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グリホサートとその危険性について調べてみた

きっかけ

twitterのタイムラインに、こんなツィートが流れてきた。

2013年以降、日本は農薬・添加物・遺伝子組み換えの承認国世界一。2017にはWHOが発がん性があると実証中の #グリホサート農薬の残留基準値をトウモロコシ5倍 、小麦6倍、甜菜75倍、そば150倍、ひまわりの種400倍という、米国もビックリ仰天するほどのレベルまで引き上げやがった。間接的大量殺戮。

このツイートを見た印象では、日本ではここに書かれている作物への農薬「グリホサート」の使用量が他国よりも多く、グリホサートは発がん性のある危険な農薬なので、日本の作物はめちゃくちゃ危険だ、と言っているように感じた。

普段ならこの手のネガティブなことを極端な表現をもちいているツイートは基本スルーしているし、そんなにバズっているというほどのRT・いいね数ではなかったが、私の好きな有名な料理研究家の方がこのツイートの内容を認めるコメントつきでリツイートをしていたので、とても気になってしまった。
その料理研究家の方はメディアでの露出も多く、タレント的に活躍されていてるので、その方がこの内容を認めることで、ぱっと見、鵜呑みにして真実と捉える人が多いのではないか、という予感がしたのだ。実際、このツイートに対して、甜菜糖や蕎麦を恐れるようになったというリプライをしているユーザーもいた。

私の家では朝食はパンと決まっており、よく手作りパンを作っている。また、蕎麦も大好物だ。家族に小さな娘もいるため、もしも本当だとしたら我が家の食に関する方針を見直さなければならないので、ちょっと調べてみようという気になった。気になるのは下記の点だ。

1. グリホサートとはいったい何なのか?
2. グリホサートが危険という根拠は?
3. グリホサートの基準値引き上げ後の数値は、他国と比べて高いのだろうか?
4. 実際日本で生産された農作物のグリホサート検出量はどのくらいなんだろうか?

特に気になるのは4点目で、いくら基準値が高いとはいえ、実際の生産物から検出された量が基準値を大きく下回ったりしていれば、基準値だけを取り上げて危険とは言えないと思うのだ。

それでは、これらの点から、これからも大好きなパンを焼き、蕎麦を心置きなくすすれるのかどうか、調べてみようと思う。

グリホサートはいったい何なのか?

まずはグリホサートとはなんなのかを調べてみた。グリホサートは、アメリカのバイオ化学企業モンサント社の製品「ラウンドアップ」という、世界的に超メジャーな除草剤に含まれる有効成分らしい。
ラウンドアップは普通にドラッグストアでも売られていた。

写真 2020-05-26 10 55 28

ネット上の記事をいろいろ調べると、世界中でグリホサートおよびラウンドアップは危険と判断され、販売・使用の禁止が広がっていると判を押したように書かれている。

アジアではベトナム、スリランカがグリホサートの輸入を禁止、EUではオーストリアやドイツがグリホサートの全面禁止を決めた。フランスは2023年までに段階的に廃止する。チェコは2018年収穫前にグリホサート散布を禁止、デンマークもすべての作物の出芽後の散布を禁止している。イタリアは公共の場での使用を禁止、ベルギーやオランダは専門家以外への販売を禁止した。
農薬「グリホサート」、世界は削減・禁止の流れなのに日本は緩和!? - MSNニュース

しかし、2020/5/26時点で、たとえばドイツのAmazonを見てみると、ラウンドアップは普通に販売されている。上記の記事の文章としては「グリホサートの全面禁止」だが、ラウンドアップはグリホサートを用いているので、この記事の通りであればラウンドアップがドイツのAmazonで販売されている状況と矛盾しているように感じる。

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リンク先:Amazon.de

そのほか、あたかも「グリホサート/ラウンドアップは世界中で禁止されているにもかかわらず、日本だけが使用が許可されている」といったような表現をしている記事もあったが、この「世界中で禁止されている」という言い方は正確ではないだろう。

いっぽう、個人の方で各国や各国の地方での規制情報を細かくまとめられている方もいた。

https://www.facebook.com/InyakuTomoya/posts/3272881229405351

上記の各国の一次情報まであたることはできなかったのでなんとも言えないが、結論としては「グリホサート/ラウンドアップは世界中で禁止されている」という表現は誤解があり、「グリホサート/ラウンドアップの使用を禁止している国もある」程度のものではないだろうか。(禁止は今後広まっていくのかもしれないが)

グリホサートが危険という根拠は?

なぜグリホサート/ラウンドアップを禁止している国があるというと、日本の多くのメディアが言うには「発がん性があって危ないから」だ。それでは次にグリホサートの危険性について調べてみよう。グリホサートの危険性を訴える方々が引き合いに出すのは、国際がん研究機関「IARC」がグリホサートを「おそらく発がん性がある」というグループ「2A」に分類した、というものだ。

国際がん研究機関(IARC)の概要 - 農林水産省
国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer, IARC)は、世界保健機関(WHO)の一機関で、発がん状況の監視、発がん原因の特定、発がん性物質のメカニズムの解明、発がん制御の科学的戦略の確立を目的として活動しています。
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/hazard_chem/iarc.html

この説明を見るとグリホサートは危ないで決まりじゃん!という気がしてくるのだが、私はこのIARCがどんなものかよく知らないので、まずはIARCのことを調べるとともに、IARCが「おそらく発がん性がある」と認定した点から、グリホサートが危険と言えるのかどうか調べてみる。

