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産業ロックとカヴァデール

ヒロセ・ハジメ

■大人って


これまで生きてきた間において自覚的に『歳を取った』と感じたことはありますか?
僕は19歳から20歳になった時が一番『歳を取った』と感じた時でした。
やっぱり、おおっぴらにお酒を飲めるようになりましたし、20歳になったので、タバコを買って吸ってみたという思い出があります。
大学に入った4月から一人暮らしを始めてい他のですが、その4月に20歳の誕生日を迎えたので、お酒もタバコも成人してからと一応品行方正だったのです。
1988年のことです。

■産業ロック


欧米で言うところのスタジアム・ロックというは70年代の後半頃からロックが大衆文化に与える影響力の拡大とともにその受け皿のように始まったものという側面があると思います。要はニーズの拡大に伴って会場がでかくなったということであるわけです。
ニーズの拡大というのは性別を問わずより幅広い年齢層にターゲットが広がるということです。特に可処分所得が高い、使えるお金が多い層に訴えることができればそれは売れるモノになるわけで、ロックも女性やより若年層にもウケるもの方向へのものが大量に生産され始めることになるわけです。
大量生産されるものは聴いた感じもい見た目も、わかりやすく、豪華であった方が消費には向いています。AORみたいな効果をふんだんに使った音やゴージャスに飾り立てたステージ衣装や豪華なステージセットが作られるようになったのもそういった傾向の中で産まれたものであったりすると思います。マーケティングという観点では当たり前のことが起こっていたのですが、それがまさに産業構造であることから、日本では産業ロックなどという言葉が生まれて、90年代に入ると音楽評論家は揶揄し、クラブ文化の中ではかなり馬鹿にされていたものです。
ジャーニー、TOTO、フォーリナー、REOスピードワゴン、なんかが上げられたりしますが、いいバンドでいい曲がいっぱいですよ。
あと、丁度このころ、ハードロック/ヘヴィーメタルからも良いアルバム、良いバンドが次々に現れて70年代から活躍していたVAN HALENやAC/DC、復活したエアロスミスなんかに加えて、ボンジョビ、モトリー・クルー、デフレパードなどのバンドがスタジアムクラスのバンドになって行きます。
それに乗じるつもりがレコード会社にもアーティスト側にもあったんだと思うのですが、この頃になるとそれまで男臭い雰囲気でそのまんまそういったリスナーを対象にしていたようなハードロック/ヘヴィメタル系のアーティストがアイラインを入れて逆毛を立ててキラキラのゴージャスな衣装でステージに上がり始めたり、音もアメリカの巨大マーケットを意識したものになっていったり、場合によってはアメリカリリースに合わせてUSミックスなんてのを施したアルバムなんかも出たりして、我々日本のリスナーは混乱したりすることもあったりしました。まぁ、それが上手くいったアーティストもいれば、大して狙い通りにはいかなかったアーティストもいたわけです。

■デビッド・カヴァデール


ホワイト・スネイク、デビッド・カバデールなんて典型的に狙いに行った口だと思います。
あの、元ディープ・パープルメンバー&ミッキー・ムーディという名ギタリストと一緒に作ったハードロックの超名曲”Fool For Your Loving”のホワイトスネイク、デビッド・カバデールが1987年にリリースした『邦題:サーペンス・アルバス』というアルバムはゴージャスな音作りで、デビッド・カバデールのボーカルもトーンを上げてますし、ミュージックビデオも広いターゲットに向けたものを作っていました。明らかにレッド・ツェッペリンを意識したような曲"Still Of The Night"や”Here I Go Again”をゴージャスな曲調にセルフカバーしたシングル曲がヒットしてアルバムもビルボード最高2位を記録する大ヒットになりました。
スタジアムクラスのバンドがいっちょ上がりって感じでした。
確かに、いいアルバムだと思います。当時19歳で岐阜の田舎にいた僕は高校の時に一緒にバンドを組んでいた友人(彼は結構なテクニックのあるギター担当だったんです)が、このアルバムを聴かせてくれた時にぶっ飛んだおぼえがあります。
ダビングしてもらったカセットテープは大切に、翌年一人暮らしを始める奈良の下宿先まで持って行かれたのでありました。

■ホワイトスネイクを観に行こう!


