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フラムFCの22-23シーズンを完全総括

22-23シーズンのプレミアリーグは、絶対王者マンチェスター・シティの3連覇で幕を閉じた。

これまで起こった数々のドラマの中で、昇格組ながら10位フィニッシュと大健闘したフラムFCの今シーズンを、独自の見解を元に振り返っていこうと思う。

※約25分で読める記事となっている。


〇はじめに

シーズン開幕前、「このチームが優勝する」、「このチームが降格する」、「このチームが欧州コンペティション出場権を獲得する」など、様々な意見が飛び交い、開幕前にも関わらず盛り上がりを見せた。この記事を読んでくれているあなたも自分なりの予想を立てていただろうが、ほとんどのファンは、フラムがトップ10でシーズンを終えるとは思っていなかったはず。実際に、フラムの降格を予想したり、ボトム10でのフィニッシュを予想するファンが多かった。自分はフラムのファンではあるものの、残留できたら御の字だと考えていたうちの一人だ。なぜ彼らが躍進できたのかを紐解いていくと同時に、今シーズンの彼らを総括していこうと思う。

なお、成績等のデータは全てFotMob参照。


〇今シーズンの移籍市場

フラムは今シーズン、夏と冬を合わせて13選手を獲得し、24選手を放出した(ローン移籍含む)。
獲得に費やした金額が最も高かったのは、ポルトガル1部リーグのスポルティングCPから加入したジョアン・パリーニャで、移籍金は約1730万ポンド(日本円で約30億円)。放出で得た金額が最も高かったのは、イングランド2部リーグ(以下チャンピオンシップ)のWBAに移籍したナサニエル・チャロバーで、移籍金は約224万ポンド(日本円で約3.8億円)。放出で得た金額が獲得に費やした金額に比べて非常に少ないが、これは放出のほとんどが契約満了による退団もしくはローンでの放出であるためである。

〇IN ※()内は前所属クラブ
・ジョアン・パリーニャ (スポルティングCP)
・アンドレアス・ペレイラ (マンチェスター・U)
・マノー・ソロモン (シャフタール ※ローン)
・ケヴィン・ムバブ (ヴォルフスブルク)
・ベルント・レノ (アーセナル)
・シェーン・ダフィー (ブライトン)
・イサ・ディオプ (ウェストハム)
・レイヴァン・クルザワ (PSG ※ローン)
・ウィリアン (コリンチャンス)
・カルロス・ヴィニシウス (ベンフィカ)
・ダニエル・ジェームズ (リーズ ※ローン)
・サシャ・ルキッチ (トリノ)
・セドリク・ソアレス (アーセナル ※ローン)

注:シェーン・ダフィーはローンで加入したが、1月の移籍市場で完全移籍に切り替わった。

〇OUT ※()内は移籍先クラブ
・サイラス・クリスティー (ハル・シティ)
・ファブリ (無所属)
・マイケル・ヘクター (チャールトン・アスレチック)
・アルフィー・モーソン (ウィコム・ワンダラーズ)
・ジャン・ミシェル・セリ (ハル・シティ)
・スティーヴン・セセニョン (チャールトン・アスレチック ※ローン)
・ロドリゴ・ムニス (ミドルズブラ ※ローン)
・ジョー・ブライアン (ニース ※ローン)
・パウロ・ガッサニーガ (ジローナ)
・テレンス・コンゴロ (ル・アーブル ※ローン)
・シルヴェスター・ジャスパー (ブリストル・ローヴァーズ ※ローン → ポルティモネンセ)
・タイリース・フランソワ (HNKゴリツァ ※ローン)
・マルロン・フォッセイ (スタンダール・リエージュ)
・イヴァン・カヴァレイロ (アランヤスポル ※ローン)
・ジェイ・スタンスフィールド (エクセター・シティ ※ローン)
・アンソニー・クノッカール (ヴォロスNPS→ハダースフィールド ※ローン)
・コナー・マカヴォイ (パーティック・シストル ※ローン)
・ナサニエル・チャロバー (WBA)
・ジョシュア・オノマー (プレストン・ノース・エンド)
・ケヴィン・ムバブ (セルヴェット)
・オリヴァー・オニール (デリー・シティ ※ローン)
・アドリオン・パジャジティ (FKハウゲスン ※ローン)

