ゆるふわポエムレビュー#1 蜂飼耳「モンゴロイドだよ」

好き度:★★★★☆ 〝ゆかいな語感の中身は広大(?)〟

詩人・蜂飼耳は、同門の先輩であり、師でもあります。
「師」といっても私は大学の講義を受けていただけで、講義の内容も教わったと言っていいものかどうか。
学生が書いてきた詩を蜂飼先生が取り上げ、読み、感想を言う(特に指導やアドバイスなどはない)。学生はそれを聞いていたり聞いていなかったりする、というふわっとした授業でした。
講義の最終日には、荒川洋治氏がいらしていました。荒川氏からは、学生に薦めたい本の紹介をしていただきました。その本リストの五分の一も読めていませんが、その時のレジュメは念のため取ってあります。

そんな直接お会いしたことのある、詩人・蜂飼耳。
印象は、「平熱の女性」という感じです。
とても淡々としていらっしゃいました。
スタバよりルノアールって感じでした。

取り上げる作品「モンゴロイドだよ」は『食うものは食われる夜』所収。
私は蜂飼耳の詩集の中ではこの『食うものは食われる夜』が一番好きです。
芸術選奨文部科学大臣新人賞を獲っている詩集です。
賞の読み方がよくわかりませんが、すごくすごいということはわかります。

詩集のタイトルになっている作品「食うものは食われる夜」も面白くて好きなのですが、この中で一番好きな作品が「モンゴロイドだよ」です。
タイトルが強い。「モンゴロイドだよ」そうなのかあ~!モンゴロイドなのかあ~!!
モンゴロイドがいかほどのものかもわかりませんがとにかくモンゴロイドなのだ。
モンゴロイドって音が楽しい。もんごろいど。ごろごろしてる。
「だよ」念押し。圧が強い。もんごろいどだよ。あっはい。そうですね!!
この詩集の一番最初の作品がこの「モンゴロイドだよ」なのですが、一作目に相応しい圧を放っている気がします。
よくわからないので気がするだけですけど。

たった一連の短い詩です。
「すすっていた」から始まる。何を?食事風景っぽい描写が続きます。
何を食べているんだろうか、「すする」「縁」と出てくるから、お椀っぽいものを想像していたらかざしたりあぶったりするので肉か!?となる。
「こんがり」。原始時代の食事風景を想像する。
たき火のそばで肉を焼いて手づかみで食べている光景を思い浮かべる。
淡々とした食べ物の描写が、原始的な想像をかき立てるのかな?
夢想していたら、最後から二行目の「誰もいないお昼」で急に現代に引き戻される。
「お昼」というワードが急に鋭角に入ってくるからびっくりする。
全然原始的じゃないやないか~い。朝ごはん昼ごはん夜ごはんがしっかりある世界の話だこれ。
さっきまで夢想していたのに、そのギャップがおもしろい。
最終行「私は噛んでいた」。すすっとったんちゃうんか~!噛んどるやんけ~!愉快。
結局何がモンゴロイドなのか全然わからない。愉快。
音もいいです。ぽつりぽつりとしてる。
破裂音の少ないおとなしい音ばかりが集まって、淡々としてきれい。

全然詳しくないけど、モンゴロイドって人間の種類のことっぽいから、「たべる」というプリミティブな所作と、原としての人間を重ねているのかな?
「噛む」がモンゴロイドなのかな?それとも「たべること」がモンゴロイド?
それとも「それをするわたし」「たべるわたし」がモンゴロイド?
すごく単純な情景を描いた詩のようにも思えるし、この十行の奥に、何か途方もない「人間とはなにか」的な、アクティブな哲学のような、なんかよくわからないけどすごそうな思惑を秘めているような気もする。
こういうのを「言葉に奥行きがある」って言うんだろうな。いやしらんけど。

この「モンゴロイドだよ」という詩は現代詩文庫の『蜂飼耳詩集』にも収録されているのですが、『蜂飼耳詩集』には荒川洋治氏の作品論が載っていて、そこで「モンゴロイドだよ」が解説されています。(冒頭の小話が回収できたぞ!)

食べるという行為、その向こう、はるか昔からあるものが、手書きの直線で結ばれ、「すすっていた」と「噛んでいた」という、二つの動作のなかにおさまる。のんびりとして、うららかなのに、とても深みのある詩だ。

つまり・・・・・・??????

印象の面ではそれほど食い違ってないように思いますがどうか!?
「深みのある」って「奥行きがある」ってことじゃない!?違うか!?
でも「のんびりとして、うららか」って全然思わなかったわー!
もっと切実な感じに受け取ってたわー!
「食べる」=「生きる」みたいな感じに捉えてたからなあ。
「手書きの直線で結ばれ」ってどういう意味?
投影してるってこと?関連付けてるってこと?わからん
荒川氏の詩評はこの後も「知覚の発見と確認」とか「時の分岐点」とか「不安と期待を浮かべる詩の新しい素顔」とか、言葉を尽くして作品を誉めてる(たぶん)のですがその詳細がビタイチわかんねえ。もっとゆるふわな言葉でほめてほしいです。よろしくお願いします。

そんな感じで、詩評と一致しているようで全然一致していない読み方だったのですが、それはそれで有りなんじゃないかなと思っています。人それぞれ!
わからないけど愉快、わからなくて面白い、という感覚は、詩ならではじゃないでしょうか。
純文学だからってエンタメ的な消費をして悪いわけでは絶対にないし、個人的には「え!意味わかんないんですけど!ウケる」という感覚は大事にしていきたいです。
そして「モンゴロイドだよ」の読後感はこのいみわかんない!おもしろい!という感じがとてもあって、だから私はこの詩が好きなんだと思います。
おわりです!

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会場:ゆふいん文学の森(https://bungaku-mori.jp
公式サイト:https://mdevent.one-pg.com/15338
公式twitter:@MDGallerys

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会場:「回遊Cafe#204」(大分県大分市 府内町2丁目4-5 若竹ビル2階)

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新作詩集(11月刊行予定)『愛ににたものとなりはうつろ』の発行に合わせ、2017-2018年の作品を「ヴィジュアライズに重点を置いたバリエーション」で展示いたします。

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11:00~17:00(最終日~16:00)
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17日(土)13:00~
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※参加費用600円がかかります。
16日(金)13:00~
17日(土)15:00~

詳しくは個人サイトをご参照ください。
〝原稿用紙はもういらない詩〟をご覧いただきたいなと思っています。
どうぞ会場に足をお運びください。お待ちしております。

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