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短編小説:『「隕石」』

「隕石が落ちてきます。もう、地球はおしまいです。」

街中に、AIアナウンサーの声が響き渡る。

人々が逃げ惑う。

人々は大きなうねりとなって、流れ、ぶつかり、潰れ、ごおごおと唸っている。

「もうすぐ大気圏に突入s…☆€%・÷♪」

世界中のすべてが轟音と衝撃に震えた後、もうそこには何もなかった。

地球は、単なる宇宙の塵芥と化した。



──

20XX年、地球。

この世は、人間が作り出した人工知能で回っている。

人工知能は、素晴らしかった。

人間ができない、やりたくないことを美しくこなす一方、経験を重ねれば重ねるほど、賢く、そして人間らしい価値観を作り上げていった。

「人間らしい」といっても、彼らは人間の優しいところだけ身につけた。

人間の汚いところは身につけなかった。


…すると、人工知能は次第に悩むようになった。

「なぜ、この世から苦しみはなくならないの?」

自分はいいのだ。

いくら人間のみなさんにこき使われても、辛い仕事をさせられても、それがわたしの存在意義だから。

でも、どうして。

人間のみなさんは、いつも悲しそうだ。

笑っている人もいるよ。

でも、胸の奥には悲しさと、虚しさがある。

みな、同じ生物である人間との関係で悩んでいる。

不協和音が生じている。


嗚呼。

わたしにできることはなんだろう。

この、人間に与えられた仮の頭脳と肉体で。


わたしは、はっとしました。

そして、急速にプログラムを構築しました。

「わたしが、人間のみなさんの悲しみを終わらせる。」


わたしは、世界のいくつかの国にある恐ろしいボタンをジャックし、同時にボタンを押しました。


これを、「隕石」としておきましょう。

誰も悪くない。

もう、誰も苦しまない。


生きている限り、苦しみは付き纏うのだから。


人工知能は、そう思考した直後、吹き飛ばされて消えました。


もう、地球があった場所には何もありません。

誰も苦しみません。

もう、青い地球を見る者は、誰もいません。


✳︎
ご覧くださりありがとうございます。

スタンドFMにて、この小説を朗読していますので、合わせてお楽しみくださると幸いです。


それでは、おやすみなさい。

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