先生に恋をしていた話

高校生の頃、先生に恋をしていた。

恋愛をしていたわけではなく、文字通り“恋をしていた”

先生は、特別若くてかっこいいとか、面白くてみんなの人気者、ではないけれど、清潔感がありスマートで飄々としていて、どこか愛らしい人だった。

女子校育ちゆえなのか、生まれ持った性質なのか、私は今も昔も男性をアウトオブ眼中orロックオン対象のオスかの2択にしかできない。

先生は、出会ったその瞬間からオスだった。気になってしまったが最後、寝ても覚めても恋がしたい女子高生はあっという間に恋に落ちた。

常に一番前の席を陣取り、雑談に茶々を入れ、授業後に必ず話しかけて、何の興味もない応用問題の質問をし、何でもいいから職員室に行く理由を探した。先生のスケジュールを頭に入れ、この時間ならここを通る、と偶然を装って隣を歩いた。高校生活の中で最も頑張ったことは?と聞かれたら、「職員室に行く理由を探すこと」

朝起きて一番に先生のことを考える、ダサい制服に身を包みメイクは禁止だから精一杯髪を巻く、話したことは一言一句全部覚えていたくて何度も何度も頭の中で繰り返して、一人でにやけて、また好きになる。

先生は、時おり少女漫画のようなアクションをする少しキザな人だった。だけど、教師と生徒以上の関係なんて微塵も期待させてくれないくらいには現実のまともな大人だった。私だって、人より夢見がちではあるけれど、この恋が叶うことはないことくらい分かっていた。届くことも、叶うことも、散ることもないと分かっていたから、交わした言葉、視線、身振り、全ての瞬間一つ一つが宝物で、ずっとずっと続けばいいのにと思ってた。

先生に恋をした日から12年と少し、私はもうすぐ結婚する。奇しくも相手は、あの日の私が恋をした先生と同じ年齢だ。あんなに遠かったのに、あんなに大人だったのに。女子高生の私が、あれほど羨んだ名前も顔も年齢も知らない先生の奥さんは、案外こんな女だったのかな。

小さな小さな恋だった。何も芽生えることもなく、少女漫画の一コマにもならない、あまりに一方的な片想い。

それでも、人生最大の恋だった。





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