注:シルヴェスター・ジャスパーは、ブリストル・ローヴァーズへのローンから復帰後にポルティモネンセに完全移籍で加わることとなった。
アンソニー・クノッカールは、ヴォロスに半年間ローンで加わり、直後にハダースフィールド・タウンに再ローンとなった。現在はフラムに復帰。
パウロ・ガッサニーガは、ローンから完全移籍に切り替わった。


ローンでの放出が主となり、放出による利益はほぼ出せなかったものの、人員整理をしながら各ポジションを強化することができたので、今シーズンの移籍市場は成功と言えるだろう。また、加入した選手はほとんどが高いパフォーマンスを披露しているので、彼らへの投資は間違っていなかった。


〇今シーズンの成績

今シーズンのフラムは、3つのコンペティションに参加し、44試合を戦った。内訳は以下の通り。

全コンペティションでの成績

最多出場:ハリソン・リード(42)
最多得点:アレクサンダル・ミトロヴィッチ(15)
最多アシスト:アンドレアス・ペレイラ、ウィリアン(6)

プレミアリーグではクラブ史上最多の15勝を挙げ、FAカップではベスト8の好成績を収めた。カラバオカップでは控え選手やユースの選手が中心だったこともあり、4部リーグに所属するクローリー・タウンに完封負けを喫したが、今季の目標はリーグ戦が主だと感じたので、個人的にはそこまで問題ではなかったのだろうと思う。むしろ少しでも過密日程を和らげることに繋がったので、結果オーライだ。


〇今シーズンのチーム評価

今シーズンのフラムは、これまで積み上げてきた自分たちのスタイルを確立し、シーズンを通してそのスタイルを貫いてきたので、大きく崩れることが少なかった。大量失点(ここでは4失点以上とする)での敗北は、第9節のニューカッスル戦のみで、この試合では1-4と完敗を喫している。

今シーズンの基本システム

フォーメーションは4-2-3-1で、基本的に変更することはなかった。チームのスタイルとしては、パスを繋いでいくボール保持で、どちらかといえばポゼッション志向である。勝っていても、引き分けていても、負けていても、そのスタイルを崩すことなく、一貫して自分たちのスタイルで戦い続けた。

彼らは今シーズン、プレミアリーグで15勝7分16敗の成績を収め、勝ち点52を獲得し10位となった。シーズンを通してのゴール期待値が47であったところ、彼らは55ゴールをマークした。15勝は前述の通りプレミアリーグにおけるクラブ史上最多の記録で、55ゴールという記録も同じくクラブ史上最多である。また、彼らは53失点を喫したが、シーズンを通しての被ゴール期待値は65.6だったので、守備の面でもしっかりと成果を挙げた。昇格組であることやクラブ自体の規模などを考えると、上出来だったのではないか。

開幕戦で強豪リヴァプールと2-2の撃ち合いを演じ、6位でフィニッシュした好調ブライトンにはシーズンダブルを決めた。一時期は6位まで浮上するなど、彼らの戦いぶりは、良い意味で多くの人々を驚かせたはずだ。

しかし、当然ながらポジティブなことばかりではなかった。公式戦5連敗を喫するなど、苦しい時間も経験した。改善しなければならない部分もいくつか見つかった。

公式戦5連敗

改善点もあるものの、今シーズン彼らが残した結果は期待を大きく上回るものであり、クレイヴン・コテージのサポーターを熱狂させた。

昨シーズンのチャンピオンシップで43ゴールを挙げた絶対的エース・ミトロヴィッチを欠いた試合もあったが、彼が不在でも戦うことができるのを証明できたのは大きな収穫だろう。

いずれにせよ、彼らが過ごしたシーズンは素晴らしいものだった。来シーズンも期待したい。


〇今シーズンの選手評価

今シーズン、フラムのユニフォームを着て一緒に戦ってくれた選手達を評価していこうと思う。評価は5段階で、高い順にS, A, B, C, Dとなる。独断と偏見によるものなので、異なる意見を持つ人も出てくるかもしれない。
選手は背番号順。


