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初めて短歌集を買った雑記

はじめに

この記事は企画「雑談カテゴリーアドベントカレンダー」にテーマ「本」の記事です。他の記事はこちらから読めます。


パソザラシこと、青二才です。

短歌はお好きだろうか。
自分はどちらかというと好きであり、国語の授業中はよく短歌や詩のページを開いて眺めていた。
でも、この程度だった。
詩はそこにあったから触れて気に入っていたが自分から進んで触れようとするような世界ではなかった。
それが今月、急に短歌集を買ったので、ご紹介したい。

経緯

経緯、と改まって説明するほどのことはないが、きっかけはdiscordサーバー「みんなであつまりま専科」管理人であり、ウェブライター、小説家としても知られるダ・ヴィンチ・恐山こと品田遊さんの動画である。

シャニマスもやったことなかったが興味本位で見たものだが、そこにゲストとして歌人の木下龍也さんが出ていた。

ここで出した短歌がとても印象に残った。件の短歌は、ストーリー中のキャラクターについて詠んだもので、お題をしっかり汲みつつ美しくまとめられていた。こちらで短歌だけ紹介しても勿体ないのでぜひ動画を見てほしい。

この動画以降、本人のTwitterなどでさらにいくつかの短歌を目にする中でますます興味が湧き、本屋に向かった次第である。

購入した歌集

木下龍也 『あなたのための短歌集』

木下龍也 『オールアラウンドユー』


オールアラウンドユーに関しては、文庫より少し大きく、あたたかみのある肌触りの装丁がされていた。また、カラーバリエーションも存在しこだわりを感じた。

『あなたのための短歌集』

歌人・木下龍也さんが「お題」を受けて作歌する短歌の個人販売プロジェクト「あなたのための短歌」が一冊の歌集になりました。
依頼者の協力を得て、これまで作歌した700首の中から100題100首を一冊に収めました。歌人がひとりの想い(お題)と向き合うことで生まれた短歌が詰まった歌集です。

あなたのための短歌集 木下龍也 - ナナロク社の店

上記の通り、あなたのための短歌集は一問一答のように一般の方からのリクエストを受けて作られた句を集めたものである。
右ページには依頼者の依頼内容(お題)が、左ページにはそれに対する木下龍也さんが書いた短歌が載っている。

この回答がどれも美しい。社長風にいうと、これホントあっぱれです。

お題は単純にお題は〇〇で、というものから悩み相談のようなものまで幅広かったが、そうしたお題に押し付けがましくない温度感で寄り添い共感し、時にはゆっくり刺すような句が詠まれている。

これが短歌の五七五七七に詰まっているため、コンパクトな美しさを感じさせるのに噛みしめるほど味わい深い。

詩はそこに存在しているものに違う角度から光を当て、言葉に落とし込んでいくという性質があると思う。これが悩みという主観に囚われてしまうものに対して効果的なものとなるのかもしれないと、素人ながらに感じた。

お題というシステムも、コンテクストをもたらすことで深みを生んでいる。
自分は美術館を解説付きで見るのが好きなのだが、この歌集では短歌がお題を元に書かれることになるので逆説的にお題が解説の役割も果たし、個人的にはそこが短歌を楽しむ入り口としてありがたいものであった。

『オールアラウンドユー』

オールアラウンドユーは、シンプルな短歌集だった。
1ページ1ページに、一首印刷されている。

この短歌集のテーマというか良いところはこの歌集の題ともなっている一句にまとめられている。

詩の神に所在を問えばねむそうに答える All around you

木下龍也『オールアラウンドユー』(2022) ナナロク社

身近な場所、物、体験、愛、記憶、憧れ。
そうしたものがたくさん詠まれている。

これも五七五七七に詰まっているものの豊富さに舌を巻いてしまった。

たった一文の文字をなぞり、頭の中でイメージを生成し、もう一度文章に目を戻す。
これだけで情感が滲み出すように湧き、ため息をつきたくなる。

なんとなくの話になってしまうが、木下龍也さんの句は理知的な印象がある。感情を直接揺さぶるというよりは、緻密に組み合わせられた言葉を読み手に委ね、それを読み手が解いていくことで成立する芸術であるように感じる。

不勉強で申し訳ないが短歌の技法なんかには詳しくなく、どんな見事な技が詰まっているのか、そういった紹介は全くできない。
それでも、これほど無知な状態でもこれほど良さに触れられる、というのはすごく嬉しい体験だった。

句の紹介

2つの歌集から、好きなものを一部だけご紹介したい。

(以下、読まなくてもいい言い訳)
感じた良さを解説のように書こうとも思ったが、良さというものは筆舌に尽くしがたいものがあり、自分なんかの拙い言葉でむりやり言語化してみても蛇足である気がした。
また、こういったものは受けとる側であるあなたがどう感じるかがそのまま正解だと思っているので、こう感じたよというのも野暮な気がしたため紹介だけに留めさせて頂く。
自分の好きだったものを見てもらうだけで十分これ幸いです。

『あなたのための短歌集』から、病床の祖父が自分を忘れてしまった、その悲しさを短歌にしてほしいという依頼。

どなたって戸惑う祖父を抱きしめたかなたで思い出してほしくて

木下龍也『あなたのための短歌集』(2021) ナナロク社


食うものと食われる者をはっきりと隔てるために箸は置かれる

波ひつとひとつがぼくのつま先ではるかな旅を終えて崩れる

生きてみることが答えになるような問いを抱えて生きていこうね

木下龍也『オールアラウンドユー』(2022) ナナロク社