見出し画像

八宮めぐると僕

 これ学生の頃からの俺の鉄板トークなんで、もう何度も聞いたことのある奴は多いよな。でも今日は初めての奴が多いからちょっとだけ話させてくれ。わりぃ田中、ちょっと席変わってくれ・・・

 よーし、じゃあ・・・まずアイドルの八宮めぐるって知ってる?・・・そうそう、ちょっと前のアイドルなんだけど、イルミネーションスターズっていうユニットでやってた、多分今でもググれば一番最初に出てくるよ。・・・そうそれそれ。真ん中のほんわかした子が櫻木真乃で、左にいる黒髪のが風野灯織、で、右の金髪が八宮めぐるね。
 実は俺、その八宮とは高校の時同じクラスだったんだよ。

 八宮って本名でアイドルやっててさ、俺も名前はなんとなく知ってたんだけど、まさか同じ学校にいるとは知らなくて、2年のクラス替えで一緒のクラスになったときにすげえびっくりしたんだよね。クラス替えの発表見て「なんか見覚えのある名前だな~」って思いながら教室入ったら金髪のすげえ目立つ子が教卓の前で友達とだべっててさ、それが八宮だったワケ。

 教室に入って自分の席を探そうとしたら、八宮が話を切り上げて俺の前に来てさ、「はじめまして!今回初めて一緒のクラスだね!私は八宮めぐる!1年間よろしく!!」って。このファースト・インプレッションは今でも一字一句覚えてるね。いきなり金髪美少女が距離30cmくらいで笑顔向けてきてさ、まあぶっちゃけ好きになったよね。そこから自分の席にどうやって着いたのか覚えてないし。

 八宮とはそれっきりだったんだけど、夏休み明けの始業式の後に席替えがあって、そこで八宮と隣の席になったんだよね。八宮がよくいう「主人公席」っての?教室の一番左後ろの窓側の席あるじゃん?あそこで、俺がその右隣。新しい席に着くなり八宮が「あっ俺くん、今日からお隣さんだね!よろしく!」って。また好きになっちゃったよね。

 やっぱアイドルって仕事が忙しいらしくて、ちょいちょい学校休むんだよね。で、次の日出てくると隣の席の俺に仕事中にあった出来事とかを面白おかしく話してくれるわけ。多分友達にも話してるんだけど、話し足りなかったりして、やっぱ席が近い俺が話しやすかったんだろうね。八宮から聞いた芸能界の話を聞いて、流石に疎い俺でもちょっと憧れたよ。

 中でも一番楽しそうに話してくれるのがイルミネのメンバーの話だったな。彼女らもみんなアイドルなんだけど、オフでも一緒に遊んだりしてるらしくて、もう完全にプライベートの友達みたいな感じらしいんだよ。そんな他愛のない話を聞くのがマジで楽しくてさ、誰でも1回くらいは「学校行きたくねー」ってことあると思うんだけど、高校2年生の1年間はマジで1日も思わなかったね。楽しすぎた。

 当然八宮は学校でも超有名人で、去年まで知らなかったの学校で俺だけじゃね?ってくらい有名だったよ。で、八宮って男子にも女子にもすげえフレンドリーだからめっちゃ告白されてるんだよね。マジで毎日じゃね?ってくらい。なんせ週に1日か2日は仕事で学校休んでるし、来てる日に狙いをつけて勝負に出るしかないからさ。昼休みになると告白しに来たであろう知らんクラスの奴が後ろのドアから頭をチラチラ出してるのよ。そいつらが来る度にすげー胸の中がざわつくんだよね。

 万が一、万が一にだよ?八宮がOKしたとする。すると、八宮は俺にしていた仕事の話とかイルミネのみんなの話をその彼氏にもするわけでしょ?それを考える度に血の気がスーッと引いて行くんだよね。『耐えられねえ』って。今風に言えばNTRとかBSSって言葉が近いんだろうけど、当時はそんな言葉ないし知らないから、ひたすら八宮がOKしないことを祈ってたよ。
 当然八宮の友達も俺と同じ、イルミネとか仕事の話は聞いてたんだろうけど、俺が見ている限り男子に話してるのは俺だけだったんだよね。席も隣で、俺もクラスに部活の友達がいなくて割と一人が多かったから、なおさら話しやすかったんだと思う。