GK 1 マレク・ロダーク

成績:7試合出場・3クリーンシート
評価:B

昨シーズンのチャンピオンシップ優勝に大きく貢献した我らが背番号1。今季はレノの加入もあり出場機会を大きく減らしたが、一切の不満を漏らすこともなく、出場すれば高いパフォーマンスを披露し、控えGKとしてこれ以上ない働きを見せてくれた。ユース育ちでクラブ愛が強い選手の1人なので、来シーズン以降も重要なところで活躍してくれることを期待。


DF 2 ケニー・テテ

成績:36試合出場・1ゴール・5アシスト
評価:A

チーム2位となる5アシストを記録し、攻撃でも守備でも多大な貢献を見せたオランダ国籍のフルバック。一度だけ怪我で離脱したものの、ほとんどの試合に出場し、フラムの右サイドを支えた。途中で交代することもあったが、彼自身の実力も大きく伸びたシーズンであった。


DF 3 レイヴァン・クルザワ

成績:6試合出場・2ゴール・1アシスト
評価:D

夏の移籍市場最終日にフランスの名門パリ・サンジェルマンからローンで加入。実力者ではあるので期待されていたのだが、怪我の影響でほとんど試合に出場できず。FAカップでの活躍は印象的だったが、結局ロビンソンのフル稼働を余儀なくされたので、アタリかハズレかで言ったら後者に入るかも。


DF 4 トシン・アダラビオヨ

成績:29試合出場・1ゴール
評価:B

独特な苗字を持ち、マンチェスター・シティのユース出身で、アニメが好きなことでも知られているCBである。25歳という年齢と、CBとして必要な能力を十分に兼ね備えていることから、プレミアでも通用すると思われたが、相方であったティム・リームと対比するように調子を崩し、新加入のイサ・ディオプにスタメンを奪われるなど、安定感に欠けたシーズンであった。シーズンが終盤に差し掛かるにつれて徐々に調子を取り戻し、リームの離脱後はチームの砦として高いパフォーマンスを披露してみせた。今夏での退団の噂も強まっているが果たして…?


DF 5 シェーン・ダフィー

成績:7試合出場
評価:C

DF陣の退団がいくつか発生したので、ブライトンからのローンで加わった31歳のアイルランド代表CB。出場機会はほとんどなかったが、4人目のCBとしてチームに貢献してくれている。1月に完全移籍に切り替わったのも、チームから信頼されている証だ。CBの中ではリームに次いで高齢で、実績もある選手なので、その経験を生かして今後もチームに貢献してもらいたい。

…と思っていたのだが、チャンピオンシップのノリッジ・シティへの移籍が決まったようだ。


MF 6 ハリソン・リード

成績:42試合出場・3ゴール・4アシスト
評価:S

今季のフラムにおける最多出場選手であり、怪我もせずに1年間ほぼフル稼働で戦ってくれた。非常にタフな選手で、持ち前のハードワークと技術力でチームに安定感をもたらした。このままの活躍を維持できれば、代表入りも夢ではないかもしれない。

ちなみにこれは余談なのだが、彼の身長は181cmとのこと。個人的にはそんなにあるようには思えないのだが、真相は……。


FW 7 ネースケンス・ケバノ

成績:17試合出場・3アシスト
評価:C

今シーズンは、序盤こそレギュラーとして出場し、高いパフォーマンスを見せていたものの、怪我や新しく加わった選手たちの活躍などの影響でなかなか安定して試合に出られない時間が続き、不完全燃焼のシーズンとなった。現状では左サイドの3番手という立ち位置になっており、加入から7シーズン目にして正念場を迎えている。シーズン終了後の退団が濃厚とされているが、来シーズンも残留するのであれば、背番号7の逆襲に期待したい。


MF 8 ハリー・ウィルソン

成績:33試合出場・3ゴール・3アシスト
評価:A

ウェールズが誇る天才レフティーであり、自慢のテクニックを生かしたチャンスメイクでチームの躍進に貢献した。今シーズンはスタメンだったりそうじゃなかったり、序列が行ったり来たりしていたが、シーズン終盤で右サイドの1番手の座を奪還した。ゴールもアシストも多くはないものの重要な場面で活躍してくれたため、それがチームの結果に繋がった。


