じいさんでてこい

むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。
ある、よるのことです。
おじいさんが先におふろに入ったまま、なかなか出てきません。
おばあさんはまちくたびれて、おふろにようすを見にいきました。
「おじいさん、いつまではいってるんです? もう よるもすっかりふけましたよ。おじいさん?」
なんど よびかけても、へんじがありません。
ふしぎにおもったおばあさんは、おふろの と をそっとあけてみました。
ところが、おじいさんのすがたが どこにもないではありませんか。
「あれま、おじいさん、どこへいったのかね」
おばあさんはびっくりしておふろばのあちこちを見まわしました。
すると、てんじょうに、なにやらおそろしげなものがはりついて、にやにやわらいながらこちらを見おろしています。そいつの口からはまっかな、なが〜〜〜いした が出ていて、たこの足みたいにくねくねとうごいていました。
「ひゃあ、あかなめが出た」
おばあさんが さけびました。
そう、それは、ようかい あかなめといって、おふろにあるものはなんでもかんでもその赤くてなが〜〜い した でぺろぺろなめまわして、たべてしまうのです。
おじいさんも、あかなめの した にぺろりんとまきつけられて、あっというまに おなかの中に入れられてしまったにちがいありません。
「おっとっと、見つかってしまったわい」
あかなめはいいました。
「見つかったからにはしかたがない。おまえも、べろべろなめて、たべてやる!」
しかしおばあさんも まけてはいません。
大きなはさみをもってきて、あかなめの したを ねもとからちょきん!
ところがあかなめの した は、切っても切ってもすぐ、にょろにょろはえてくるのです。
「むだだむだだ、さあおとなしく、くわれるがよい」
「おまちなさいな あかなめさん。どうせわたしをたべるなら」
おばあさんはそういうと、大いそぎでだいどころにはしり、ありったけのからしをもって おふろばにもどってきました。
「これは、にんげんかいで いちばんあまいといわれているものじゃ。まずはこれをわたしにかけて、それからたべると、おいしいぞえ」
「ほお、どれどれ。ぺろり。うわっ、からぁい! なんだこれは、ぺっぺっ」
からしをぬったおばあさんをおもわずはきだしたあかなめでしたが、そのいきおいでのどのおくから、おじいさんの足がちょこっとだけ出てきたのを、おばあさんは見のがしませんでした。
「あらま、お口にあわんかったかいの。それならこっちはどうかしらん。にんげんかいでは、ほっぺがおちるほどおいしいといわれてるんじゃ」
おばあさんはありったけのしぶがきを、あかなめの した にくるませました。
「うわっなんだこれは、しぶいしぶい、ぺっぺっぺっ」
あかなめは、からしのときよりもっとつよく、はきだそうとします。
おかげでおじいさんは、こしのあたりまで出てきました。
「やれ、あとすこしじゃ。じゃなかった。あかなめさん、それならこれはどうかいの。にんげんかいでは、このよでいちばん うつくしいあじ、と、いわれてるんじゃ」
「に、にんげんかいのうまいものなど、もういらん!!」
あかなめはさいごにつめこまれた、ありったけのしおこうじを、はきだしました。
とうとう、おじいさんもいっしょにぽーんとはき出されました。
あかなめはそれにはかまわず、
「こんなおかしなものばかりくわせる いえ には、もういられん。さらばじゃ!」
そういいのこして、どこへともしれず、にげていきました。

こうして、おじいさんとおばあさんは、またふたり、なかよくくらしましたとさ。
めでたしめでたし。
さ、ねんねしよ。


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