そして冒頭の話に戻るのですが、20歳になって酒もタバコも始めて、すっかり大人になった気になっていたワタシだったんですが、学業もそこそこにサークル活動なんかにどっぷり浸かって、まぁ軽音楽のサークルに入っていたんですけど、まぁ楽しく若者らしく過ごしていたわけなんですけど、ある時そのサークルの先輩がウチに遊びにきてワタシのカセットテープコレクションなんかを見たり聴いたりしててですね、そこにホワイトスネイクの『邦題:サーペンス・アルバス』なんかも見つけてですね。「今度、ホワイトスネイク行くけど、チケット余ってるみたいやから一緒に行くか?」と誘ってくれたんです。
二つ返事で「行きます!」と言いたいところだったんですが、スタジアムクラスのバンドになった1988年のホワイトスネイクは大阪城ホールでS席7,000円くらいだったと思います。その7,000円の臨時出費が厳しかったのです。
そんな訳で躊躇していると、「じゃあ、他もあたって誰も行くやつがいなかったら考えといて」ということになりました。行きたくて他に誰も行く人が見つからないといいなという思い半分、お金がないからいっそ誰か他の人行ってくれという思いが半分という複雑な心境のまま、あれよあれよという間にコンサートの一週間くらい前になってしまったと思います。
結局、他に誰も行く人はおらず、ということになり、問題はチケット代となったのですが、どうやらチケットを購入していたのはそのサークルの先輩ではなく、その先輩と同じ美術課クラスの同級生ということだったので。ワタシはコンサートの当日に初めてその先輩に会い、チケットを渡してもらったんです。それで、「チケット代はいつでもいいから」って言ってくれて、そんな7,000円をいつでもいいからって渡せる感じがまた大人っぽくて、その時の僕なんかコンサートのパンフすら買えなくていたのにその先輩はパンフもツアーTシャツなんかも買ったりして、結構葬り良い感じで、当時本当にそんな買い物も大人な感じがして、楽しいいい経験でした。

■チケット代と大人って


デビッド・カヴァデールもキラキラが着いたロングコートみたいな衣装で登場して、サーペンス・アルバスアルバムの曲を中心に過去の曲ももちろん演奏したんですけど、名曲”Fool For Your Loving”のアレンジがキーも上がって大胆に産業ロックテイストに味付けされていたのにはビックリしました。サビまで”Fool For Your Loving”と気づかなかったのが印象的でした。
今日紹介するTシャツはその時そのチケットを用意していた先輩が会場で買ったTシャツと同型のものだと思います。バックには我々が観た日付も入っています。
よく覚えているコンサートなんですが、なぜかというと理由があるのです。
実はその時のチケット代、まだ払ってないんです。
もともとサークルの先輩のクラスメイトということで僕自身あまり接点がなかったというのもありましたし、本当にたまに学内で会うこともあったのですが、ポンと7,000円を持ち合わせているようなことがなく、まぁその場でATMへ走れよというお声もあるかと思いますが、当時は学内はもちろん、コンビニですらATMは設置されていない時代ですから、そんな簡単ではなかったんですね。そしてその人もいつも「いつでもいいから」って笑っていってくれるような人だったので、ついついそれに甘えてズルズルと1ヶ月が過ぎ、2ヶ月が過ぎ、しているうちに年も越し学年すら変わった頃、同じサークルの先輩に気になってチケット代のことを話したことがあったんですが、その時「ああ、あいつ学校きてへんねん、また連絡してみるわ」ということで少々驚いたということがありました。結局、その人、僕をホワイト・スネイクに連れていってくれた人は大学を辞められてしまったようだったんです。
なので、チケット代は払わず終いで現在に至るのです。
そのことと、その頃に関西ローカル局で放送されていたソニー・ミュージックTVで、ホワイトスネイクのオリジナルの”Fool For Your Loving”のプロモーション・ビデオが流れ、それがあまりにもかっこよくて、大阪城ホールで観たものとは全く別次元のもので、その違いがわかるようになった自分の目や耳に、大人になった本当の意味での実感みたいなものもあってそんな思い出も含めて記憶に残っているという訳です。
そういう意味でも産業ロックって悪いものじゃないと思いますし、意味のあるものだったんだと思っています。

■おまけ
この動画を見てくださった方、Twitterのフォロワー様なのですが、大変嬉しいコメントを寄せてくださいました。
「この時のホワイトスネイクの講演はS席で5,000円でした」
いつの頃か7,000円だと思っていたあの先輩への借りは2,000円分軽くなりました。あれから34年近く経っていますが、先輩の「いつでもええよぉ」と言ってくれた笑顔は忘れられません。
もし、万が一、この動画を観てくださって、もしくはこのnoteの記事を読んでくださって「あぁ、それは俺のことかも」と身に覚えのある方がいらっしゃればYoutubeでもnoteでも構いませんのでコメントをいただけないでしょうか?
わたくし、あの時のチケット代、5,000円、お支払いにうかがいたいと思います。


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