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兄弟会社における法律事務の委託につき、「弁護士法72条本文に違反すると評価される可能性がある」とした、産業競争力強化法第7条2項の規定に基づく法務省回答(令和4年6月24日)※1についての雑感

このところ、弁護士法(以下「法」)72条関連についての産業競争力強化法第7条2項の規定に基づくグレーゾーン解消回答(以下「グレーゾーン回答」)が相次いでいるところですが、今回出されたグレーゾーン回答(以下「本回答」)は、「兄弟会社間における法律事務の委託」についての回答でした。

これと類似するのが、「親子会社間の法律事務の取扱いと弁護士法第72条」(2003年 法務省大臣官房司法法制部。以下「2003年見解」※2)であるが、これは、親子会社間での法律事務の取り扱いについて、一定の類型に属する場合には「同条に違反するものではないとされる場合が多いと考えられる」との見解を示しています。

グレーゾーン回答を求めた事業者(以下「当該事業者」)は、このこととの関係で、兄弟会社相互間でも、法律事務の委託については法72条との関係で同様に許容される余地が出てくるのでは?という思いで、このグレーゾーン回答を求めたのではないか、と推察します。

しかしながら、そもそも、2003年見解自体、対象としているのは、一般的な法的見解を示す行為や契約書のひな形提供行為といった、「鑑定」※3「その他の法律事務」※4に該当しない可能性の高い行為であり、親子会社だから「他人性」※5がない(ので法72条違反にならない)という見解ではないとも解釈するのが相当です※6

これに対し、本回答のもととなった質問の対象である「新事業活動」は、要するに、
「本件子会社において、当該兄弟会社に対し、警告書において問題とされている個別具体的な知的財産権事案について、法的見解を述べるもの」(「本件子会社の3⑵①から③の行為」)
「本件子会社において、当該兄弟会社に対し、今後締結することも想定される個別のライセンス契約に係る契約書案について法的見解を述べるもの(「本件子会社の3⑵⑧の行為」)
としており、行為の内容を強く評価されたものと見ます。

この点、本回答における「他人性」判断については、非常にあっさりしたものだな、との印象もあるのですが、これは、裏を返すと、2003年回答にいう「当該行為を親会社がする必要性・合理性その他の個別の事案ごとの具体的事情」※6を、対象行為をふまえて具体的に考察する、という考え方を示したものと理解することもでき、「兄弟会社」という委託者受託者間の関係性ないし属性については、考慮対象としては、あまり重視しない、という可能性がありうるものと考えることもできます。

以上を前提としますと、本回答は兄弟会社間の行為についてのものでしたが、親子会社の行為についても、同様の注意が必要になる可能性があるのでは、との印象を抱くに至りました。

※1 https://www.moj.go.jp/content/001375772.pdf
※2 https://www.moj.go.jp/content/001185737.pdf
※3 「鑑定」とは、法律上の専門的知識に基づいて法律事件について法律的見解を述べること(条解「弁護士法」第5版653頁)
※4 「その他の法律事務」とは、法律上の効果を発生変更する事項の処理、及び確定した事項を契約書にする行為のように、法律上の効果を発生・消滅・変更するものでないが、法律上の効果を保全・明確化する事項の処理も法律事務と解される(条解「弁護士法」第5版654頁)
※5 「他人性」については、明文上の要件ではないが、自己の法律事務は非弁護士が取り扱ってよいとされていることの裏返しで、他人の法律事務であることが法72条の要件とされる(条解「弁護士法」第5版651頁)
※6 2003年見解も「親会社・子会社の目的やその実体,両会社の関係,当該行為を親会社がする必要性・合理性その他の個別の事案ごとの具体的事情を踏まえ,同条の趣旨に照らして判断されるべきもの」という判断要素を加えており、親子会社だから他人性がない、という判断過程をとっていない。

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