 告白は例によって昼休みと放課後が多かったな。というか学生の頃ってここしか時間ないからな。呼び出す場所は結構いろいろで、階段の踊り場、校舎の裏、中庭とか色々だったよ。なんで知ってるかって?そりゃ気になるから毎回見に行ってたんだよ。せめてその目と耳で現認しないと怖いだろ。知らないところで八宮が誰かと付き合ってる――想像するだけで怖かったよ。

 ま、当然アイドルってこともあって八宮はみんな断ってた。断り方もマジでうまくてさ。3パターンくらいで返事してるんだけど、ちゃんと相手によって断り方が違うのよ。そもそも告白しに来る奴ってのが仲間内で一番ウェイウェイしてるチャラ男、運動部の部長、あとたまーに陰キャ。まあチャラ男とか部長つっても所詮は高校生だから、恋愛のいろはってか駆け引きとか知らないじゃん?だからまあうまいこといなされちゃうんだよね。
 でも部活の部長が来るときが一番怖かったかな。やっぱサッカー部とかバスケ部の部長って格好いいのよ。あれなんでだろうな。イケメン高身長じゃないと部長ってなれねえのかな?そんなんばっかり来るから「今日こそは八宮OKしちゃうんじゃねえの!?」ってすげえ怖かった。まあ断ってたけど。

 そんなこんなで、秋が深まった頃にはまた席替えがあって、八宮とは離ればなれになっちゃったんだけど、まあここからがすごいのよ。
 普通は席が離れたら俺なんてお払い箱じゃん?ただの隣の席のクラスメイトなんだから。俺もその頃には少し冷静になって、「こうやって八宮が『俺』に話しかけてくれるのは席が隣だからで、その役目は誰でもいいんだ。次の席替えで違う奴が隣に来たら、そいつが『俺』になるんだ」って考えてた。
 だけど八宮は席が離れても朝のHR前とか休み時間に俺のところに来て、今まで通り話をしてくれたんだよ!もうすげえ感動しちゃって。八宮の心の中にある『俺』という存在が、形をなしてそこにあるということが、俺はたまらなく嬉しかった。俺は『八宮の話し相手』という役割(ロール)を与えられた人形(クラスメイト)ではなく、『八宮の話し相手の俺くん』なんだって。

 その頃には、完全に俺の心は八宮に捕らわれていた。大好きだった世界史の授業も右から左で、いつも俺の目は左斜め前方にいる鮮やかな金髪を追っていた。俺の心の世界地図は八宮めぐるという強大な国家が版図を広げ、日の沈まぬ国となっていた。寝ても覚めても俺の八宮という太陽は沈まない。いや、沈ませない。
 真剣な顔で授業を受ける八宮。昼休みに友達と話し込む八宮。放課後に部活の助っ人に行く八宮。その紺のポロシャツと赤いチェックのスカートを翻らせ、俺の目の前を駆けていく八宮。ああ、是非とも私服の八宮を見てみたい――

 そんな俺に好機が訪れたのは、その年に行われた修学旅行だった。

 11月、京都。
 入学した後に修学旅行の行き先を知った俺は、「せっかくの高校の修学旅行なのにずいぶん近場だな、てか京都は中学で行ったし・・・」と残念に思っていたが、まさか1年後にこれほど楽しみにすることになるとは思ってもみなかった。その理由の一つが「私服行動が原則」ということだ。何やら余所の学校の制服だと地元の高校とトラブルになるかもとか何とかで、私服で行動しろとのお達しである。まさに、八宮の私服を見るにはこれ以上とないチャンスだ。だが、京都は広い。鹿苑寺(金閣寺)や北野天満宮、竜安寺を中心とした北エリア、二条城・京都御所・祇園を中心とした中心エリア、慈照寺(銀閣寺)や南禅寺、平安神宮などを中心とした西エリアなど、意外に広い。さらに嵐山方面にも足を伸ばすとなると、1日では東西の移動がかなり厳しくなる。
 やはり、ここは八宮と同じ班になるしかない。

