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「芙美湖葬送」④ー1

医師は「時間の問題だ」といった


いまもコロナは収束していない

多くの老人が肺炎で死ぬ。どんな病気であれ多くの老人が肺炎で死ぬ。老人にとって肺炎は、死に至るもっとも身近な病気なのだ。芙美湖(妻の名前)もそうだった。長い病気だった。俗に膠原病といわれる。自己免疫疾患である。ステロイドを多用した。だから体がボロボロになっていた。

行き着く先が肺炎だ。
ナースステーション脇の部屋に移された。「面会謝絶」の札が掛けられた。

最初の気管挿管が行われた。その時まだ芙美湖には意識があった。最初の気管挿管は芙美湖は恐怖で失敗した。パパ、なんでこんな酷いことするの? 医師の指示なんだ。頑張ってくれ。このままでは呼吸が出来なくなる。だから人工的に酸素を送り込むしかない。

頑張ろうね。芙美湖は首を横に振った。

主治医に拠れば、気管挿管自体炎症の原因になる。だからやりたくない。でも自己呼吸が出来なくなった。挿管しかない。それも一週間ごとに菅を取り換えねばならない。

肺炎菌の他にさまざま細菌が肺を侵している。常在菌までが悪さをするようになった。抗生剤が利かない。だから自己呼吸は無理だ。器官挿管で人工的に酸素を送るしかない。それも一週間が限度である。抜管して新しい管に交換をしなければならない。

コロナで話題のエクモはまだなかった。あったのかもしれない。でも大学病院以外にはそんな大掛かりな治療器は置いていないだろう。高価な機械だから一般は使えない。一般は器官挿管で人工的に酸素を送り込む程度だろう。

なぜ抜管するのか。管と接触した部分に炎症を起こすから。一週間したら抜管して、新しいパイプと取り替えなければならない。その時にまた苦しむ。その苦しみを見ていられない、と私は思った。

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満85歳。台湾生まれ台湾育ち。さいごの軍国少年世代。戦後引き揚げの日本国籍者です。耐え難きを耐え、忍び難きを忍び頑張った。その日本も世界の底辺になりつつある。まだ墜ちるだろう。再再興のヒントは?老人の知恵と警告と提言を・・・どぞ。