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火を吐く大怪獣現る!

 ホテルの1室で目が醒める。時計は10時を少し回ったところだった。
 カーテンの隙間からはまぶしい光が漏れている。今日もいい天気のようだ。

 いきなり、ズシンッという強い振動が起こった。やや間を置いて、部屋がゆら~と揺れる。
「地震っ?!」わたしは慌ててベッドから飛び下りた。するとまた、激しい地鳴りが響く。ぐらぐらと揺れるホテル。
 まるで、巨大な杭打ち機で地面を叩いているかのようだ。

 窓まで行き、カーテンを開けて外の様子を見にいった。ビルの密集する大都会が広がっている。
 数百メートルほど先で、なんと大怪獣が暴れていた!

 カボチャそっくりの頭、四方にパックリと開いた大きな赤い口。そこからリズミカルにマグマの塊を吐き出しているのだ。
 マグマは家ほどの大きさもあり、周辺の建物はひとたまりもなく崩落してしまう。悪夢のような怖ろしい光景だった。
「大変だ、早くニュースを見なくちゃっ」わたしはテレビを付けた。NHK、日テレ、TBS、朝日、どのチャンネルもライブ中継で報道をしている。東京テレビだけは、いつも通りにアニメを放映していた。

 各テレビ局は、それぞれ別のアングルで映像を流し続ける。おかげで、どこがどれだけの被害を受けているかなど、状況が把握しやすい。
「自衛隊はまだ来ないのかなあ。このままだと、辺りは廃墟になっちゃうよ……」わたしは心配で居ても立ってもいられなかった。案外、世界の終わりというものは、こんなふうに始まるのかもしれない、そんな思いがよぎる。

 大怪獣はその場を動かず、ただ周囲にマグマを飛ばしていた。吐く時に、ドシューンッという衝撃音がし、建物を破壊するたびに地響きと振動が起こる。
 怪獣を中心として、ドーナツ状に炎が上がっていた。その炎も、次第に外側へと広がっているようだ。
「この際、ウルトラマンでもいいから来てっ!」わたしは祈るような気持ちで声に出した。あんな怪獣がいるのだから、ウルトラマンだってきっと存在するに違いない。

 怪獣のはるか頭上で、何か銀色のものが光った。
 まさか、本当にウルトラマンが?!

 雲ひとつない青空のなか、日の光を受けて輝きながら、それはどんどん大きくなっていく。どうやら、怪獣めがけて落ちてくるようだった。
「あれは、まさか……」初め、空飛ぶ円盤かと思った。雑誌で見たUFOの写真そっくりだ。地上に近づくにつれ、次第に形がはっきりとしてくる。「やっぱり、そう。あれは、コントでお馴染みの金ダライじゃん!」
 金ダライは、ゴオオオ~ンっと派手な音を立てて、怪獣の頭を直撃する。「グウェッ!」と叫げ声をあげると、そのまま倒れてしまった。

 各局のレポーターたちは、ポカンと口を開けたまま言葉を失う。
「平和が戻ってきた……?」あまりに突然のことで、頭の整理が追いつかず、どこまでが現実なのかわからなくなってきた。
 テレビでは、NHKが慌てたように続報を伝え始める。
「た、ただいま入った情報によりますと、都心に出没した未知の巨大生物の頭上に、これまた巨大なタライが落下し、これによってこの巨大生物は絶命した模様です。繰り返し、お伝えします――」

 例のチャンネルに換えてみると、アニメの画面の上の方に、申しわけ程度のテロップが流れていた。
〈東京に「四面怪獣・フォーフェイスが現れ、金ダライでノックアウトされる……〉

 何もかも、平常運転。明日も晴れるといいな。

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