眼科のせんせい
私は部活を引退した高校3年生後半頃から視力が落ち、それ以来コンタクトレンズを使っている。
私は土日祝も診察しているという理由で、とある眼科に5年程通っている。
以前は半年に1回眼科を受診し、レンズを処方してもらっていたが、近年は1年に1回だけになった。
頻度が減った理由は、そこの眼科の先生だ。
医院に入り、受付を済ませ、待合室で待つ。
ほどなく呼ばれ、処置室のようなスペースへ移動する。
そこで、スタッフの方が、視力検査や機械で見え方を確認してくれて、レンズの度数や種類の変更がないかの問診を受ける。
そして、最後に医師に眼の状態を診察してもらって、コンタクトレンズの処方箋を書いて貰えば終了だ。
「○○さーん、診察室へどうぞー」
スタッフの方が私を呼んだ。
私は立ち上がり、診察室に向かう。
そして診察室に一歩足を踏み入れた。
そこには、眼を見る機械の前の椅子に、どっしりと座り、私を待ち構える男性の姿に直面する。
私は最も効率良く視界を遮ってくれる位置に、患者用の椅子をずらして座った。
その男性は、半袖の白衣の下に、赤いTシャツを着て、何かの宗教団体のシンボルを型取ったような謎の金属のネックレスをしている。
そのスタイルは季節を問わず、毎回同じなのである。
そうだ、そうなんだ、この男性こそが、眼科の先生なのだ。
「今年もこの時間が始まる」
私は気を引き締めた。
「はい、では眼を見ますのでこの機械にアゴを乗せて下さい」
「遠くを見ていて下さい。次は上、下を見て下さい」
「はいっ、特に問題はないですね」
診察室にいる時間はいつも約30分。
しかし診察は5分。
残りの時間が始まる。
先生は目に良いとされる食品やサプリメントなどを紙に書きながら、マシンガンのようにトーク。
私はこれは毎回聞かされるトークテーマだなと思いつつ、情報がアップグレードされているのにも気付く。
まぁ一応聞いている雰囲気を出すが、興味はない。
その後も、健康に関する情報について、過激なジョークを交えながら、ハイスピードで言霊を放つ。
私はそれを何とか受け流すのに必死だ。
医師は1人しかいない。
診察室のドアは大体開けっ放しであり、会話の内容が待合室まで聞こえていそうだ。
待っている患者さん達は
「くだらない話せんで、早く診察終わらせろー」
などと思っているに違いない。
終盤に差し掛かると、足元にある引き出しから、遂に念願のコンタクトレンズ処方箋を取り出す。
「これを書いてくれたら終わりだ」
と安堵するも束の間。
用紙の上でペンを持つも、書かない。
ペン先が度数を記入する枠の中に向くもの、書かない。
先生の顔と用紙をチラチラと交互に見ながら、無言の圧力をかけるも、書かない。
ペンは用紙の上を動いてはいるが、書いてはいない。
私は「はよ書かんか」と心の中で叫ぶ。
ペン自身もまた同じ気持ちであろう。
シビレを切らした私は、診察を強制終了させようと、椅子に半尻で座り、立ち上がろうする素振りを見せる。
先生がその動きに気付いたようで、遂に処方箋を書いてくれた。
そしてカルテを見直し、最終チェックしているのかと思いきや、
「えっーと、ワクチンは何回打ったんでしたっけ?」
という振り出しに戻りそうな一発を放たれた。
そこから、ワクチンに関する情報を10分程度。
皆さんお察しのとおり、私が発した言葉は「そうなんですね」だけであった。
遂に先生から
「はい、ではお疲れ様でした」
の声が聞かれ、私は解放された。
診察室から出た瞬間の、待合室の方々からの刺すような視線から目を背けながら、医院をあとにした。
先生、また来年会いましょう。
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