IARCはWHOの一機関だそうだ。この記事の冒頭に挙げたツイートの「WHOが発がん性があると実証中の」というのは正確には「WHOの一機関であるIARCが、おそらく発がん性があると認めた」だろう。IARCのウェブサイトを見に行くと、確かに2017年に2Aに追加されたようだ。(2015年に追加となったという意見もある。謎)

List of Classifications - IARC
https://monographs.iarc.fr/list-of-classifications

この2Aというグループは、動物実験における証拠では十分だが、ヒトにおける証拠は限定的、という判断のようだ。

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出典:「くらしの中の電波一般社団法人電波産業会 電磁環境委員会」https://www.arib-emf.org/01denpa/denpa04-03.html

さて、このIARCが「2A」グループに分類している他のものを見てみると、たくさんの化学物質が並ぶ中で、ごく一般的な農薬の「Malathion(マラチオン、マラソン)」もあったり、「それはどうなの」といったものもある。
例えば、「Red meat (consumption of) = 赤身肉(の消費)」「Night shift work = 夜勤」「Frying, emissions from high-temperature = 揚げ物、高温からの排出」といったものだ。
これらを見た個人的な感想としては、「IARCが『おそらく発がん性がある』というグループ『2A』に分類したからといって、ただちに騒ぐべきものではない」と思う。
参考までに、ほかのグループの一例も記載しておく。最も危険な「グループ1」のものでも、生活上不可避なものがいくつかあると思う。

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出典:「くらしの中の電波一般社団法人電波産業会 電磁環境委員会」https://www.arib-emf.org/01denpa/denpa04-03.html

いっぽう、グリホサートの安全性を主張する記事を見つけたので紹介したい。下記では、グリホサートの安全性についてつっこんだQ&Aを掲載しており、内容もロジカルで分かりやすいと思った。要は、安全性は科学的に証明されている、ということのようだ。

ラウンドアップの安全性について:よくあるご質問(FAQ)
https://agrifact.dga.jp/faq_detail.html?id=1&category=5&page=1

ただし、この記事を掲載している「農業技術通信社」の立場として農薬ビジネスにどれくらい関与しているのかまでは調べきれず、このQ&Aがポジショントークなのか、そうではなく中立的な立場として意見しているのかどうかはわからなかった。

結論としては、「多くのメディアが危険と謳う根拠にしている、WHO/IARCが、おそらく発がん性があると認めたから」は根拠に乏しく、一方、用法・用量を守れば科学的にはグリホサートの安全性が証明されている」というところだろう。

グリホサートの基準値引き上げ後の数値は、他国と比べて高いのだろうか?

この記事の冒頭のツイートをもう一度引用したい。

グリホサート農薬の残留基準値をトウモロコシ5倍、小麦6倍、甜菜75倍、そば150倍、ひまわりの種400倍という、米国もビックリ仰天するほどのレベルまで引き上げやがった。

この残留基準値を引き上げたという情報のソースはここだろう。

残留基準値 - 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/1225-2.pdf

てっきり農林水産省かと思っていたら厚生労働省というところが意外だった。労働者の立場から、ということだろうか。
たしかに、引用ツイート通りの引き上げが行われている。それでは、この基準値は国際的にみてどうなのだろうか。

こちらも、厚生労働省のウェブサイトに国際基準値を記載した資料があった。

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出典:
・薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会農薬・動物用医薬品部会報告 - 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/1225-2.pdf

この資料の「参考基準値」の「国際基準」が本当だとするならば、2017年に日本が行った基準値の引き上げは国際基準に合わせたように見える。
そうであるとするならば、引き上げの倍率だけ見ると異常に見えるが、そもそも国際的に見たら従来の値が低すぎた、とみるべきだろう。

なのでこの話の結論としては、「日本が2017年に行った基準値の引き上げについては、国際基準に合わせたもので、この引き上げた倍率のみを持ち出して、諸外国に比べて突出した値に引き上げたとは言えない」というのが私の意見だ。

実際日本で生産された農作物のグリホサート検出量はどのくらいなんだろうか?

最後に、実際日本で生産された農作物のグリホサート検出量について調べていきたい。
もし基準値が引きあがったからといって、実際に検出される量が少なければ、2017年の引き上げ率を引き合いに出して、まるで急に日本の農作物が危険なものになった、という言い方はできないはずだからだ。

検出量については、日本の「農民連食品分析センター」という施設が分析を行っていた。
結論から言えば、たとえば小麦について輸入では検出が認められるものの、従来の基準以下であり、国産品にいたっては検出されなかったという結果になっている。

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出典:小麦製品のグリホサート残留調査1st - 農民連食品分析センター
https://earlybirds.ddo.jp/bunseki/report/agr/glyphosate/wheat_flour_1st/index.html

この結果からみると、少なくとも小麦については国産品を選ぶ限りはグリホサートの摂取にはならないようだから、もしもグリホサートが危険だったとしても心配はなさそうだ。

おわりに

今回、内容が食に関わるものという事もあり、ついつい熱を入れて調べてしまった。
冒頭のツイートを振り返ると、倍率以外の言い方についてはデタラメだなあ、というのが正直な感想だ。
ツイッターは文字数制限があるので、その制約の上で表現を選んだのかもしれない。真意はわからない。
今回調べたことで、例えば冒頭のツイートのようなことを言う人と、一つ一つ問題点についての話し合いはできるようにはなった自信が身についてよかった。これからもツイッター上の情報をまるっきり鵜呑みにせず、きちんと調べて自分の言葉に置き換えれるようにしていきたいと思う。

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