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半魚人の襲来!

 街に半魚人が攻めてきた。数百、いや数千匹だろうか。とにかく、すごい数だ。
 連中は、上半身がドジョウ、下半身が人間の姿という、実に奇っ怪なモンスターだった。

「むぅにぃっ!」誰かがわたしを呼ぶ。振り返ると、桑田孝夫が駆けてくる。
「あ、桑田。大変なことになっちゃったね。自衛隊はいつ頃来ると思う?」わたしはやきもきした気持ちで言った。
「さあな。自衛隊を待つ間、まずはおれ達にできることをしようじゃねえか」
 桑田はバッグの口を開けた。ぎっしりと武器が詰めこまれている。

「また、ずいぶんと持ってきたね。職務質問にあったら、しばらくは帰してもらえないかも」
「ばか、いまはそれどころじゃねえだろ。ほれ、お前はこれとこれを持ってろ。アイトールのジャングル・キングとウージー」そう言って、ナイフと機関銃をわたしによこす。
「機関銃なんて使ったことないよ? それに、ナイフならうちにも包丁があるし……」
「ウージーなんて、ガキでも使えるぞ。それに、お前んとこの包丁、あんな先の丸まったやつで、いったい、どうしようってんだ」

 そうこうしているうちに、半魚人はわたし達の住む一画まで押し寄せてきた。
「よっしゃむぅにぃ、奴らに鉛の弾をお見舞いしてやれっ!」そう叫ぶなり、桑田は半魚人に向かって撃ち始める。わたしも見よう見まねで引き金を引いた。
 下手な鉄砲も数打ちゃ当たる、というけれど、さっぱり当たらない。
「くそおっ、あいつらドジョウだから、のらりくらりとかわしやがるぜ」桑田は歯ぎしりをした。
「ねえ、桑田。ここはいったん逃げて、誰かに相談しない?」とわたしは提案する。このままでは、とても勝ち目がない。
「だな。そうしようっ」

 わたしにはアテがあった。
「町外れにさ、『妖怪ポスト』を見つけたんだ。鬼太郎に応援を頼もう」
「鬼太郎だって?」桑田が驚いたような声を出す。「なるほど、そいつはいいや。モンスターには妖怪で対抗というわけだな。よし、すぐに手紙を出そうぜ」
 わたしはコンビニで便箋と封筒を買って、さっそく救援の手紙を書いた。それを町外れにひっそりと立つ、妖怪ポストへ放り込む。
「これでよし、っと。あとは鬼太郎が来てくれるのを待つだけだね」もうすでに解決したも同然だった。わたしはほっと、一息をつく。

 その日のうちに手紙が戻ってきた。「料金不足」と判が押してある。
「あっ、しまった。切手を貼るの忘れてた」
「おまえっ、何やってんだ」桑田が呆れる。「どうすんだ? いまから出しても、もう間に合わねえぞ」
 ただでさえ焦っているのに、この日はばかに気温が上がった。もともと働かない頭が、さらに鈍くなる。

 半魚人の進撃が滞ってきた。しばらくすると、全員が方向転換をして、森の方へと慌てて走っていく。
「どうしたんだろう? みんな、どこへ行っちゃうの?」わたしは逃げていく半魚人を、困惑した面持ちで見つめた。
「うーん、どうやら湖に向かっているらしいな。そうか、奴ら、暑いもんだから、水に逃げ込むつもりだな」
 
 わたしは、はたと思いついた。
「そうだ、湖に豆腐をどんどん、放り込んだらどうだろう」
「豆腐をか?」
「こんなに暑いんだもん、ひんやりとした豆腐に潜ろうとするんじゃないかなあ」
「ほほう。で、そのまま湖の水を煮込んじまうってわけだな」桑田はわたしの案を察する。
  
 さっそく、町中に呼び掛けて、ありったけの豆腐を湖へ投げ入れた。
 思った通り、ドジョウ人間達は、冷たい豆腐の中に身を隠すのだった。
「それ、いまだっ!」町民総出で、真っ赤に焼いた石を次々と放り込む。
「うまいこと考えたな、むぅにぃ」桑田が肘でわたしをつついた。

 やがて、辺りにおいしそうな匂いが漂い始める……。

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