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『青天を衝け』第35回「栄一、もてなす」(2021年11月14日放送 NHK BSP 18:00-18:45 総合20:00-20:45)

今回はアメリカ合衆国第18代大統領ユリシーズ・グラント将軍(フレデリック・ベノリエル)(1)が来日[1879(明治12)年6月]し、それを栄一(吉沢亮)、千代(橋本愛)がもてなすというエピソード。グラント将軍のおもてなしの目的は、岩倉具視(山内圭哉)が述べていたように日本が一等国として認められ「条約改正」にも繋げていこうというものであり、こうした政府の意図に経済界も同調しての歓迎会企画であった。「条約改正」のためのおもてなし外交と言えば井上馨外務大臣(福士誠治)による「鹿鳴館外交」[1883(明治16)〜1887(明治20年)]がよく知られているわけであるが、グラント将軍来日の際のおもてなしは鹿鳴館外交の先駆けをなすものとしてもとらえられるかもしれない。

築地大隈邸に呼ばれた千代とよし(成海璃子)はそこで大隈綾子(朝倉あき)から井上武子(愛希れいか)、大倉徳子(菅野莉央)、益田栄子(呉城久美)を紹介される。井上武子は夫の馨とともに1876(明治9)年6月から2年間欧米に遊学し、帰国したばかりである。その武子に西洋のマナーなどを教わろうというわけである。

オープニング開け。グラント将軍来日三ヶ月前。栄一のオフィスに喜作(高良健吾)、大倉喜八郎(岡部たかし)、益田孝(安井順平)、福地源一郎(犬飼貴丈)が集まって歓迎の催しの算段。一方、大隈邸で武子はまずは歯を見せて笑うことや握手やハグなど親愛の情を伝えることが大事だと教える(本当にそう教えたかどうかは知らない)。千代は「おなごも変わらねばなりません」というが、これがなかなか悩ましい問題であった。明治の女性たちがその点どう悩んだかは、渡辺浩『明治革命・性・文明 ー 政治思想史の冒険』(東京大学出版会、2021)の「第7章 どんな「女」になれっていうの」に詳しい。それはさておき、マナー講習の集まりがいつの間にかコイバナに話が移り、盛り上がるのは世の常か。

栄一が自宅で将軍の歓迎文を読み上げる練習をしている。栄一は東京府民から予想以上に寄附金が集まっていて民も期待しているというが、一方でそれに対する批判も高まっていると喜作が告げる。街頭では自由民権派の沼間守一(オレノグラフティ)が歓迎会批判の演説をおこなっていた。再び大隈邸ではうた(小野莉奈)が父親の悪口は許せないと息巻いているが、この活発で聡明な長女は次回、東京大学教授で日本ではじめての法学博士の一人となった穂積陳重に嫁ぐ。

そしていよいよグラント将軍来日。船から手を振るシーンの撮影協力は、日本郵船氷川丸。一方、郵便汽船三菱会社では岩崎弥太郎(中村芝翫)がアメリカ国旗を振り回しながら「船を増やしや」と社員に発破をかけていた。

グラント将軍をもてなすため、夫人同伴での夜会が催されることになり、女性たちが衣装を披露し合うシーン。井上馨の姪で養女の井上末子(駒井蓮)も洋装ドレスで登場。大森美香はその末子に「西洋の男はとてもkindだけれども女を飾りとしてしか見ていないことがよくわかるわ」となかなか鋭いことを言わせている。うたや末子は明治の女として今後活躍していくことになる。

そして、グラント将軍の歓迎式典。さらに渋沢私邸を訪ねたいというグラント。栄一は困惑するのだが、千代は「ぐるぐるします」と言って、飛鳥山新居を大急ぎで整える。今回のハイライトはこの飛鳥山邸での歓迎シーン。栄一は「本当のもてなしは人のあったけぇ心」だと言う。それに応えて千代とよしは協力してグラント将軍一行を子どもたちの歌や煮ぼうとうなどでもてなすのであった。

グラント将軍一行はもてなしに満足し、無事に帰国の途につくのであったが、その船姿とオーバーラップして三菱の船団が映される。海運業を独占する三菱。そこに大隈重信(大倉孝二)を呼んで北海道開拓利権を要求する弥太郎。これが次回の「明治14年の政変」へと繋がることは言うまでもない。一方、三菱の一人勝ちは国のためにならないと栄一は、三井と組んで海運会社設立を画策するのであった。

ラスト。『東京日日新聞』に掲載されたコレラの記事に見入る千代。今回は千代が大活躍の回だったが、次回は……

注)
(1) Ulysses Simpson Grant,1822.4.27-1885.7.23 南北戦争時の北軍の将軍。南軍のリー将軍と並んで有名な軍人。陸軍軍人としてはじめて大統領職に就任。岩倉使節団訪米の際の大統領。大統領を2期8年務めたあと、2年にわたって世界旅行をした。

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