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story 空っぽくん


ボクは空っぽくん

いつもはらぺこで
食べても食べても
お腹いっぱいにならないんだ

ううん…
お腹はいっぱいになる
だけど
食べても
食べても
空っぽなんだ

何かがいつも
底なしみたいに
空っぽなんだ…

おい
お前ひとりぼっちで
さみしそうだな

オレが友だちになってやるよ

キミはだれ?

オレか?
オレはお前のたったひとりの
友だちだよ
食べたいものがあるなら
好きなだけ食べさせてやるよ

ボクのたったひとりの友だち?
好きなだけ食べさせてくれるの?

そうさ
お前
甘い物、好きだろ
ドーナッツをやるよ
チョコレートがたっぷり
かけてあるんだゼ

空っぽくんは
のどをゴクリとさせました

あま〜い
あま〜い
ドーナッツ…

カリッととろけるチョコレート…

欲しい…
欲しい…
欲しい…
欲しい…

空っぽくんは手を伸ばして
ドーナッツを受け取りました

パクリ
パクリ
パクパク
バクバク…

空っぽくんはもう止まりません

食べて食べて食べて食べて…

あぁもう苦しい
苦しい苦しい苦しいよぉ
イヤだイヤだイヤだよぉ

違うよ違うよ違うんだ…

空っぽくんは泣き出しました
ボクはお腹は空いてない

わーん、わーん、わーん…

空っぽくんは
今まで泣いたこともないほど
泣きました


どうしたの?
どこか痛いの?

空っぽくんは
泣き続けています

あら…?

ねえ、空っぽくん
あなたここに
大きな穴が空いてるわ

少し待ってて
私が縫ってあげるから

チクチク チクチク…

それは
ソーイングちゃんでした

ソーイングちゃんは
優しくそっと
空っぽくんの穴を
縫い合わせていきます

チクチク チクチク…

さぁ、もう大丈夫
ほら、立ってみて

ソーイングちゃんは
空っぽくんを鏡の前に
連れて行きました

ここにね
大きな穴が空いてたの

でも
もう大丈夫
しっかり綴じておいたから


空っぽくんは
自分に空いていた
大きな穴の痕をみました

ギザギザに破れたことろが
新しい糸で綺麗に
綴じられています

端っこには
かわいい小鳥の
刺繍がしてありました

空っぽくんは
胸のあたりがじんわり
あったかくなりました

ボクね
今この辺が
とってもあったかい
何かがここにあるみたい

ソーイングちゃんは
ニコッと笑って

ココロっていうんだよ
いいことをした時や
うれしいことがあった時に
あったかいものがたくさんここに
たまっていくんだよ
そう空っぽくんに教えてあげました

ボクのココロ…

空っぽくんは
じんわりあったかくなった
胸のあたりを優しくなでなで
してみました

ソーイングちゃんは
ニコニコしながら眺めていました

さあ、向こうへ行って
みんなとあそぼ!

そう言ってふたりは
かけていきました


あれ?そういえば
もうひとりいたような…


思い出そうとしましたが
そこにはもう誰もいませんでした









ことばはこころ。枝先の葉や花は移り変わってゆくけれど、その幹は空へ向かい、その根は大地に深く伸びてゆく。水が巡り風が吹く。陰と光の中で様々ないのちが共に生き始める。移ろいと安らぎのことばの世界。その記録。