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◆文章で殺陣を表現する◆〜片手剣と盾編〜


その男はトロルの集落付近にいた。

トロル

元々気性の荒い生物で、群れを成し行動をする

知能も高く、集落を形成し、火を使い鉄の加工から焚き火で調理なども行う
武器を使い仲間と連携し狩りをしたりもする。

トロルの集落付近を通った人間が襲われたり家畜が攫われるなどと言った噂は時折り耳にするが

近年積極的に人間の集落を襲い始めるようになったという話である。

被害はそこに住まう人間をはじめとし農作物、家畜が喰われ半分は持ち去られる。

その中でも生きたまま持ち去られるのが
「若い女」だった。

被害報告の多さと習性の変化に対し
事態を甚大と受け止めた王立騎士団は
兵を各村へ派遣し守衛すると共に
トロルの駆除を傭兵達への報酬支払い対象として公式に発表した。

男は依頼を受け
初めての本格的な『トロル狩』の時のこと。



その男の戦い方は片手剣と盾を使う戦闘法だったが、いわゆる騎士団のお行儀の良いそれとは違った。

鋭く尖る鋒の両刃剣
盾は守りを重視する大型の物ではなく
いわゆるバックラーサイズの小型の盾で
正面から見て下部はこれも尖っている
使い方として「守る為」というよりは
「弾きつつ図々しく攻める」為である。



息が切れる、肺が破れそうだ

走らなければ囲まれる

何匹やったか...

せいぜい5.6程といったところだろう

人間の成人した男の約1.5から2倍の図体に木と鉄で作った棍棒のようなものを武器にするのがトロルであると聞いていたが

百聞一見にしかず

「何回刃たてれば倒れるんだクソがっ」

走る勢いのまま眼前のトロルに蹴りかかる

そのまま片腕に盾を引っ掛け両の手で剣を振り下ろす

よろけ仰け反るトロルの膝を踏み台にし、口元めがけ片腕の盾をそのまま突き立て歯が折れる感触を盾を通して感じる

間髪入れずに口元から抜いた盾の代わりに剣をねじ込む

「これなら...どうだっ」

脳幹まで届いたであろう剣撃を受けてもなお倒れながら暴れる生命力

言葉こぼすもつかの間

後ろから横薙ぎに振られる棍棒を半身を返し盾で受けつつ流した
そのまま受け切っていたなら盾ごと腕が飛んでいたであろう

そのまま盾を前に突き立てるように間合いを詰め トロルの片膝に深く斬り込む

勢いを利用し両足の間から背面へ抜け背中に剣を突き立てる

そのままトロルの背に剣を突き刺したまま力の限り押し走る

林の木にトロルの腹部から突き抜けた刃が刺さり止まる

トロルが背に噛みついた虫をとろうとするかの如く背中をかきむしるように暴れる

「おとなしくしろ..」
背に剣を突き立てたまま盾で後頭部を何度も殴打する

動かなくなるまで続けたかったが一匹相手に時間をかけるわけにはいかず、剣を抜きすぐさま後頭部を斜めに裂いた


つい先程、足を斬り首に刃を突き立てたにもかかわらず暴れたトロルの棍棒の一撃に不覚を取り鎖骨あたりを打たれていた

体中にこびりついた血がもはや己のものか返り血かわからなかった

体が鉛のように重い

討たれた仲間の断末魔に引かれてなおトロルが集まってくる

「これじゃヤッた分の戦利品持って帰るにも一苦労だ、退くか」

そのうちの何頭かが林の方を向いた

その先に目を向けると何やら「黒く光る」鈍い光が明滅していた

「魔法か?」

林から魔法を放ちながら飛び出してきた男がいた

その後を3頭のトロルが棍棒を振り回しながら追っている

「あちらさんも人気者みたいだなあ」
苦し紛れの独り言を呟いてみる

眼前のトロルの群を無視しその男の元へ駆け寄り声をかける

「後ろ頼めるか?」

「いいだろう!」
威勢の良い返答だった

中近接型を得意とする魔術士か

男は鈍く黒く光る魔術を腕や足に纏わせ、まるで格闘術の如く手足を振るい術撃を繰り出していた

実際に手足は対象に触れることなく帯びた魔力が敵を裂く

舞のようでもあった

魔術士が後ろに飛びながら手をかざし叫ぶ
「目を潰す!」

黒い閃光のような術撃がトロルの目を焼いた

「もらうぞ」
すかさず飛び込み腹に剣を突き立てそのまま半身を削ぐように背まで斬り裂いた

魔術士も肩で息をしていた

剣も斬れ味を落としてきた
視界もまともではない

退き際であるが、状況がそれを拒んだ

「次から次へと沸きやがる..」

意識が朦朧とする中

どす黒い感情と意識、が降りてくる

その現象の発端には身に覚えがあった

幼いころ「隕石」に触れてから時折り起こる

音として聴覚に訴えるモノではなく脳に直接語りかける感覚だ

それを男は「外界からの声」と認識していた

刹那の出来事だった

視界が赤くなった

ここまでか…

死を感じたその刹那


血が湧き上がる感覚

体に、
握った剣に、
どす黒いモノがまとわりついて見えた


トロル達が警戒し距離を置く

考えるより先に走っていた

その「どす黒いモノ」がまとわりつく剣を握りしめ

眼前のトロルに突き立て蹴り飛ばして抜く

下腹あたりから肩へ、そのまま横薙ぎに振り抜くと近くにいたトロルの体は髄まで裂け腕までもが飛んだ

「なんだ、これは..」

トロルは半身から裂け崩れた

「外界からの声」がここまでの力として発現したのは初めての出来事だった。

トロルの縄張りから離れ木陰に腰を降ろす

乱雑な使い方をしすっかりくたびれた剣と盾を雑に地面へ放り

一息つきながら男は空を眺め独り呟く

「デカい剣のが性に合うかもなぁ..」

それからは盾を使わなくなり身の丈程の大きな剣を愛用するようになった...

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