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ニガヨモギの川。

穏やかな昼下がり、部屋に座ってぼおっとテレビを見ている彼女がいた。見慣れた、少し縦長の丸みをおびた後頭部と、艶やかなポニーテールがあった。僕はそこに、そっと後ろから抱きしめた。柔軟剤と、シャンプーと、甘い彼女の匂いがした。、、、幸せだぁ。そう無意識に、小さく呟いた。え、何?いやだから、幸せだなって思って。うん、聞こえてたよ。聞こえてて、聞いたの。

そんな想い合っていた女性とも今は別れて随分経つ。連絡先も、今どうしているのかも知らない。そして勿論、知ろうともしていない。もう他人同士だ。他人として過ごし始めてからの方が、付き合ってた年月よりも長くなった。僕の過去にはそんな人ばかりが増え、振り返れば後ろには長く伸びた影のように曖昧な記憶だけ残っている。

何がしたいのだろう。また次も別れるだろうなと思いながらも、いつも人と繋がろうとしている。それならば、1人で歩めばいいのに。本当に、何がしたいのだろう。

寂しいのか。
不安なのか。
愛されたいのか。
必要とされたいのか。
交わりたいだけなのか。

もう世の中を分析したり、いきがって生きることもない。清々しい気持ちで世の中に望むこともない。世界を変えようとすることもない。そんな先は孤独か。それとも誰かにすがるのか。諸々そこまでの計画性は持ち合わせていない。

何がしたいのだろう。とりあえず、穏やかな笑いと、安心できる健康と、少しだけのドキドキが欲しいよ。そして欲を言えば、うっとりするような一瞬が欲しい。やっぱり間違ってなかったと思える一瞬が。あの麻薬のような、快楽が。そしたら僕は、日々は質素に、求めず期待せずに、ひっそりと生きていくよ。大きな期待も、野望も持たず。でももしかしての、小さなナイフを隠しながら。舌もとろけるような最後のデザートはいつも毒でできている。

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