2081年のドナ・リー
今からちょうど3年前に、僕はこんな文章を書いていました。
新型コロナウイルスの存在も、それによる社会の急激な変化も、全く予想していませんでした。まさに事実は小説より奇なり。それではお楽しみ下さい。
2081年のドナ・リー
(1)
僕らはどう足掻いても、未来の事は分かりません。今日は2017年5月25日です。つい先日イギリス、マンチェスターのアリアナ・グランデさんの公演を狙ったテロがありました。知っていたら、行かなかった人もいるでしょう。僕らは未来の事は分かりません。
だけど、想像する事は出来る。今から64年後の2081年5月25日を想像してみます。
ご覧ください。部屋に一本のアコースティックギターがあります。5弦のちょうど半分のところを軽く指で触ってピックで弦を弾くと、実音のA音の1オクターブ高いA音がなる事でしょう。見知らぬ男性が今、鳴らした音をハーモニクスと言います。
次に、同じ5弦の全長の1/4の点。5フレットの真上に指で軽く触って、ピックで弦を弾くともう1オクターブ高いハーモニクスが出ます。どんなに人類が進歩しても、そこは変わらないはずです。
その頃、音楽はどうなっている事でしょう。見知らぬ彼はつまらなそうに、5弦の2種類のハーモニクスを交互にゆっくり鳴らし続けます。
おそらく、街並みも人のスタイルも行き交う車のデザインも想像出来ないほど変わっている事でしょう。だけど、彼がこうして鳴らしているハーモニクスは今と全く変わらない。
僕は、その昔ジャズを生み出したのはギタリストだったんじゃないかと思っています。ハーモニクスがこんなにも簡単に弾ける楽器は他に無いですから。
(2)
2つのハーモニクスは交互に鳴り響き、穏やかなリズムを伴って音楽になりました。
彼は飽きたように、1弦や2弦や3弦の12フレット上のハーモニクスを一気に鳴らしたままギターをギタースタンドに立てかけて立ち去って行きました。ハーモニクスはまだ鳴り止みません。今から64年後の音楽はどうなっているのか確かめに行きましょう。
僕らはただの意識。さっきまでハーモニクスを鳴らしていた彼に僕は見えない。そしてこの文章を読んでいるあなたの事にも絶対に気づく事はありません。スーッと全てを通り抜けて、彼のやる事なす事覗き見出来ます。ここはどこでしょうか。おそらく上越市直江津だと思われます。関川と、保倉川が合流しています。今ちょうど夕暮れ時に差し掛かろうとしています。前方に灯台が佇んでいます。夕方7時くらいでしょうか。静かです。
釣り人がじっと、釣り糸を垂れています。
もう1つ確かめに行きたい事があります。本来音楽は誰のものでも無い。ドを鳴らしたきゃいつ鳴らしたっていいし、D7の響きが欲しけりゃいつでもそこにある。うるさかったらごめんなさい。だけどそれでも僕らは音楽を楽しむ事に関して、誰からの許しも要らない。この時代もそうであって欲しい。と強く思います。それがこの時代も変わっていない事を、一緒に確かめに行きましょう。
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