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多くのコストをかけて「職人の育成」をする理由

日本のものづくりを支えてきた高い技術をもった工場が、今、少しずつなくなっていることをご存知でしょうか? すでに、数年前には作ることができたものが、今はもう作ることができないという状況になっています。そんなものづくりの現場に危機感をいだいた村松さんは、現在「職人の育成」に取り組んでいます。

こんにちは、記者のカミュです。連載「村松啓市の仕事」では、世界で活躍するデザイナーの村松啓市さんの魅力や、その作品について、ご紹介しています。今回のテーマは「人材育成とコスト」です。

■職人の育成の背景で

まず、こちらの画像をご覧ください。村松さんの運営するニットブランド「AND WOOL(アンドウール)」の人気商品、「手編み機」で1枚1枚仕上げるストールです。

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1つ1つ少しずつ違うストールが大量に、、、村松さん、これはなんでしょうか?

これは。。。(笑)うちの会社は毎年6月末から7月上旬にかけて「棚卸し」をやるのですが、そのときに出てきた、正規品として販売できない大量のストールです。いわゆる「B品(規格外品)」と呼ばれるものですね。

それにしても、どうしてこんなにたくさんのB品ができてしまうのか不思議です。村松さんはニットの高い専門知識をもったデザイナーさんです。どんな素材をどんな編み方でどんな加工をすれば、どれくらいのサイズに仕上がるか、感覚的にほぼわかってしまうようなレベルなのに、どうしてこのようなことが起こるのでしょうか。

私たちのブランドでは、何らかの理由で外に働きに出ることができない人のために在宅ワークでの雇用創出をしたり、就労支援事業所さんに適正価格での(極端な低賃金労働にならないような)お仕事を発注したり、編み手職人を育成する取り組みなどを行なっています。大変ありがたいことに、私たちの活動を知って、協力してくれたり参加してくれたりする人が少しずつ増えてきています。その中には初心者の方も多く、最初はうまくできないことも多いんです。

ニットは、ちょっとした力加減で編み目が詰まってしまったり、そのせいで仕上がりのサイズが変わってしまったり、難しいですよね。

「雇用創出」や「編み手職人育成」のプロジェクトをやるために、私たちも製品の仕上がりに影響しないような作業工程を発注するなど、やり方はいろいろと工夫しながらやっています。最終工程は、専門技術をもった私たちスタッフが行いますから、これらのB品が市場に出回ることはありませんし、お客様に自信をもって提供できる品質のもの以外を流通させないことが、私たちブランドの信用にもつながっていくと思っています。だからこそ、どうしてもうまれてしまう「B品」でもあるんです。

■決して小さくないコストをかける理由

先ほどの写真のストールは、村松さんのブランドが取り扱っている、高品質な「シルクリネン」と「ベルギーリネン」を素材を使った製品です。

こちらが「シルクリネン」糸です。

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こちらが「ベルギーリネン」糸です。

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私たちのブランドの製品は、厳選した高品質な素材を使っています。ですから、B品といっても正規品と変わらない品質の素材を使い、正規品と同じ風合い出し加工を行なっています。サイズが短かったり長かったりはしていますが、それは製品規格に合っていないというだけで、上質なストールには変わりません。

それならば、B品として市場に出すことができなければ、コストもかかっていますから、村松さんのブランドの負担がかなり大きくなってしまうような気がします。

確かに負担が大きいです(笑)ただ、私たちはコストをかけてもこのプロジェクトに取り組む価値があると思っています。私たちが取り組んでいる「雇用創出」プロジェクトの話をすると、社会貢献活動をしていると、共感してくださる方も多いのですが、一方で「職人の育成」は、私たちブランドにとっては、急務と言っていいほど、自分たちのために必要なことなんです。

村松さんは今年から「& magazine:アンドマガジン」という職人たちによるWebマガジンを立ち上げて、運営を行なっています。このマガジンの中で村松さんは、工場や職人さんなど、ものづくりの現場を紹介する連載をもっています。

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ものづくりの現場では高齢化が進み、後継者もいないので、現在の職人さんたちがやめてしまったら、その技術は引き継がれません。そして、高い技術があるにもかかわらず、仕事が減ってしまっている小さな工場は、いつやめてしまうかわかりません。そうなれば、私たちは今のように品質の高い製品を作れなくなる可能性があります。というか、すでに私が15年以上デザイナーを続けてきた中で作った服は、今では再現できないものがかなり多くあります。そのような状況の中で「職人の育成」は急務なんです。

社会貢献でやっているのではなく、自分たちが製品を作れなくなる未来がくるかもしれないという危機感から、村松さんはコストがかかっても「やらなければ」と考えて取り組んでいるそうです。

■自分たちだけで何とかしようとしない

先月末から今月初めにかけて、村松さんたちのブランドの今年の「棚卸し」が行われ、村松さんたちも改めて、大量のB品を目の当たりにしたそうです。

私たちのブランドが「雇用創出」「職人育成」に取り組み始めてから、約3年ほどが経ちますが、最近は想像もできなかったほど多くの方に参加してもらえるプロジェクトにまで育ってきました。それはとてもうれしいことなのですが、、、このB品どうしよう、、、となりました(笑)私たちのような活動は、自分自身が先に倒れてしまったら、何の意味もありません。私たちがこれらのコストを背負うことで、その負担から活動を続けられなくなると、参加してくれている人たちもみんな一緒に倒れてしまいます。その責任はとても大きいと思っています。

村松さんはブランドのスタッフのみなさんと話し合って、自分たちだけで背負うのではなく、この活動に賛同して協力してくださる人たちに頼ることに決めたそうです。

今までも地元でのイベントでは、こういったB品も販売していましたが、今回初めての試みとして、オンラインでもこれらのB品の販売を行うことにしました。「なぜ、このようなB品がうまれてしまうのか?」「なぜ、その製品がB品なのか?」を丁寧に説明して、ご理解いただき納得してくださったお客様にだけ販売する。今回、それに挑戦してみることに決めました。

現在、村松さんのブランドの公式オンラインショップでは、B品のストールを1枚1枚写真に撮って、なぜそのストールがB品なのかを説明した上で、販売を行なっています。

ご興味のある方はこちらをどうぞ。

ワケありの商品ですから、それ相応に価格を下げています。私たちの活動に賛同してくださる方にももちろん買っていただきたいと思っていますが、「AND WOOL」の製品を一度ご購入いただいて、品質の良さを知ってくださっている方に、2枚目として、あるいは親しい方へのプレゼントとして、利用していただければいいなと思っています。

取り組みが広がっていくことで、これからもB品は確実に出てしまいます。それは覚悟した上で、今回の販売は挑戦だと村松さんはおっしゃっています。

私たちのブランドの上質なストールを、皆さんに知っていただいて、長く愛用していただければうれしいと思ってブランドを続けてきましたが、今回のように製品の品質だけではなく、製品の背景にあるストーリーにも価値を感じていただけたらうれしいと思っています。「ワケあり」商品の「ワケ」も一緒に購入していただく。それが、私たちの製品にかかわってくれるすべての人にとっていいことだと思っています。


商品と一緒に「ワケ」も買う。今の時代の消費のスタイルに合った考え方のような気がします。村松さんのブランドの新しい挑戦を、これからも追いかけていきたいと思います。


(記者:カミュ)


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