monologue 渡辺茂
何時までも醒めぬ夢を見ていた
押し寄せる悪夢を
現実と見境のない夢を
ただぼんやりと眺めていた
あの『本』を完成させる
その一つの思いによって
他の全てを失っても
私は構わないと思っていた
もう一つの意思が私を喰おうとも
何としてでも『本』を完成される
目の前にあるのは『死』
それが何度も私に覆い被さってきた
『本』の為なら死んでも構わないと思ったが
それでも死の恐怖には抗えなかった
その夢から醒めた時
目の前の景色が弾けた
そして一筋の光が
ようやく私に差し込んだ気がした
そんな私の背中を押したのは
優しかった祖母
背中で語ってくれた祖父
笑いかけてくれた母親
そして顔も声も知らない父親
『お帰りなさい』
そして同じように
私を信じてくれた妻と
側にいてあげられなかった息子に
迎えられるのだろう
ようやく私は帰ってきた
長かった夢から醒めて
本来あるべき場所に
生きて帰って来れた
ありがとう
こんな私の側に居てくれて
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