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ロング・ロング・ウェイ・トゥ・ゴー。

駅から降りて、ひとり寂しい道を帰る。
歩いていても、誰もいない暗闇のなか。
風の少し吹く、寂しい道を帰る。
脇の居酒屋の提灯が揺れている。
ボロく破れた提灯が揺れている。

何処へ戻るのか、ひとり寂しい道を帰る。
家へ戻っても、誰もいない暗闇なだけ。
夜はまだ寒い、寂しい道を帰る。
暗い闇に、迷いと惑いがのし掛かる。
終わりのない苦悩がのし掛かる。

どう生きるべきかと、常に問いかけている。
いつも、いつまでも、その答えは出てこない。
本当に望みが叶うなら、何を叶えようか。
思い悩んでも、案も答えも出ないのだ。
脳はどうしちまったんだ。
昔なら幾つでも答えは出たはずなのに。

後ろから追いかけてくる、もう1人の存在にふと気づく。
颯爽に軽快に、あっさりとすり抜けていく。
走り去る、かつての理想の自分の姿。
追いかけるには、早く遠くへ行き過ぎていた。
酔いの中、瞬きをした瞬間に消えていた。

真夜中は、誰もを騙す便利な時間に変化する。
道に転がる、かつての夢の欠片たち。
何も見ずに、それらを通り過ぎていく。
共感などはひとつもない。
後悔するほどには、もう若くはなかったのだ。

風はひんやりと冷たく、穏やかに流れている。
だけども、上着を着るほどではない。
こんな時、何を纏えば良いのだろう。
何を脱げば良いのだろうか。
誰も教えてくれはしない。
見て見ぬふりの傍観者は、もう一人の自分自身だけ。

悟るには、若過ぎる。
でも挑むには、老いすぎた。
諦めるには、早すぎる。
でも学ぶには、遅すぎた。

誤魔化しながら生きている。
濁しながら混じっている。
純粋なものは駆逐され。
鮮やかなものは腐っていた。

息をして、生きるだけ。
息を潜め、しのぶだけ。
何も見出さず、何も得られず。
平等に、残酷な優しさは時間だけである。

早く消え去りたい。
早く無くなりたい。
でも意地悪な現実はそんなことも許さずに。
まったりとした世の中にこびりついている。

寒くても、凍えるほどではない。
辛くても、死ぬほどではない。
でも語るには、知り過ぎた。
惑うには、歩みすぎた。
正すには、否定しすぎた。

俺のアポトーシスがスペルマに押し出されていく。
唯一の切り札は無惨にも、一瞬の快感と共に消え失せた。
美学は消え、卑猥な現実がその中身を見せつけてくる。

でも恋をするには、熟しすぎた。
愛を語るには、醜く過ぎた。
恥を知るには、愚か過ぎた。

殺すとも死ぬともいかず。
綱渡りの生は。
ぬるぬるした坂道を滑らないように歩く日々だけ。

今からでも間に合わないことはない。
でも最下位に並んでどうするのだ。
挑戦したことを評価されるのは若さの特権。
老いてなお、恥を知り、生きることの難しさ。
膝の痛みが増す。
こんなはずじゃ無かった、こんなはずじゃ。
どこで道を間違えたのだろうか。
もしくは初めからそうだったのだろうか。
戻る道は無い、進む道と同じように。
そしてようやく家に帰り、かりそめの安らぎを得る。

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