すずめの戸締りの感想(⚠︎ネタバレ)


すずめの戸締りはよかった。具体的に言うと映画館に入ってからというもの、期待しすぎていて、期待しすぎて不安になり吐き気を催すほど期待していた。
しかし蓋を開けてみると期待のハードルを二つ三つ軽く跳び越す程のものが出来上がっていた。古来からの新海誠とは少し違っていた(秒速原理主義と呼ばれるものだろう)が、多少の違和感を手放しにしてしまうくらいには良い作品だった。

とりあえずの感想。

セカイ系SFとして最高だっただけではなく、現代人の描写がしっかりしており作品を通して人の可能性を信じている作品だと感じた。実際に自分の体験として映画館に赴いて欲しいので詳しい説明はなしに感想だけを述べる。

要石について。

物語序盤で鈴芽が抜いた要石、ダイジン。物語では神であり厄災を抑える封印だが鈴芽にとっては自分自身の苦しい過去を封じ込める要石として機能していた。(こちらに関しては鈴芽に対して言及するときに改めて触れさせてもらう)
要石が変化した姿、ダイジンに関しても序盤は謎が多く鈴芽に対して好意的ということしかわからなかったが、中盤、鈴芽に大嫌いと言われたシーンや、終盤鈴芽が要石になろうとしたときに代わったことから鈴芽に対する好意が間違っていただけで鈴芽のために行動していたこともしっかりと描写されている。

叔母さん、環さんについて。


人の親として、めんどくさい部分がありながら理想的な部分もある、保護者でした。何も話してくれない鈴芽に厳しくなってしまったり、助けたいのにひどいことを言ってしまったり、と人間味がありながら「あの時言ったことも少しは思ってる」と感情を吐露しながら、「鈴芽といて楽しい」と愛している姿を見せてきて現代の若者に対する保護者の感情のへの理解と描写がしっかりされていた。

鈴芽について。

主人公である鈴芽に関して初めは普通の子だと思っていたが、最初の戸締り、愛媛の戸締りで「生への執着が薄い」という印象を受けた。これは私の主観だが現代の若者によく見られる傾向で、鈴芽はそう描かれているのだと感じた。
要石を抜き、地震を止められず自分の育った町が崩壊してるのを見て鈴芽は要石を戻す決心をした。新海誠SFはそう言った「理由付け」が弱く運命性を感じなかったので今回の「理由付け」はよかったように思える。
鈴芽の旅に関して、私は近年薄れていく「人々のつながり」を表現しているように感じた。本来あんな家出はかなり無茶な家出だが鈴芽の厚意から相手の厚意へとキャッチボールがされている、いわゆる助け合いにより成り立っている。近年そういった助け合い精神のようなものは薄れており、それを伝えるための描写なのではないか、と感じさせられた。
終盤、これまで語られなかった鈴芽の過去は事細かに語られなかったが、やはり印象深いのは。何も無くなった街で日記を掘り起こして扉を見つけ、中の厄災と対峙するシーンあそこで町が燃えていることはスズメの中ではまだ震災は終わっていない、スズメの問題を解決できていないのだ、と描写されている気がしてすごい感心した。
ここで草太を救うのだけどネコ、ダイジンも主人公が要石になるくらいなら、とまた要石に戻ったことによりダイジンの行動理念が主人公であることもはっきり分かるようになってる。 そして厄災をまた封印するわけだけど鈴芽を封印した時、雨が降る描写が鈴芽の心内描写である燃えた町を消化する。
これはスズメが誰かと一緒なら困難も乗り越えられる、と成長した証でありこの旅で学んだことでもあるんだよね。誰かのために必死になることで得たものとも言える。 最後の幼少期の鈴芽にイスを渡すシーンは鈴芽だけではなく見た人達に「どんな困難があっても大丈夫だよ」というメッセージを感じる。

物足りないと思った場所。

・序盤、愛媛、兵庫と移動していく間は戸締りするパターン化されていて、アンパンマンのように「こうなるんだな」と飽きそうになってしまった。
・サダイジンが唐突に出てきて、感情表現もなく物足りなさを感じた。
・伝えたいメッセージが多く、かけ離れているせいで一つ一つが物足りなくなってしまった。(これに関しては無視できるほど完成度が高かったからいちゃもんになる)

最後に。

一回の視聴で感じられたのはこの程度だが、表面だけでかなりの良さを感じる。
この映画は日本の災害の多さに鈴芽の心情を通しながら、3.11の被災を新たな世代のためにコメディチックに描きながら、大事な部分は切り落とされずに作られていて、傍観者である私たちも当事者のような心境で見ることができるすごい作品でした。
自分が新海誠に惚れ込んだ部分は人間の感情描写なのだが、今回はそれがメインではなく、また大衆に向けた作品に仕上がっており''新海誠らしさ''があまり出ていない。個人的には少し残念で、このまま気持ち悪い新海誠が見れなくなるのでは、という不安もある。しかしこの作品は歴史に残るように、記憶を受け継ぐ意味合いもあり完成度は凄まじく、多くの人が見て多くの人が呪われてしまえばいい。

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