーションワゴン1台が盗まれたとの通報があり、警察が盗難車捜索を開始した。
 17日後の1月4日、当のワゴン車は近所の家のガレージ内で無事に発見されたが、発見のきっかけは、その家の住人が正月休みの旅行から帰宅して、ガレージに入っている見知らぬ車を見つけ、警察に届けでたことからだった。
 ワゴン車は持ち主が購入して2日後に姿を消したが、実は盗まれたのではなく、ブレーキをかけ忘れたため駐車場からひとりでに斜面を走りだし、通りを横断して私道に入ると、ガレージのシャッタードアから押し入ってやっと停止したもの、と警察は見ている。


さよならムーン

「最有力視される月の生成理論が正しければ、月は地球からだんだん遠ざかっているらしい!」
 月専門学者の大多数がこれまで支持してきたそんな仮説が、このほど精密なコンピューターシミュレーションによって立証された。
 スイス・ベルン大のアンドレアス・ロイファーら4人の天文学者チームが惑星科学誌「イカロス」昨年7月21日号で報告した研究結果によれば、創成後間もない約45億年前の地球に火星サイズの小天体が衝突して月が生みだされたとき、両者はたった2万2500キロしか離れていなかった。
 だが、その後、月が地球を公転するにつれ、ごく僅かずつ速度が上がって軌道がしだいに高くなり、現在では両者の距離は40万2336キロにまで広がっている。今後も月は年平均3.78センチずつ、地球から遠ざかっていくそうだ。
 地球自身の自転速度も、月が誕生した直後は1日がたった5時間と速かったが、月の引力にブレーキをかけられて徐々に遅くなり、今では1日24時間になった。これからも減速は止まらないという。
 このシミュレーション結果を裏づける生物学的証拠もある。
 サンゴ化石に残された成長速度の年輪を調べると、過去45億年間年々日が長くなり、現在でちょうど19時間遅くなった計算になるそうだ。
 ちなみに年に3.78センチずつ遠ざかる速度というのは、指の爪が伸びる速度に相当するとか。


偶然の軍隊ラッパ

 引退したエンジニアのモーリス・グリーン氏(73歳)は、英国サウスヨークシャー州ロザラムのフリーマーケットで、そのくたびれた古ラッパを一目見たとたん、どうしても買いたくなり、たった5ポンド(約7百円)で購入した。
「自分は1950年代に陸軍にいたので、当時配属されていた大隊の勲章を捜していたら、たまたまこのラッパを見つけたんじゃ。煤みたいに黒く汚れていたが、陸軍認識番号が最初の3桁まで祖父のそれと同じなのに気がついてね」
 家に持って帰って汚れをぬぐうと、たしかにランカスター連隊第8ヨーク大隊で鼓手・ラッパ手を務めた祖父ダニエル・クレイ氏の持ち物そのものと判明した。
 クレイ1等兵は第1次世界大戦たけなわの1916年7月1日、フランス西部戦線の″ソンムの戦い″で、26歳の若い命を散らした。
 おそらくクレイ氏が突撃ラッパを吹き鳴らしながら、一丸となって塹壕から飛びだした大隊兵士703名のうち、最後まで生き残ったのはたった68名だったという。
 同大戦最大というこの激戦で、英国陸軍はわずか1日で史上最悪の死傷者6万人を出し、クレイ氏の遺体もついに還ってこなかった。
 祖父が遺した当時6歳の娘ハリエットは、85歳で他界する前に息子モーリスに祖父の勲章を譲ったが、そこに記された13202という認識番号が、マーケットで見つけた古ラッパの旧所有者の身元を突き止める手がかりとなった。


(月刊ムー2013年5月号掲載)

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