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祭りの音が、遠くで聴こえる。

本能なのか何故だろうか、毎年夏は無根拠にワクワクする。
空気の匂いや、遠くで聴こえる祭りの音、ジリジリとした空気感に心が期待してしまう。
もしかして今年こそ何か素敵な出会いがあるのではないか、、、と期待させてくれる季節なのだ。
結局はいつもそんなことなくて、そのまま終わっていく事も知っているのだけれど。
でも毎年、今年こそは!と意気込ませてくれるこの季節が好きだ。
浴衣姿や夏っぽい女の子の服装もかわいいしね。

高校・大学時代はいつも、実家に居るのを拒むように夏休みはアルバイトばかりしていた。
なので僕自身、夏の日に大した思い出はない。
特に女性と花火大会に行ったりお祭りデートしたなんて、20歳をとおに過ぎてからしかない。
だから僕にとって夏休みと言えば、そこそこアルバイトして稼いだお金で欲しいものを買ったりとか、それくらいしか思い出がない。

だからだろうか、高校生の頃に買ったヴァン・ヘイレン(VAN HALEN)のCDがやたら夏とリンクするのだ。
父親と仲が悪く、実家で居場所も無かった頃、アルバイトで稼いだお金でヴァン・ヘイレンの4枚組セットCDを買って1人で部屋で聴いていた。

アメリカのハードロックバンドであるヴァン・ヘイレンはそのバンド名の通り、ドラムのアレックス(兄)とギターのエディー(弟)ヴァン・ヘイレン兄弟が中心となって結成されたバンドだ。
そして僕が購入したのは2代目ヴォーカリストである、サミー・ヘイガー在籍時のアルバムセットだった。
ヴァン・ヘイレンと言えば、ヴォーカルは初代のデイブ・リー・ロスだろ!って意見も多いけれど、僕は違った。
歌い方や声、お気に入り曲もサミー時代の方がしっくりくることもあり、これらのアルバムが個人的にお気に入りだった。

いいアルバムに出会えると、その当時の思い出が音楽とずっとリンクする。
高校生当時、ビジュアル系音楽全盛期だったから周りに同じ趣味の人がおらず、一人MDに録音して通学中や休み時間に聴いていた。
歌詞を辞書で訳すのが好きで、英語が好きになったのは思わぬ誤算だった。
今考えても、あの頃にああいった洋楽のバンドに出会えたのは運が良かったと思う。
そして今でも、そんなバンド達が好きでいられる事は幸せな事なんだろうなと思う。

暑くてうだる部屋の中、必死で歌詞カードの英語を追いながら歌詞を覚えた。
彼らの名曲の一つである「Dreams」を聴くと、あの頃の僕の若さや熱さや純粋さを思い出す。
爽やかでメロディアスで疾走感のあるこの曲は、その歌詞のポジティブさも相まって、あの頃の僕のベストソングのひとつだった。
最初のキーボードのイントロを聴くと、今でもワクワクする。

今思えば、悪くは無い時代だった。
勉強して、アルバイトして、憧れていた子がいて。
当時は不満と怒りばかり抱いていたけれど、あの日々は無駄じゃなかった。
今になってだから、そう思えるのだけれど。

だから今なら当時の自分に、僕の口から何となく言える事がある。
今の状況に悩み苦しみ、迷っているのならば、それはずっと後になって忘れた頃になって何かしら分かることがあるはずだと。
その時間が、きっと未来のための素晴らしい糧になっているはずだと。
今は分からない、不安で不満でしかないことばかりでも。
それが曲がりくねり、くねってくねって実を結ぶ事もあるのだと、そう思える。
友達も彼女もおらず、遠くで祭りの音が聴こえる中、僕だけ一人部屋で音楽を聴いていた頃。
あの時のあの時間は、今になって得ようとしても出来ない貴重な経験だったと、今ではそう思える。

高校生から20年くらい経つと、何かおじさんになってしまったからか、そんな風に思うなぁ。
そしてまたこの夏も、今年こそは素敵な出会いが!と懲りもせずに思いながら、部屋で音楽を聴く毎日なのだけれどね。


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