FW 9 アレクサンダル・ミトロヴィッチ

成績:28試合出場・15ゴール・3アシスト
評価:A

もはや説明不要の絶対的エースで、昨シーズンほどの活躍は見せられなかったが、チーム最多の15ゴールを記録し、大きな貢献を見せた。キャプテンマークを巻くこともあり、リーダーシップを見せてチームを引っ張ってくれた。クラブ愛も非常に強く、チームのために熱くなれる頼もしい選手だが、やや気性が荒いところがあり、感情に任せて行動してしまい警告を受ける場面がいくつか見受けられた。今シーズンは退場した上で8試合の出場停止処分を受けるなど、厳しい処罰も受けた。「それ、する必要ある?」と言いたくなるような余計な行動も目立ってしまったので、しっかりと反省し、改善してほしいところだ。

それと、PKをもうちょっと練習しようか。


MF 10 トム・ケアニー

成績:38試合出場・3ゴール・1アシスト
評価:A

在籍8年を数える重鎮であり、背番号10を着けるレジェンド。32歳だが、童顔なのか若く見える。名前の表記揺れがある選手で、カーニーと呼ばれることもある。今シーズンは主将を務め、レギュラーが保証されなくても不満ひとつ漏らすことなくチームにコミットし続けた。出場すれば高いパフォーマンスを披露し、ピッチ内外で多大な貢献を見せてくれた。チームからはかなりの信頼を寄せられており、先発したのはわずか10試合ながら、38試合に出場し、持ち前のセンスを生かしてチームにアクセントを加えた。アンカーとトップ下をどちらもハイレベルでこなせる選手であり、パリーニャやアンドレアス・ペレイラの離脱時も、彼らの不在を感じさせないパフォーマンスでチームを引っ張る姿が印象的だった。来シーズン以降も、まだまだお世話になりそうだ。


FW 11 マノー・ソロモン

成績:24試合出場・5ゴール
評価:B

ウクライナのシャフタール・ドネツクからローンで加わった左サイドのアタッカー。両足を遜色なく使いこなすことができ、持ち味の瞬発力を生かしたドリブルやシュートでチャンスメイクできる選手だ。シーズン中盤で見せた圧倒的な輝きは、見る人々を魅了し、5試合連続ゴールを決めてみせるなど、チームの誰よりも注目を浴びていた。まだ23歳と若いし、クラブに対する忠誠心も感じたので、ぜひとも完全移籍で獲得してほしいと思っているのだが、今後もフラムのユニフォームを着た彼の活躍を見ることはできるのだろうか。


MF 12 ナサニエル・チャロバー

成績:6試合出場
評価:D

チェルシーに所属するトレヴォー・チャロバーの兄である。フラムでの1年半でわずか28試合の出場にとどまった。今シーズンのプレミアリーグでは4試合に出場したものの、時間に直すと約12分。見せ場はほとんどなかった。冬の移籍市場最終日にチャンピオンシップのウェスト・ブロムウィッチ・アルビオンへと移籍していった。

DF 12 セドリク・ソアレス

成績:8試合出場
評価:D

アーセナルで出場機会を失っていたところ、半年で退団してしまったムバブの後釜として、シーズン終了までのローン移籍という形で迎え入れられた。しかし、テテが圧倒的なパフォーマンスを見せていたこともあり、わずか8試合の出番に留まり、そのうちの6試合が途中出場であった。正直なところ出場時間が短いのでほとんど評価できないが、半年でもチームのためにプレーしてくれたことは感謝したい。一旦はアーセナルに戻り、どうするかを決めることになると思われる。


DF 13 ティム・リーム

成績:35試合出場・1ゴール
評価:S

彼のパフォーマンスは圧巻だった。35歳という年齢もあり、当初は不安の声も挙がっていたが、そのような不安を全て吹き飛ばす圧倒的なパフォーマンスを披露し、大きな活躍を見せた。チームの主将であるケアニーがスタメンではなかったためほとんどの試合でキャプテンマークを巻き、リーダーとしてチームを引っ張った。チーム最年長で、現所属選手では最多出場を誇る大ベテランは、W杯でも活躍を見せ、まだまだトップレベルで戦えることを示した。シーズン終盤の怪我が悔やまれるが、まずはしっかり休んで、来シーズン以降もチームを牽引する姿を見せてほしい。


