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大瀬:アメリカから帰国されたばかりの中、お時間ありがとうございます。今回のアメリカ出張もかなりハードスケジュールで、大変そうでしたね。

関:アジアに行くのと違い、時差が17時間も違う。さらに、4泊7日の強行軍でアメリカ国内の移動も長かったから本当に大変だった。けれども、アメリカの地でそこに暮らすアメリカ人と議論できたおかげでアメリカという国について少し深く知ることができた気がするよ。

大瀬:私も中学一年生の時に初めてアメリカのオレゴン州を訪れたのですが、ホームステイをしながら過ごした日々は本当に自分の価値観を揺るがすことの連続でした。まさに、自分が住んでいた田舎町を飛び出して初めて実感した「多様さ」だったことを今でも覚えています。

関:そうだね。日本とアメリカ合衆国、国という文化軸を使って比べた場合、僕たちがいつも考えている「多文化共生」の考え方に大きな違いがあるということを改めて実感したよ。

大瀬:数年前に先生と一緒に論文を執筆しているとき、「多文化共生」を英語ではどのように表現するべきなのか大きな議論になりましたね。

関:日本での多文化共生をどのように英訳するのかは未だに大きな議論の一つだと思う。多文化共生には定訳がないし、"multicultural coexistence" か "multicultural symbiosis" などが使われていたりするよね。「共生」という言葉をどのように訳すのかはもちろんのこと、「多文化」をどのように訳すのか、言い換えると「多文化」が何を指すのかが難しい。僕たちも当時論文を書いたときは、議論が尽きないまま締切を迎え、"multiculturalism”を使ったね。"Multiculturalism"は、多文化主義とも捉えることもあるよね。

大瀬:多文化主義は、多様な文化集団や異なる民族グループが同じ地理的空間に共存している状態のことを言いますよね。社会における多様な ”Culture”、文化的アイデンティティを尊重し、受け入れていますね。カナダやオーストラリアなどもこの考え方に沿って政治が行われていましたよね。

関:そうだね。核となる文化を定めず、多様な文化が平等に扱われることが重視されている。この過程には様々なフェーズがあるけれど、僕たちが学生交流プログラムを開催しているネパールなどでも同じことが言える。

大瀬:アメリカの多文化主義を、メルティングポットからサラダボウルの表現にすることが多くなりましたね。アメリカ人への「同化」という考え方から転換されているように感じますね。

関:それに対して、様々な議論はあるけれども日本における「多文化共生」は、アメリカやMulticulturalismを推進している国と比べると大きな違いがある。日本は、「日本人」という絶対的マジョリティ(多数派)が存在し、その周りにマイノリティ(少数派)がいるという社会構造の中で多文化共生が語られているんだ。

大瀬:多文化共生の対象は誰なのかという議論にも繋がってくると思いますが、「外国人支援」など、日本社会に適応『させてあげる』、マイノリティと呼ばれる人たちに変化を求め、同化を迫られているような雰囲気がありますよね。国という枠組みで話すと、日本人と外国人という考え方が出てきてしまいますが、そもそも多文化共生の対象は、日本人であるか否かには限定されないはずですよね。

関:まさに。日本における多文化共生は、マイノリティの人たちがマジョリティに合わせなければいけないし、マジョリティの人たちもマイノリティの人たちを「受け入れてあげよう」という気持ちのため、前提が平等でないとも言える。

大瀬:多様性の尊重の考え方は、日本の企業もはじめ社会で言われるようになってきていますが、社会的弱い立場にある人たち(Social Minority)をマジョリティ(Social Majority)の人たちは差別してはいけない、受け入れてあげようというような、優位に立つマジョリティ側が利用する言葉ともいうことができるかもしれないですね。

大瀬:2020年に「ナイキ」が、外国にルーツをもつ実在のアスリートの証言をもとに作った動画が話題になりましたね。「感動した」などの称賛がある一方で、「日本人の多数が差別してるかのようで不快」、「日本には差別は無い」のように日本をおとしめているなどの批判が数多く上がっていました。私は日本にいると、自分が無自覚にもマジョリティに属してしまっていますが、マジョリティである理由はこの構造的な不平等があるからこそなんじゃないかと私自身は思わされた出来事だったなと思います。

関:日本では、多文化共生という言葉自体に批判的な意見を示す人がいる事実も忘れてはいけないし、多文化共生の定義の曖昧さに批判も起こっている。多文化共生やダイバーシティなど使っていればカッコよく聞こえるような言葉も、実態は様々な問題を孕んでいることをAAEEで活動するような学生には知っていてほしいし、常にこの問題に向き合っていってほしいと思う。

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