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シベリウス&ベートーヴェン

【過去の演奏会より】

日時:2024年3月16日(土) 15時から
場所:兵庫県立芸術文化センター大ホール

辻 彩奈(ヴァイオリン)
オッコ・カム(指揮)
兵庫芸術文化センター管弦楽団(管弦楽)

【演目】

シベリウス作曲 付帯音楽「クオレマ」より”鶴のいる情景”
シベリウス作曲 ヴァイオリン協奏曲ニ短調
シベリウス作曲 「水滴」 (アンコール)
ベートーヴェン作曲 交響曲第6番「田園」


シベリウスは愛国者でフィンランドのために作曲人生を捧げた、と習ったので「クオレマ」も自国を表す音楽だと想像がついていた。クラリネットが鶴の鳴き声を表現し、冷涼な雰囲気を感じさせる曲だった。

今日のメインはベートーヴェンの田園ではなく、ヴァイオリンの辻彩奈さんだった。おそらく満席に近い聴衆も彼女の演奏を聴きにきていたと思う。技術の高さ、音色の素晴らしさは、聴衆ばかりかオーケストラメンバーをも圧倒していた。演奏のどこを取り出しても行き届いた素晴らしいものだった。ソロの時の注目度はもちろん、オケだけの時でも舞台や客席の睥睨(へいげい)するように音楽を支配し、格の違いを感じた。想像以上だった。演奏の後の聴衆の反応も当然、割れんばかりの爆発的な拍手が続いた。まさに息を呑む演奏だった。

アンコールのチェリストとの二重奏、シベリウスの『水滴』はピチカートだけの曲だったが、ここでも圧倒的だった。

指揮者のオッコ・カムさんは冷静で安定した指揮ぶりだった。曲の解釈も自然で聴きやすかった。音楽的表現は抑え気味で、強弱も弱音が多く強調されるものだった。もしかしたらオケの特徴なのかもしれない。

兵庫芸術文化センター管弦楽団は、メンバーの在籍期限付きのオーケストラで、たびたびメンバーが変わっていく。それだけにサウンド作りに難しさがあると感じた。最前列のブロックで聴いたからかもしれないが、それぞれの楽器はそれなりに演奏していたが、パートやセクション、そして全体のグルーブ感があまり感じられず、楽器ごとの壁のようなものを感じた。特に田園は第1楽章からそれを感じさせられた。しかし曲が進むにつれてだんだん調子を上げていく感じはした。

東京交響楽団のコンサートマスター小林壱成さんがゲストで招かれ、オーケストラをまとめていた。音は実によく聴こえてきて、椅子を高く上げていた事もあり、とても存在感があったが、深く腰掛けていたため、両足がプランプランと宙に浮く違和感があった。きっと体幹を鍛えているからできる技なんだろうと思った。

音ミスや超高音のピッチ、繰り返しをするかしないかなどのミスはどこのオケでもつきものだが、今回第3楽章で管楽器の拍の数え間違いによる出トチリが数小節にわたって続いた。

この手のものは(私は)本番ではまず出会わないミスで、おそらく奏者が練習なしで初めて楽譜を見て吹いたか、曲をよく知らないことによるものだと思われる。聴衆も名曲「田園」を聴いたことがある人なら誰でもわかり、今日の演奏会の印象として強く残った出来事だったと思う。それでも指揮者が平然と振り続けていたのはさすがだった。

久しぶりに一人一人の演奏が見える場所での鑑賞だったが、後列奏者の様子は人が重なって見えにくいものの、近くの奏者の動きや服装の違い(ジャンプ台のようなハイヒールやハーフパンツなど)や楽器の直接音がわかって、普段にない楽しみがあった。

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