 だが言うまでもなく八宮はクラス一の人気者。班長による班員指名制や「はーいじゃあ好きなもの同士で班つくって~」方式ではドラフト一位指名は確実。こうなった場合に俺の勝ち目は薄い。まあ八宮が「俺くんも一緒に回ろうよ!」って言ってくれる可能性もゼロではないし、何なら割と可能性がある気がするが、もし声をかけてくれなかった瞬間に俺の高校生活はピリオドを打ってしまう。
 いずれにせよ、まずは情報だ――俺は購買のパンが入っていた袋を畳んで捨てると、スマホを取り出して通知ゼロ件のチェインを立ち上げた。

 「基本的に班決めはクラスの実行委員に一任されているが、全クラスでクジ引き抽選となる予定だ。」
 放課後の部活棟には、吹奏楽部のトランペットの音と、校庭から聞こえてくるかけ声が、どこか遠い国のニュースのように響き渡っていた。そんな喧噪を余所に、俺と修学旅行実行委員長の佐藤は今は亡き囲碁将棋部の元部室でホコリまみれの机を突き合わせて密談を行っていた。
「するとうちのクラスもクジ引きだろうな・・・クジの方式は?」
「恐らくは班の番号が書かれた紙を箱から引く方式だろう。一番公平で準備が楽だ。」
「なるほど。単純が故に工作が難しいな・・・」
「ああ。だが、俺ならクラスの実行委員にも悟られず、実行可能だ。なかなかヤバい橋を渡ることになるが・・・」
佐藤はそう言うと、俺の方をちらと見上げてにやりと笑い、
「俺とお前の仲だ。詮索もしない。うまくやっておくよ。」
そう言うと音もなく立ち上がり立ち去ろうとする。
「おい待てよ、俺はどうすれば?」
「大丈夫だ。お前も知らない方が確実だ。ただ、己の信ずるがままにクジを引けばいい。」
そう言うと佐藤はガタついたドアを優しく閉めて立ち去った。

 翌週、実施された修学旅行班決めクジ引きで、俺は見事に八宮と同じ班を引き当てた。佐藤がどんな手品を使ったのか、今でも分からない。高校卒業後、一度だけ佐藤に聞いてみたことがあるが、はぐらかされてしまった。大学卒業後も仕事をしているんだかしていないんだかよく分からない、謎の多い奴だ。

 「うわー!俺くんと一緒なんて奇跡みたい!すごく楽しみだよー!」小さな子供のように喜ぶ八宮の顔を見て、俺は覚悟を決めていた。
――この修学旅行で、想いを伝える。

 結局のところ今まで見てきた玉砕者たちと、俺も根っこの部分では変わらないらしい。だが、違うところもある。俺は八宮と付き合いたいしこれからも一緒に過ごしていきたい。だが、それが叶わない夢だということも頭で理解している。八宮は日を増すごとに忙しくなっていき、最近はテレビでもよく見かけるようになってきた。この前は駅前にある大きな広告にイルミネのメンバーが載っていて、思わず写真を撮ってしまった(このとき撮った写真をスマホの待ち受けにしていて、それを八宮に見られてしまいメチャクチャ焦って言い訳した)。八宮はこれからもイルミネーションスターズの一員として、どんどん売れていくだろう。そうなれば、例え付き合うことが出来たとしても必ず別れる運命が訪れる。芸能界ってのはそういう世界で、芸能人ってのはそういう存在なんだろうと言うことくらいは、Yahoo!トップページに出てくるニュースのエンタメカテゴリを飛ばして読んでいる俺でも想像がついた。

 だが、クラスで無邪気にふざけあってる八宮を、俺は見てきた。休み時間に楽しそうに仕事の話をしてくれる八宮を、俺は知っている。そして、最近は友達より先に、俺におはようと言ってくれて話をしてくれることも――そんな俺が、果たして本当に八宮にとっての「クラスメイトの一人」に過ぎないのだろうか?おこがましいとは分かっていても、「もし」「八宮と」「俺は」「同じ」――そう考える度、俺の心は激しく揺れ動くのだった。

