昔昔の詩の欠片の詰め合わせ02


ビル群の呼気

とけだした僕の躰が君を包み込み二人がひとつに混じり合う。君の目で見る街の、ビルは化物の形をしている。たった一人の神様のために獣を殺して生きてきた彼らは。そうして、自分の理想とする死に様を模索し、時に夢想し今日も生きる。暮れてゆく空を見上げるとそこには明日が鎮座している。今日も死ぬこと叶わずと笑っていたのは誰か。聞き覚えのある、虫の歌声が思考を遮り目の前を通りすぎていった。

朝の街

楽園へ 空高く 飛ぶように
祝福を 驚くべき 奇跡に
あの日 なくした 宝物が
私のもとへと 戻ってきた

祈りを捧げる その姿は まるで聖女
あけてゆく空が 貴女を照らす
一筋の光が地上へと伸びる
その先には いつか 貴女を救った誰か

昨日なくした魂と今日うまれる命

朝焼けに 動き出した街の鼓動
ひっそりと 人の吐息 笑い声
ありふれた光景に、けれど誰かが救われた
誰一人として気付かない奇跡もある
なんでもない風景で、けれど誰かが害われる
誰にも気づかれない失望がある

それでも
連綿と命が続いていくから
また息をする

インクの出ないボールペン

まるで僕みたいと笑ったのは誰だったろうか
いらないから捨てちゃえと
そう言って投げ捨てたのは誰だったろうか

地獄の果の楽園の

二人は落ちた、地獄の底。輝く星はもう見えない
灰に澱んだ空の下、二人きり。此処に楽園を作ろう、と君。

小さな家と、それから広い庭。
その真ん中に大きな大きな林檎の木を育てよう

一番小さい林檎を失くした君の、微笑みと
輪廻から弾かれて永久に続く罪と罰の中
それでも、此処には確かな幸せがあるのだと。

僕達の間を繋ぐ糸は真っ黒で
雁字搦めに絡まり合って解けることはない
君はやっぱり笑っていて、ずっと一緒だと言う

君の微笑みを見るたび僕は。

(君は、あの日を、僕達の出会いを、それに伴うすべての事象を、後悔しているかい?)

その問いが今の君にとって何の意味もないことを知っている僕は、のど元まで出かかった言葉を心にしまい込む
鍵をかけた僕の想いはどんどん膨らんで
やがて飽和し、溢れ出るそれは林檎の木に大きく赤い罪を実らせる

そうして生った一番大きく一番赤い林檎で君はアップルパイを作るだろう
だから僕は一等美味しい紅茶を用意して
二人だけのお茶会でも開こうか

繰り返し積み上げられた罪と罰は数知れず
君とともにある限り落ち続けるのだとしても
僕は君の手を離すことなど出来やしない

今日も林檎の木の下で灰色の空を見上げながら
君と手を繋ぎ、生き続けている


いつか、君が、なくした最初の林檎を取り戻したとき
きっと君は僕を罵るだろう

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