MF 14 ボビー・デコルドバ・リード

成績:41試合出場・4ゴール・1アシスト
評価:B

今シーズンはチーム2位の出場を誇り、ユーティリティプレイヤーとして様々なポジションで活躍を見せた。主戦場はおそらく右サイドハーフだが、トップ下、左サイドハーフ、右SBなど、様々なポジションをカバーし、いずれのポジションでも高いパフォーマンスを披露した。途中交代もしくは途中出場が多かったが(スタミナにやや難がある?)、彼の献身性には非常に助けられた。シーズン序盤はスタメンで起用されることも多かったが、シーズンが進むにつれて途中からの出場が増えた。それでも41試合出場は圧巻であり、安定して出場機会を得ることができたのはチームとしても個人としてもプラスだったはずだ。

GK 17 ベルント・レノ

成績:37試合出場・8クリーンシート
評価:S

アーセナルで事実上の戦力外となったあと、本人の実力を考えると破格とも言える金額でフラムに加入。シーズン最初の2試合は出番がなかったが、プレミアリーグ第3節で初めて起用されると3セーブを記録するなどチームの勝利に貢献。以降はリーグの全試合で起用されており、培ってきた経験と持ち前のセービングで幾度となくチームを救ってきた。プレミアリーグでのセーブ数は144で、1試合平均4セーブを記録している。また、セーブ率は73.8%で、いずれの記録もリーグ2位である。また、ゴール阻止の数値は脅威の9.5を叩き出しており、この記録は堂々のトップだ。今シーズンのフラムにおけるMVPの1人であり、彼がいなかったらもっと勝ち点を落としていたかもしれない。彼のおかげで負けずに済んだ試合もあるので、大きな感謝を示したい。


MF 18 アンドレアス・ペレイラ

成績:38試合出場・5ゴール・6アシスト
評価:S

移籍元のマンチェスター・ユナイテッドでは、ローン移籍を経験するなど、なかなか高いパフォーマンスを維持できずに苦しんでいたが、ようやく自身の居場所を見つけることができた。昨シーズン終了後にリヴァプールに移籍してしまったファビオ・カルバーリョの穴を埋めるべく、パリーニャに次ぐ移籍金で加入したブラジル人のテクニシャン。加入直後からトップ下として高いパフォーマンスを披露し、チーム最多タイの6アシストを記録した。瞬く間にチームに欠かせない存在となり、攻撃の中心選手としてチームの舵を取った。また、今シーズンはプレースキッカーを担当することも多く、セットプレーからのチャンス演出にも貢献した。


FW 20 ウィリアン

成績:30試合出場・5ゴール・6アシスト
評価:S

アーセナルで不遇の時間を過ごし母国へと戻っていったが、そのわずか1年後にロンドンに帰還した元セレソンの快速ウィンガー。出場したほとんどの試合でスタメンとして起用され、かつてのキレを取り戻し、好プレーを連発し、34歳にして復活を遂げた。直接フリーキックからのゴールも決め、彼のキャリアはまだ終わっていないことを証明してみせた。契約は今シーズン末までであり、現在は契約を更新するための話し合いが行われている。その活躍から、様々なクラブが獲得に興味を持っているとの噂も出ているが、本人のパフォーマンスを見ると、1年で退団となるのは勿体ないだろう。


FW 21 ダニエル・ジェームズ

成績:28試合出場・3ゴール・1アシスト
評価:C

彼のシーズンが素晴らしかったかといえば、そんなことはないだろうし、実際にパフォーマンスが上がらずに出番すら貰えない時間も続いた。それでも、持ち前のスピードと献身性は目を見張るものがあった。CFとして起用された試合では存在感を発揮しており、ゴールを記録するなど随所で輝きを見せた。また、古巣対決となった第19節のマンチェスター・ユナイテッド戦では、今シーズンのプレミアリーグにおける最高のCBの1人であるリサンドロ・マルティネスをスピードで抜き去り、さらにはフラムでの初ゴールを決めるなど、インパクトを残した。長所と短所がはっきりしている選手であるため使い方次第で化ける可能性もある。ローンで加わっていたため一旦はリーズに戻るが、彼らは降格してしまったので、彼の将来は現状では不透明である。