 無限の彼方に思えた修学旅行当日だが、気がつけば俺は東京駅にでかいリュックを携えて到着していた。
「あー!俺くんもう来てたんだねー!」
少し肌寒い季節になってきたが、遠くからでも目立つ金髪少女は、見慣れない私服姿で駆け寄ってきた。
薄いベージュのトレーナーに下は快活さを感じさせる動きやすそうなパンツスタイル。シンプルながら八宮の素材を生かした、まさに着る人を引き立てるファッション。彼女の生まれ持ったセンスの良さを感じさせるその姿に、俺はしばし見とれていた。
「なんだか私服で会うのって不思議な感じだねー?」
俺と全く同じことを八宮が考えている。そんな、何でもないことがこの上なく嬉しい。

 そこから新幹線に乗って京都に着いた俺たちは、(当時の班員には申し訳ないが、八宮以外に誰がいたのかよく覚えていない)よくある中高生の京都修学旅行コースを巡っていった(めぐるだけに)。見学先は班で自由に選ぶことが出来たので、俺がうまいこと意見を調整しながら「八宮の行きたい場所」+「ピーク時に人が多い場所を避ける」+「八宮と二人になれるチャンスが作りやすい」を軸に構成した。これを八宮と班員に悟られずに誘導するのはかなり骨が折れたのを覚えている。
 俺の修学旅行での最終目標は八宮に想いを伝えること。そのためにはベストコンディションかつベストポジションで切り出す必要がある。そのために俺が定めた告白ポイントは「宿泊先のホテル」、「京都水族館」そして「京都タワー」だった。
 優先度が最も高かったのは京都タワーだったのだが、ここではうまいこと班員を追い払い二人きりになれず失敗。京都水族館ではオットセイの展示の説明に

「縄張り争いに敗れメスとつがいになれなかった雄たちは、1カ所に集まり余生を過ごします。これは通称『悲しみの丘』と呼ばれています。」

と書かれており、オットセイの気持ちに思いを致したことで心が折れて断念。いよいよ、最後のホテルでの告白のみとなってしまった。
※悲しみの丘については本当に書いてありましたので京都水族館に行ったら見てみてください。

「なになにー?どうしたのー?」
八宮は何も疑うことなく、ホテルのロビーにある共用のソファに腰掛けた。俺はずっしりと沈み込む座りなれないソファに居心地の悪さを感じながら、八宮と今日の出来事を語り合う。
「本当、あっという間だったねー!明日帰るのがさみしいよ・・・」
そう言うと、八宮はちょっぴり影を帯びた笑顔で遠くを眺める。窓の外にはどことなく懐かしさを覚え始めた京都の街が夜に沈んでいく。

今ここで言うか――

 いっそのこと、八宮の手を引いて夜の京都に繰り出してみたい。きっと祇園はまだ賑やかで、大人たちの時間はこれから始まる。まだ子どもだけど、もう子どもではない俺たちには、祇園の灯りはあまりにも眩しくて――だから俺は――


「すごく、似てるなって」

「わたしのプロデューサーに」


 プロデューサー?
 聞き慣れない単語に、俺は一瞬戸惑った。学校にそんな人がいただろうか。いやいないよな。


「あっ、プロデューサーっていうのはわたしを担当してくれてる事務所の人でね――」


 そうか。芸能事務所の担当か。そりゃ仕事を取ってきたりする人がいるもんな。その人か。


「プロデューサーはすっごく優しくて、わたしたちの話をいつも聞いてくれて――」


俺の知らない、八宮が。

俺の知らない、八宮を。

知ってる奴がいる。

その事実が、どうしても許せなかった。いや、俺より八宮を知ってる奴なんて八宮の家族くらいだろう。そんな根拠もない自信が俺にはあった。

 プロデューサーに会ってみたい。
 俺は思わず八宮にそうこぼしてしまった。自信があった。仕事上の関係でしかないプロデューサーが、俺に勝てるわけがない。学校での八宮を知っている俺が一番八宮のことを分かっているんだ。

