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自分を起点とした経済の半径をいかに小さくできるか?

2021年10月29日。鹿児島市のそうしん本部でそうしんSDGsアワードの最終選考会が行われ、私たち日当山無垢食堂の取り組みが【大賞】をいただきました。ありがとうございます。

日当山無垢食堂

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私たちは、鹿児島空港から約15分の日当山という温泉地帯で「日当山無垢食堂」というレストランと物産館の運営をしています。

たとえば、洗剤やお惣菜の量り売りをしたり、タンブラーや カラのペットボトルを持ってきたら無料で汲める給水ポイントとして霧島のお茶をご用意していたり、フェアトレードの商品をたくさん扱っていたり、繰り返し利用できる木の容器で霧島の旬がギュッと詰まったオードブルを販売していたりと、私たちにできる環境や心にいいことはできる限り積極的に取り組んでいます。

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無垢食堂のオードブル。旬の食材でお作りするので、毎回内容が違います。お渡し時に2000円のデポジットをお預かりし、容器をお返しいただいた時にその2000円をお返しする仕組みです。

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ある日のポップ。私たちは、できる限り地元の顔の見える方々の食材を使い、添加物や加工品を使わずにおいしいご飯を作っています。オープンから2年目の今年は、作付け前の段階から農家さんと「こんな野菜を作ってください」とか「こんな野菜を植えようと思ってるんだけど」と、1年目よりさらに踏み込んだ関係性を作ることができています。

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こちらの写真をパッとみて「冬のメニューだな」と分かった方は普段から旬を意識してらっしゃる方だと思います。日本には春夏秋冬をさらに細かく分けた二十四節気・七十二候(にじゅうしせっき・しちじゅうにこう)という季節があり、その七十二候=約2週間で食材の旬は移ろうと言われています。

私たちのレストランのメニューも、定番としてご提供している唐揚げ以外のメニューはどれも2週間で入れ替わります。ですから、私たちのレストランでは冬にトマトやきゅうりはでてきませんし、夏に大根や白菜が使われることはないのです。本来その季節には育たない野菜を栽培するためには環境にも負荷がかかる上に旬のものには食味も栄養も敵いません。

旬の地元食材を食べるということは、少し前の日本だったら当たり前の日常でしたが、その当たり前が当たり前のまま私たちの厨房には残っていると言ってもいいのかもしれません。

SDGs

今私たち人類が他の何を差し置いてでも真剣に向き合うべき問題のものさしとも言えるSDGs。

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世界規模の感染症の拡大や頻発する大規模災害などで、私たちは社会や経済は自然環境の安定抜きにしては語れないことを学びました。

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(↑  keeling curve )

大気中の二酸化炭素濃度は過去80万年間で最高レベル。今現在もどんどん上昇を続けています。

気候変動に関する科学的分析や予測などをまとめる国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第1作業部会が今年の8月に公表した第6次報告書にはついに「人間の活動が温暖化を引き起こしていることは ”疑う余地がない”」と明記されました。

世界が、現在とりうる最大限の温暖化対策を施しても今後しばらくはCO2排出は増え続けると予想されている中で、私たち生活者はどんなことをするべきなのか、どんな選択が より豊かで環境にも良い暮らしにつながるのかを真剣に考えて行動する必要があると思います。

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先ほどの80万年のグラフを拡大して「いつからこの異常な状態が始まったのか」をみてみると産業革命、そして、第二次世界大戦が大きな契機になっていることがわかります。逆を言うと私たちの暮らしを、テクノロジーの恩恵は十分に活かしつつも大戦前くらいの規模感や内容に戻すことができれば、子どもや孫たちも安心してこの地球に住み続けられるということ。

今後もどんどん人口減少が進んでいく日本において、自分を取り巻く経済の半径をできるだけ小さくしていくことは環境以外の視点から見てもとても大切なことなのではないでしょうか。

何から手を付ける?

全ての課題はつながっているので、闇雲に「なんとなく環境に良さそう」というイメージだけで行動しても、あるいは環境問題に興味のある、いわゆる意識の高い人たちだけが行動しても変えられないから地球全体で取り組みましょうと定められたのがSDGsだと私は解釈していますが、地球全体で取り組まなければ解決できない=地球全体が無意識で行っている小さなことの積み重ねが今の状況を招いている=無意識で行っていることの何が環境に大きな負荷をかけているのかを知ること、そしてそれを変えることがまず大事ということではないでしょうか。

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どこを変えればプラスの循環が回り出し、その循環の輪が回り続けるのか。そんな視点が大切だと思います。