MF 25 ジョシュア・オノマー

成績:2試合出場
評価:D

元々レギュラーではなかったものの、今シーズンは出場機会を大幅に減らしてしまい、わずか2試合、時間に直すとたったの14分の出場に留まり、冬の移籍市場最終日にチャンピオンシップに所属するプレストン・ノース・エンドへと移籍していった。

MF 26 ジョアン・パリーニャ

成績:40試合出場・5ゴール
評価:S

おそらくレノと並んで1番の大当たり補強。今シーズンはチームで3番目に多い40試合に出場し、ハリソン・リードとのダブルボランチはチームに安定感をもたらした。190cmの長身と抜群のセンスを生かしたプレーで相手の攻撃の芽を積むファイターで、さらに技術や得点力を兼ね備えるハイスペックな選手だ。彼の加入によってフラムの中盤のパフォーマンスは大きく向上し、チームにたくさんの影響をもたらした。様々なクラブからの関心が伝えられるが、本人はフラムで満足しているようで、サプライズが起こらない限りは来シーズンもチームに残留してくれるだろう。


DF 27 ケヴィン・ムバブ

成績:7試合出場
評価:D

ヴォルフスブルクでは十分な出番を貰っていたが、ここフラムではそうはいかなかった。わずか7試合しか出場できず、パフォーマンスも褒められたものではなかったので、わずか半年でローン移籍することとなった。ローン移籍先となったのは自身の古巣でもある母国スイスのセルヴェットで、全ての試合で先発し3アシストを記録した。チームの2位フィニッシュに大きな貢献を見せ、かなり評価も高いようで、おそらく完全移籍で正式に退団になると思われる。


MF 28 サシャ・ルキッチ

成績:13試合出場
評価:B

冬の移籍市場最終日にイタリアのトリノから加入。若干手薄になっていた中盤の層を厚くすることに成功した。トリノではレギュラーとして出場していたが、フラムでは控えに回ることが多かった。それでもコンスタントに出場機会を貰い、持ち味でもあるパスセンスと技術でチームの攻撃に弾みをつけ、守備でも安定したプレーを披露した。加入から半年ながら早くもチームにフィットする様子を見せており、フラムでの初のフルシーズンとなる来シーズンの活躍にも期待できるだろう。


FW 30 カルロス・ヴィニシウス

成績:32試合出場・5ゴール・3アシスト
評価:C

一時期は低調なパフォーマンスに終始し、放出候補にまで名前が挙がるなど安定した成績を収めることができずにいたが、シーズンが終盤になるにつれて調子を上げていき、チーム2位タイの5ゴールをマークした。控えCFなのにミトロヴィッチより出場が多いのは少し面白いが、彼の不在時にはしっかりと代わりを務め、自身の役割を全うした。


DF 31 イサ・ディオプ

成績:29試合出場・1ゴール・1アシスト
評価:B

同じ街のライバルであるウェストハムから加入した194cmの大型CB。加入当初は途中出場が多かったが、アダラビオヨのパフォーマンスの低下によりスタメンのチャンスが巡ってきた。しばらくはスタートから起用され、プレミアリーグでは21試合で先発した。自慢の身長やフィジカルでチームの守備を助ける場面も多く、ビルドアップにも積極的に関わった。現状ではアダラビオヨとスタメンを争う形となっているが、この競争が今後の彼の成長へと繋がるのであれば、素晴らしいことだろう。

DF 33 アントニー・ロビンソン

成績:38試合出場・1アシスト
評価:A

スピードとフィジカルが売りのアメリカ代表DFで、守備にも奮発できるスタミナを兼ね備える万能型の選手だ。フラムの左サイドを制圧し、様々なチャンスを演出した。今シーズンは攻撃でも守備でも多大な貢献を見せ、自身も大きく成長を遂げたシーズンとなった。アダマ・トラオレを吹っ飛ばしたのは流石に笑った。