 部屋に戻った俺は、告白のことなど忘れて俺は嫉妬に狂っていた。何故かって――八宮がプロデューサーのことを話したときの顔が忘れられない。この修学旅行の2日間で学校では見られない八宮のいろんな顔を見ることが出来た。だけど、プロデューサーのことを話すときの八宮の顔は、俺の知っているどの顔でもない、知らない顔をしていた。

 その後どうやって八宮と別れたのか、どんな話をしていたのか正直覚えていない。だが、翌朝班で集まった時に八宮が「昨日はおしゃべり楽しかったねー!」と言ってくれたので、どうやら変なことは言わずに済んだようだ。よかった。
 帰りの新幹線で、スマホを見ていた八宮が笑顔で俺にこう言った。
「プロデューサーがこの後打ち合わせをしたいから、駅まで迎えに来てくれるって!」

 まさか、これほど早くプロデューサーと会うことが出来るとは。僥倖だ。俺は二つ返事で答えると、「奴」との決戦に備えて今までの八宮との思い出を振り返っていた。

 修学旅行は東京駅で解散となり、各々は帰路についた。東京駅で買い物していく者やまっすぐ帰る者、俺と八宮はそのどちらでもなく、東京駅八重洲口のロータリーに向かっていた。

 「今日は冷えるし、グランルーフの中で待とうか。」
 そう口にしようとしたそのとき、八宮がパッと顔を上げて手を振った。

「プロデューサー!こっちこっちー!」

 すでに足がグランルーフの方を向いていた俺は、踵を返すと、そのプロデューサーを視界に収めた。

その瞬間、俺は全てを理解した。


勝てない。

この男には、絶対に勝てない。


 180cmは優に超える身長に、どう考えても自分に自信がないと買わないであろう白いコート。東京に本格的な冬が来たことをその立ち姿が教えてくれる。歳はいくつくらいだろうか。30代、いや20代半ばか?超絶イケメンではないが、高身長と相まって非常にハンサムに思える。いや、十分に格好いい。というかかっこ良すぎる。明らかに周りを歩くサラリーマンとは違う。オーラがある。

白コートじゃねえじゃん・・・

 いち早くプロデューサーの元に駆け寄った八宮が俺を手招きする。俺はかりそめの笑顔をつけて、その求めに応じた。

 会った瞬間に敗北した。もう俺の知っている八宮はそこにはいなかった。俺の知らない男と俺の知らない笑顔で俺の知らない誰かの話をしている。

 「家族へのお土産を買い忘れた」という適当な嘘でその場を後にした俺は、東京駅のお土産売り場で買う必要のない聖護院の生八つ橋10個入り(抹茶味)を購入し、電車に乗った。新宿からは京王ライナーで帰った。まだ夕方で客の少ない車内で、俺は一人生八つ橋を食べた。4つめを食べたあたりで涙が止まらなくなった。

 その後、八宮とは今まで通りの関係で残りの時間を過ごした。彼女は俺が抱いていた気持ちを知らず、3年生になると別のクラスへ旅立っていった。

 修学旅行で撮影した八宮の写真は、パスワード付きRARで圧縮した上でAWSのS3 Glacier Deep Archiveに暗号化して保存してある。99.999999999%(イレブンナイン)の耐久性で守られた俺の青春は、取り出しに12時間程度かかるWebのGlacier(氷河)に閉ざされ、あの頃のまま眠っている。俺が死んだとき、まだAWSが存在しているのであれば申請してデータを取り出して納棺して欲しい。12時間かかるので火葬に間に合わなくなるから早めにな。


 っていうのが八宮めぐると俺の話なんだけど、これ話し終えたときに周りに人がいたためしがないんだよね。もうみんな二次会に行ったのかな。店員がすげえ嫌そうな目で俺のこと見てるし、会計伝票だけは机に置きっぱなしだから俺に払えってことなのかな?ははっ、せめて徴収した参加費だけは置いてって欲しかったな。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?