『まじ』
『まじ』
R6.6.7
磯のものしきり匂はし瀬戸のまじ
いそこ
真風吹かば釜屋に塩の匂ひ立つ
近江菫花
まじの夜を釘の頭の迫り出して
ろまねす子
船着場の台車の錆やまじ強し
でんでん琴女
まじ吹くや祖父の船なきもやい石
井上れんげ
まじ止みて千代丸の帆の皺に潮
木ぼこやしき
山羊潰し終へたる島の昼をまじ
アロイジオ
夜をまじコインシャワーは二甲板
板柿せっか
コンクリの明るく湿るまじの駅
北野きのこ
海砂の積るばかりやまじの町
駒村タクト
まじと記す警ら日誌の一日目
熊の谷のまさる
まじ吹けば船渠を走る錆の水
彼方ひらく
まじ吹けりガードレールを逸れ去る
森野みつき
のつたりとまじの腐せる榴弾砲
黒子
まじ止んで毒ガス島の錆匂ふ
椋本望生
R6.6.14
まじなんぞ怖ぁはないが捕れんのよ
寺尾当卯
まじが尻撫でて早速逃げやがる
凪太
まじ受くる磯や釣果のまじ任せ
めろめろ
まぜ吹くや俺漁師にはならんけん
水蜜桃
まじの夜の船に潰るる古タイヤ
桃園ユキチ
真風やぐいぐい獣めく舫綱
一斤染乃
まじ吹くやねぢれる波は波を生み
常幸龍BCAD
まじ吹くや孔雀の飼われたる寺に
とべやすこ
まじ激し斃死(へいし)のあこや貝の山
津島野イリス
龍馬の眼荒ぶまじとは腥き
冬のおこじょ
日和見のピース一箱伊豆はまじ
鈴木麗門
淋しさに餓ゑたるまじの温さかな
樹海ソース
海亀の眼窩を埋めるまじの砂
世良日守
『天』
夕まじや波濤いつまで火の穂なる
イサク
教え~まじには「穏やかな風」と「不穏な風」の二つの意味が地域によって違う意味がある。
「まじ」という季語に対して「吹く」という動詞も使いよう。(R6.6.13 一句一遊 虎の巻 談)
【火曜日クラス】
〇まじ吹くや足早くして帰宅する
釈然
※まじが吹くことによって帰宅の足を速めるという、季語との因果が見える。形は出来上がっているが、まだ、季語と近く接点が強すぎる。
〇まじ吹くやリハビリ靴の軽きこと
柊瞳子
※「リハビリ靴が軽い」と個人の要素が見え、少しだけ具体的になっている。水曜日が近づいているが、「吹く」ことによって「軽い」と因果関係が成立してしまいうる。
【水曜日クラス】
〇島へまじ神の大楠揺らしをり
小手毬
※「吹く」という動詞を使わずに風の動きを表現出来ている。
さらに「島へ」と言うことで、その周辺は海であろうことがわかる。
〇油紙頬にぺたりとまじ来たる
りもぽい
※肌の些細な感覚の変化を表現することで、まじの質感を表現出来ている。
〇まじ吹くや漁船に鳥の群がりぬ
伊藤恵美
※「吹く」ことによって起きる映像の変化に繋がっている。ホバリングしている鳥の羽の内側にぼわっと吹き上がるまじの圧力、その瞬間を「吹く」によって捉えられている。