MF 38 ルーク・ハリス

成績:5試合出場
評価:C

ウェールズ出身のトップ下で、フラムで1番の期待の星。今シーズンは弱冠18歳ながらトップチームの試合にも招集され、プレミアリーグでもデビューを果たした。ユースチームでは10番を背負って大活躍を見せており、近い将来トップチームへの正式昇格が確実視されている。今後のキャリアが楽しみな最有望株だ。

監督 マルコ・シウバ

成績:44試合・18勝・8分・18敗
評価:S

選手たちももちろん凄いのだが、1番に褒めなければならないのは監督である彼ではないだろうか。チャンピオンシップでは圧倒的な強さでチームを優勝に導き、プレミアリーグではトップ10に入った。独自のチームスタイルを作り上げ、新加入の選手たちを上手く組み込み、マネージメントも怠らず、チームをもう1段階上のレベルに持っていった。その手腕が評価され、今シーズンのプレミアリーグの最優秀監督の最終候補にもノミネートされた。彼がいなかったら今のフラムはないので、チームをここまで仕上げた彼を賞賛したい。


〇来シーズンに向けて


・来シーズンに向けての改善点

躍進のシーズンとなった今シーズンだが、来シーズンに向けて改善しなければならない点もいくつか存在する。

個人的に気になったのは、

①攻撃が行き詰まった時に露骨に雑なクロスが増える

②ペナルティエリア内でブロックを敷かれた際の対応

③ファイナルサードでのアイデア

④上位陣相手の戦績

⑤「相性」の影響を大きく受ける


①、②、③は全て繋がっていて、フラムのクロスの精度は基本的には高いのだが(1試合平均成功数でリーグ3位)、攻撃が行き詰まってしまうと雑なクロスをあげまくってしまう場合がある。相手もそれが分かっているので、相手にとっては対応が非常に楽だ。クロスを警戒すればいいのでペナルティエリア内を固めはじめる。フラムはそうなった際の対応策を持っていないので、チャンスも作れず、シュートも撃てず、あっさり敗北してしまう試合がいくつか見受けられた。こうならないためにファイナルサードでのアイデアが必要になってくるのだが、これが足りないので、どうしようもない!という状況に陥ってしまう。例えば、ミドルシュートを狙ってみようとか、浮かせたパスを出してみようとか、エリア内で囮になってみようとか、そういう類の考えが選手たちの中にあるのかどうか。という話である。

第33節アストン・ヴィラ戦(0-1)の主要スタッツ

第33節のアストン・ヴィラ戦では、シュートをわずか1本しか撃てずに敗北した。攻撃面でのアイデアも乏しく、何も出来ずに文字通り”完敗”した試合。今シーズンのフラムにおける最悪の試合のひとつとされている。

第30節ウェストハム戦(0-1)の主要スタッツ

第30節のウェストハム戦はボール支配率で圧倒し16本ものシュートを放ちながら、1点も取れずに完封負けを喫した。文字通り試合を支配しながら得点を挙げることができず、こちらもアイデアに欠ける形となった。こちらも今シーズン最悪の試合のひとつとなっている。ちなみに、ウェストハムには第10節の対戦でも1-3で敗れており、シーズンダブルを決められている。

ウェストハム戦のパススタッツ

いわゆる強豪と呼ばれるチームはこうした対応策やアイデアを複数持っている場合が多く、それらを適切に実行できるので、あらゆる試合に勝つことができる。彼らとフラムではチームとしての攻撃のバリエーションに大きな違いがあるのではないか。

自分たちのスタイルがあるとはいえ、それを封じ込まれてしまうと何もできなくなるのは仕方ない部分もあるが、いくつかの選択肢を持っておくとより良い戦い方ができるようになるだろう。

シーズンを通してのゴール期待値は47で、総ゴールは55である上にこの記録はクラブ史上最多であるため、意外とゴールは奪えているのだが、来シーズンは攻撃のバリエーションを増やすことができればさらにゴール数は増えるだろう。

続いて、④と⑤だが、チームとして上を目指すのであれば上位陣から勝ち点を奪う必要があるし、相性が悪い相手とも戦えるようにしなければならない。

今シーズンの”BIG6”に対する戦績は、1勝2分9敗となっており、今シーズン大不振に陥ったチェルシー相手に2-1で勝利した試合が唯一の白星となっている。チェルシーからは2試合で勝ち点4を獲得したが、残りの5チームからはたったの1しか奪えていない。

