小さなおばけと大きなおばけ

むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんと、小さなおばけがすんでいました。

といっても、小さなおばけは、おじいさんにもおばあさんにも見つからないように、そっと暮らしていました。

でも、おじいさんが疲れた時には黙っておふとんをひいておいたり、おばあさんが忙しすぎる時には知らぬ間にごはんを炊いておいたりするような、とってもいいおばけでした。

「おやまあ、またいつの間にかふとんがひいてあるぞい」

おじいさんが驚いてそう云うと、おばあさんは

「世の中には、ふしぎなことがあるものなのよ」

とにこにこ笑ってみせる、そんな毎日でした。

ある、夜のことです。

おじいさんもおばあさんも眠っていると、突然、おうちの戸をドンドンドン!と激しく叩く音がしました。
ふたりはびっくりして飛び起きました。

「お、おじいさん、あれが、うわさに聞く悪いおばけじゃないかしら」

ふるえるおばあさんでしたが、おじいさんは

「なあに、世におばけなんているものか。きっと、旅のお人がこの夜闇で道に迷ったかなんかじゃろうて」

と、おばあさんが止めるのも聞かずに戸をあけてしまいました。

そのとたん、ごうっと強い風とともに、おうちの中に何やらまっ黒で毛むくじゃらで角がいっぱい生えたものが飛びこんできました。

「がはははは! おれはとっても悪い大きなおばけだ! さあじいさんばあさん、ふたりともいっぺんに、食ってやる!」

その時、ふいに台所から包丁が飛んできて、大きなおばけのおなかに突き刺さりました!

小さなおばけが、おじいさんとおばあさんを助けようとして包丁を投げたのです。

おじいさんもおばあさんも、初めて、小さなおばけの姿を見ました。流し台のあたりにすっくと立って、大きなおばけをにらむ、とっても勇ましい姿でした。

しかし大きなおばけは、平気の平左で包丁をふり払いました。あとにはケガもなんにもありません。

「がはははは、そんな小さなからだでおれに勝てると思うのか!」

云うが早いか小さなおばけをひっつかむと、窓から外に放り投げようとします。

ところが小さなおばけは、するりと大きなおばけの手を抜け出しました。
そうして、台所の隅に置いてあった重くて大きな石うすに、ふうっと息を吹きかけます。
すると石うすは、もっともっと何倍も大きくなりました。それを小さなおばけは軽いものでも持つようにヒョイッと持ち上げて、大きなおばけに向かって、

どっしーん!

これには、大きなおばけもひとたまりもありません。

「うっひゃあ、こんなに強いおばけがいるとは知らなかった。もう、悪いことはしません。たすけてくれーい」

そう云って、あっという間に夜の闇の中へと逃げ去っていきました。


おじいさんとおばあさんは、小さなおばけにたくさんたくさんお礼を云って、それからは、毎朝毎晩、お水とお米を、おそなえするようになりました。

こうして、おじいさんとおばあさんと小さなおばけは、それからも仲よく暮らしていきましたとさ。

めでたしめでたし、さ、ねんねしよ。


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