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2019年のコリドー街

 三年ぶりにコリドー街を歩いた。

 2019年、26歳の弁護士秘書というテンプレのような肩書きをつけて、商社マンとの合コンやら、広告代理店の社員と『dine』の待ち合わせ(と言う名のタダ飯)に明け暮れていた街だ。『東カレデート』では薔薇ランキング一位にもなったなぁ。ねーすごい? いや、昔の栄光に縋るなよな。どうでも良い記憶を辿る。

 コロナ期間に私は結婚をしていて、都内にいなかったから、31歳になって久しぶりに歩いた。
 一回目の結婚について語ることはない。
 職場というものはなくなっていて、フリーランスだから、もうキラキラの丸の内OLではない。

 ナンパをされに行ったわけではない。と自己弁護をさせてもらう。新橋に用事があり、日比谷ミッドタウンで映画を観るという金曜日だったわけだ。懐古趣味でコリドーに足を踏み入れた。

虎ノ門横丁とか麻布台ヒルズができても
やっぱりコリドーには引力がある。

とにかく懐かしかった。だけど、インバウンドが進んでいて白人や中国人が沢山いた。道に溢れかえるくらい。「裏コリドー」とかいうやけに綺麗なエリアまで出来ていて、何かが違う。もちろんナンパ氏は健在だ。

「おねーさん、綺麗ですね」
「どこ行くの?」
「ちょっと待ってください!1分!!」

ありがとね。ごめんね。
お姉さんはもう31歳なんだよ
あれから三年も経ったんだ
日比谷のナイトクラブもアゲハもなくなった。

あのころ、2019年。
金曜日になると決まってセフレのSくんと
手を取り合ってコリドーを駆け抜けた。

マッチングアプリで顔合わせをしても
お互いに合コンがあっても
23時からは用事を済ませて落ち合った。
セフレというより「一種の青春」だった。

SL広場で待ち合わせ
コリドーで安物の焼酎を飲んで
(メガレモンサワーとかそういうやつ)
「酔った〜」とn回目の合言葉を言いながら
レンタルルームに倒れ込んだ。

終電の山手線をBGMに
隣の部屋から聞こえる喘ぎ声を
「わざとらしーね」「絶対風俗だろ」
とクスクス笑い合った。

ねぇ、いつものレンタルルーム、なくなってて
ソープになってたわ。たい焼き屋も移転した。
新橋のHUBはまだあったよ。

「アフリカの子供のためにビジネスをやる」
『お願いだから目の前の私を幸せにしてよ』

言わなかったけど、USCPAとか取れちゃう
東大卒の総合商社マンSくんは
きっと夢を叶えるんだろう

何人と寝て、いまから何人と寝るの?

土曜日になると決まって君が買ってくれたペットボトルのミネラルウォーターを一人で眺めるのって案外さみしかったよ。

Sくん、いま幸せ?

最初はただの友達だったよね
三菱商事の元彼氏と三人で写真も撮った
『総合商社就活セミナー』とかいう
意識高めの場で出会ったよね

「いま新橋」のLINEではじまる金夜の冒険は
いつだってSくんが手を引いた。

2019年のナンパ氏たちだけど
こんな日曜日には子どもの写真を
インスタのストーリーにあげてるよ。

ストーリーをタップしたら
赤ん坊の写真しか出てこないもん。
世界はどんどん前に進んでる。

昔飲んだ女の顔なんか覚えちゃいない。

三菱商事、三井物産、住友商事、電通、博報堂、ADK、日本航空。男なら無限にいたね。

みんな紳士的で優しくて、好きだったよ。

Sくんと駆け抜けたコリドーが
一番好きだったけどね。
何歳になっても
SL広場で待ち合わせたの忘れないよ

そんな話をグダグダしながら
アゲハ行ったなー!飲んだなー!
「懐いなーっ!」なんて
肩を組みながら、新橋を歩きたくなった。

みんなもういないんだけどね。

輝いていたものの全ては記憶の中にしかなくて

大人しく映画を観てから
綺麗なマンションに帰宅した。

私まだ大人にも子供にもなれないからさ。

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