ドローダウンで7つに分類されている各分野の取り組みでどのくらいのCO2排出を減らせるかという数値。実は総合1位は「食」分野なのです。

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ちなみに100の方法1位は冷媒の管理(89.74Gt)。2位は洋上風力発電(84.6Gt)。3位は食料廃棄の削減(70.53Gt)※日本人1人あたり毎日ごはん茶碗1杯分の食料を廃棄しています4位は植物性食品を中心にした食(66.11Gt)、5位は熱帯林の保護(61.23Gt)と続きます。

食料自給率を上げよう

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日本の食料自給率は主要各国と比較してもかなり低く、なんと約40%。霧島を見渡しても、あちこちに耕作放棄地があるだけでなく昔 田畑だった土地はどんどん宅地に変わってきています(こんなに空き家があるにもかかわらず、、、)。

フードマイレージ

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食料の輸送量に輸送距離を掛け合わせた指標をフードマイレージと呼びますが、日本は食料自給率が低く、遠くの国からたくさんの食料を輸入しているため、他の国に比べても「食べる」という行為を通じてこんなに環境負荷をかけています。今日私たちが何を食べるかを選ぶとき、その裏側に思いを馳せることがとても大切なのです。(ちなみに無垢食堂では2020年3月から牛肉を使わないことにしました)

私たちが世界に誇る「和食」も、よくよく見てみると醤油や味噌、納豆、豆腐に使われる大豆もそのほとんどが海外から輸入されたもの。パンやパスタなどの小麦粉もほとんど輸入。例えば今日自分が食べたものがどこで作られたものか、試しに調べてみるとハッとするかもしれません。

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また、肉(動物)でも野菜でもその生産工程でたくさんの水を必要としているので、食料を輸入しているということは、その国の水を輸入していることと同義です。

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私たちは普段、何かを買って→消費して→捨てるという行為を繰り返していますが、買うよりも前、あるいは捨てた後の循環がどうなっているのか意識したことがありますか?まずはここを知ろうとする努力、そして、循環の半径をできるだけ小さくする努力が大切ではないかと思います。

大切なのは、地域内で資源を「何度も」循環させること

こちらの記事でもご紹介していますが、私たちは2021年の春から生ゴミを捨てることをやめました。

無垢食堂のレストランでは、おかずもご飯もお客さまのおなかの空き具合に合わせて量をお選びいただいているので食べ残しはほとんど出ませんし、物産館とも連動しながらその日に作った料理はその日のうちに売り切るようにしているので調理したあとのものがロスとして捨てられることはほとんどありません。しかし、例えば玉ねぎや里芋の皮やキャベツなどの外葉、卵やエビの殻、農家さんが持ってきてくださった野菜の傷や痛みのある部分などは全て堆肥化して田畑に戻す活動を行っています。

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ゴミとして捨てれば楽ですがそれを堆肥にしようとすると、加工品を使わず手間をかけて調理している厨房の仕事に一手間も二手間も追加の作業が加わります。
近所の落ち葉を拾い集め、農家さんからもみ殻や米ぬか、フスマなどを分けていただき、それを定期的に切り返し、毎日温度を計る。それまで一緒くたにして捨てればよかったゴミを堆肥にできるものとできないものに分け、水を切り、重さを計るという仕事も増えますし、切り返しの作業も2次処理ともなるとその量が1tを越えるのでかなりの重労働。それでも、私たちはこの手間を惜しまないことを選んでいます。食は人の天なり、農は国の基なり。私たち自身、そして美味しいと言って食べてくださるお客さまがたの「よく生きる」ことを手放さないためにも必要なことだと思っています。

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Jimotoデザイン室 清水さんがイラストにしてくださいました!

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私たちの仲間であるひより保育園そらのまちほいくえんと共に、今年から始めた耕作放棄地を田畑に戻す活動。ご指導いただいている住吉さんや、農家さんたち、保護者さんたちのご協力もあって今月最初の収穫を行うことができました。一周回してみてどこにどんな課題があるか、またどこを工夫すればもっと広がりを持たせられそうかが少しずつ分かってきたように思います。

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来年はメタンの発生を抑える稲作にチャレンジしたいです。

これからも、おいしい!とか たのしい!を軸に、環境問題にまだ強い関心のない層までグングンと巻き込みながら霧島の小さな循環の輪を広げていきたいと思いますし、何の専門家でもない私たちが「やれる」ということを示すことで他の地域の方や他の店舗さんたちが自分たちもやってみようと思えるようなコピペの元を作っていければと思っています。

最後に。

無垢食堂の仕事は、本当に過酷です(笑)しかし、同時にとても豊かです。
毎日朝早くから夜遅くまで、包丁の音が鳴り止むことはありません。ただ「おいしい!」と言っていただくためにコツコツと、当たり前のことを当たり前に向き合っている現場の皆さんの努力が今回このような形で評価いただけたことがとても嬉しかったです。どうもありがとうございました。


いただいたサポートは、無垢食堂での循環型社会への取組のために使わせていただきます^^