また、上位陣相手の戦績も褒められたものではない。CL圏でフィニッシュした4チームから奪った勝ち点は”0”で、欧州コンペティション出場枠のある7位まで含めてもわずか3勝しか挙げられていない。トップ10全体になると、4勝1分13敗で、獲得した勝ち点はわずか13。

このように、上位陣相手の戦績は課題のひとつなので、改善する必要があるだろう。

しかし、13敗のうちの11敗は1点差での敗北であり、非常に惜しい試合をしていると捉えることもできるのではないだろうか。2点差以上で敗れたのは第9節ニューカッスル戦(1-4)と第27節アーセナル戦(0-3)のみで、先ほど挙げた攻撃面での課題が改善されれば戦績が十分に向上する可能性も高い。実際にチームのパフォーマンス自体は良かった試合もいくつかあるので、期待してみる価値はある。

…そして相性の話だが、フラムは今シーズン、6位ブライトンには2回勝ったし、逆に14位ウェストハムには2回負けたし、13位ウルヴスとは2回引き分けた。どんなに戦術が熟練されていて選手の質が高くても、相性の問題にはどのチームも悩まされるだろう。リーグ王者となったマンチェスター・シティだって、ブレントフォードに2回負けたし、トッテナムには毎年のように敗れている。

ただ、相性が悪くても、ある程度は戦うことができるはず。これはフラム以外のチームにも言えることだが、相性が悪いからと割り切るのではなく、相性が悪いからこそ勝ってやるんだという強い意志を持って試合に臨めば何とかなるかもしれないので、相性が悪くても屈せずにチャレンジしてほしいと思っている。


…長くなってしまったが、来シーズンのフラムには

・攻撃のバリエーションを増やす
・ゴール数を増やす
・上位陣相手の戦績を向上させる

この3つを課題として、来シーズンの更なる躍進に向けて精進してもらいたい。


・来シーズンの選手補強について

今シーズンは各ポジションに実力者を迎え入れて、安定してチームを強化することができたが、ローンから復帰した選手たちの扱いは考えなければならないだろう。何人もの選手たちが戻ってくるが、彼らと一緒に戦うのか、再びローンに出すのか、それとも別れを告げるのか、その決断は監督とフロントに委ねられている。

補強ポイントとされているポジションとしては、ストライカーとサイドバックと言われている。ミトロヴィッチの立場は言わずもがな、控えCFのカルロス・ヴィニシウスも頑張ってくれているのだが、CFが2枚だと少し心細いので、3人目のFWの獲得を視野に入れるのは選択肢としては悪くないだろう。

サイドバックに関しては、ロビンソンとテテが絶対的な立場を手にしている中で、彼らが不在の際になるべくクオリティを落とさないことが重要だが、今シーズン獲得した選手たちはいずれも高いパフォーマンスを発揮することができなかった。彼らの控えを探すのは簡単な仕事ではない。

また、2列目のポジションにも補強が必要になるかもしれない。ケバノはおそらく出て行くし、ウィリアンの契約は今シーズン末までだし、ダニエル・ジェームズとソロモンはローンで加入していたため一旦は所属元に戻ることとなる。彼らが全員クラブを去ってしまった場合、層がかなり手薄になってしまうため、補強が必要になる可能性が高い。このポジションは非常に重要で、ある程度のクオリティが求められるため、そこそこの金額を支払う覚悟が必要になる。

チームのスカッドとしては歪みが少ないので、大型補強を行使する必要はなさそう。主力の流出を避けつつ人員整理を行い、補強が必要とされているポジションに適切な選手を連れてくることが重要なポイントになりそうだ。


〇まとめ

長くなりましたが、今シーズンのフラムの総括を終わっていこうと思う。

あくまで個人的な主観に基づく総括なので、当然意見の相違も出てくるだろうし、「こんな考え方もあるんだな」というように、参考にしてくれれば嬉しい。

来シーズンは一体どんなドラマが生まれるのか。そして、フラムはどんな成績を残すのか。

来シーズンのプレミアリーグも楽しみだ。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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