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掌篇・短篇小説集

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#ネムキリスペクト

短篇小説『ゴールドフィッシュ・ブギー』(6/9加筆)

 金魚鉢の街で。  すこし肌寒い水。今日は。  結婚式だろうか葬儀だろうか、忘れてしまっ…

武川蔓緒
3か月前
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短篇小説『臘月の人魚』

 すでにエレキの断ち切られた部屋にいるからか、白ペンキの剥げかけた洋窓から灰色の光がそそ…

武川蔓緒
1年前
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短篇小説『異人たちの八月』

『平和』とはんぺんに焼印されている。  遥か昔からあるもので、ほんとうの読み方は逆、『和…

武川蔓緒
1年前
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短篇小説『現場からは異常です』

【毎度馬鹿馬鹿しいお話で。  ちょっとお下品です(当社比)。  お気をつけてお読み下さいませ…

武川蔓緒
1年前
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掌篇小説『Z夫人の日記より』<107>

2月某日 柿 「毒の柿がね、あるのよ。旦那だったひとの、田舎に」 知人Rが離婚をしたと…

武川蔓緒
2年前
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掌篇小説『Z夫人の日記より〜回覧板』

5月某日 慢 日曜。 今日は事務所の連中で草野球をしているが、私は出場も応援もサボり、電…

武川蔓緒
2年前
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短篇小説『ガラスの手〜Z夫人の日記より』

<6月某日>  ガラスの手をあずかる。  男か女か判然とせぬ、右の手。そう若くはないようで、こまかな鱗のような皺とくすみで万遍なくおおわれ。空にかざすと、向う側が陶酔したふうにぼんやりする。  手は生きている。じぶんでそこらを這い、よじ登り。電源のおちたワープロを叩いたり雑誌を捲り読む真似をしたり、花占いしたり。 「あまり懐かれない方がよい」  と、飼い主の弁。自然光をなるべくいれ、時々水を遣ればよいと。  私は家に山ほどあったカセットテープ、どれも何故か3分分しかテ

掌篇小説『箱の父』

 父が季節外れの冬眠にはいった。  本人の老いと、昨年が暖冬だったのにくわえ、このところ…

武川蔓緒
1年前
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短篇小説『軀と歌だけの関係』

 或る合唱団の公演に欠員が出て、その音域パートがどうしても足りないということで急遽、私は…

武川蔓緒
1年前
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短篇小説『第十位』

午后、八時。 一寸の狂いもなく、舞台中央にちいさなスポットライトが撃たれる。両手に桃色の…

武川蔓緒
2年前
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短篇小説『人でなしの午后』

『人でなしの午后』 (『Z夫人の日記より』<108>) 4月某日 青(1/3) <仕事兼デートを致し…

武川蔓緒
2年前
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短篇小説"TYPHOON"

朝、カーテンをあける。 空はパールグレイ。ふるえる硝子戸2枚を、両手でおしあける。裸に、…

武川蔓緒
2年前
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短篇小説『みずうみ』

大学時代の恩師に会う。 もうそれなりの齢で、施設にはいり、寝台で過ごす時間がながいよう…

武川蔓緒
2年前
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掌篇小説『盃』

男の、岩のように膨れあがった顔を見て、女は、おどろいた。 「その顔、どないしはったん……可哀想に」 男は昨晩、いつにもまして酒を呑み、何処かで顔を、ぶつけてしまったらしい。当人に記憶はない。他に傷も痛みもなく、ただ顔だけが、何かの捺印の如く、満遍なく赤く、腫れあがっていた。殴られたか、とも思ったが、それにしては圧され加減が、満遍なさすぎる。 男は、躯にアルコールの沁みていない時のない酒好きであったが、酒で浮世を離れ、陽気になるというのでなく、寧ろ逆に、呑むほどに、自身に