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年間売り上げ1億円の作業所のシステム

こんにちは、ドンキホーテの階段で派手にこけたムーディです。スリッパがすっぽ抜けた。

6週連続連載!毎週火曜日更新。「新卒で日本最古の精神障害者福祉工場に入職した男」シリーズ第2弾。2020年6月2日からはじまり、2020年7月7日最終回予定。よろしくですー!!

▼前回の記事はこちら

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皆さんは全国にある1事業所の平均年間売り上げはご存じですか?

「障害のある人の『仕事』に関する調査」(きょうされん加盟322法人・348事業所からの回答)によると大体956万円ほどだという。

私が所属するソーシャルファームピネルの年間売り上げは約1億円ほど。全国平均の10倍ほどになる。

今回は年間1億円稼ぐソーシャルファームピネルは具体的にどのような事業、システムで売り上げをあげているか紹介していく。

1.クリーニング事業~リネンサプライというBtoB~

ソーシャルファームピネルの事業内容、それはずばりクリーニングである。大型のクリーニング企業の下請けの元、リネンサプライを主としたクリーニング事業を展開している。

「リネンサプライってなんやねん?」という人もいると思うので解説!

リネンサプライとは病院やグループホーム、老人ホームにシーツやタオル、病衣、白衣、布団等を貸し出し、定期的に回収。回収したものを洗濯、仕上げて再び貸し出す、というクリーニング手法のことである。

クリーニングと聞いて普通の人は自身のスーツや洋服をクリーニング屋に持って行くというのをイメージするかもしれない。

しかし、ピネルのクリーニングはあまりそういった個人のものは扱っていない。病院やグループホーム、老人ホームなどを相手にしたBtoBを中心としたクリーニングを回しているのである。

2.全体の流れ

ではこのリネンサプライというクリーニング業務はどのように展開されていくか。どのような作業があるか。概観していこう。

(1)洗濯物(不潔品)の回収、集荷

まずはここから始まる。契約している病院、グループホーム、老人ホームに車で洗濯物(不潔品)を集荷。和歌山市内という近いところもあれば、高速道路を使って紀南まで行く遠いところもある。

集荷が少ないところには1人で。多いところや1人では大変なところは2人で集荷に行く。

ここ最近はコロナウイルスの影響で病院などの立ち入りの際には体温を測ったりとなかなか厳重なチェックのもと洗濯物の集荷に行くことに。

集荷に行く人のうち最低1人は車の運転ができる必要があり、集荷の際に集荷先との最低限のコミュニケーションが必要になってくる。ちなみにムディオは苦手である。

(2)洗濯物の仕分け

集荷してピネルに帰ってきたら次は洗濯物の仕分け。

布団やシーツ、タオルや病衣など1つ1つ洗い方が違っていたり、集荷先によっては枚数を洗濯物の数を数えておく必要がある。

血がついている、便がついている、特殊なシミがついている。

これらも洗い方が変化するためにここで仕分けしていく。ゴミが混ざっていることもあるので洗濯機に入れてしまわないようにここで取り除く。

▲洗濯物の仕分けをするムディオ。カメラ目線。

(3)洗濯をする

ピネルには洗濯機が合計6台ある。洗濯の仕分けをしたら、いざ洗濯。洗濯するものの種類にあわせて使う洗剤を変えたり、設定温度を変えたり、、、。

洗濯1つとっても奥が深い。洗い方を間違えてしまうと商品の色が抜けてしまったり、殺菌ができていなかったりするので間違わないようにする。

▲ムディオの作業着ズボン。強力な洗剤がかかるとこうなる。

服にかかると穴が空いてしまうぐらいの強力な洗剤も使うために注意も必要。写真はムディオが1年目のときに派手にズボンにぶっかかった様子の写真。白くなっているのは洗剤によって色が抜けてしまっているから。作業着ではなく、お気に入りのズボンを履いて仕事をするようなものなら痛い目にあう。

ムディオの仕事着、靴はいつ洗剤がかかってもいいようにボロボロのを使っている。(仕事終わりにもしデートに行くとするならば100%着替えて行くことになる)

ちなみにこの洗濯機。さすが業務用ということもあり、家庭用洗濯機と違って一度に洗える量は段違い。

一度に

・冬用掛け布団10枚

・夏用掛け布団20枚

・シーツ50枚

・おしぼりタオル1000枚

・枕カバー500枚

が洗える。(ちなみにムディオの家は掛け布団1枚洗うのが精一杯。業務用様々)

洗い上がった洗濯物は水を含んでいるために取り出すのにある程度の力がいる。なので、洗濯機を扱う人はある程度の力があり、洗濯物の種類を見極めて適切な洗い方ができる人が求められる。

(4)仕上げる

〇シーツや枕カバーの場合

シーツや枕カバーは洗い上がり次第、種類ごとにまとめてこの巨大なローラーでしわ伸ばし&アイロンをする。シーツ類は大きいので2人でシーツの端を持って通すことになる。

このローラーに入った枕カバーやシーツはアイロンがかかったみたいにピシッと伸びた状態として出てくる。

出てきたシーツ、枕カバーを最後にもう一度汚れや破れのチェック、髪の毛などがついていないかチェックして納品数を仕分けていく。

このローラーは巨大なアイロンということでつねに蒸気が出た状態で熱を放っている。冬は暖かいが、夏はとんでもなく暑い仕事場になり、研修や実習に来た人がクタクタになることも。そんな中、ピネルの人はノリノリで仕事をしている。すごい。

ピネルの人は暑さ耐性抜群で、夏にめっぽう強い。

6月ぐらいに暑い暑いと言っていたら、

「夏はこんなもんじゃないですよ」

とどや顔で言ってくるのがピネルあるあるである。(一方で冬にめっぽう弱い)

納品や来ている人員によってローラーに通すものを変えたりする応用力や、破れや汚れを見つける集中力も必要。そしてローラーにシーツを通す際には2人の息があわないとゆがんだ形でアイロンされてしまうために協調性も必要。

ちなみに集中力と協調性のないムディオは苦手

〇タオルやおしぼりの場合

タオルは洗い上がったら業務用乾燥機へ。ちなみに乾燥は水分を飛ばすのみならず殺菌の意味合いもある。

乾燥が終わったら、タオルの検品(汚れや破れ)をしながらタオルを畳んでいく。納品先によってタオルの数と結束の仕方が違うので種類ごとに見極めて納品できる状態にしていく。

また、ピネルは濡れおしぼりもつくって納品している(喫茶店にある筒状のおしぼりが袋に入っているやつ)。濡れおしぼりは髪の毛が混入しないように髪の毛を固定する帽子をかぶって畳む。その後、専用の機械で筒状&袋詰め。これももちろん検品が必要。

ちなみに検品に至る集中力がないこと、10枚以上数える前に考え事をしてしまい数える枚数を忘れてしまうことからムディオは苦手。

(あれ、ムディオ苦手多くね・・・?)

〇布団の場合

洗い上がった布団は業務用乾燥機へ。一度に冬用掛け布団10枚を25分で乾燥できる優れもの。すごい。

乾燥が終わったら、汚れと破れを見ながら検品。種類ごとに分けて、注文数にあわせて結束。

夏布団は薄いから楽。ただ、冬布団は分厚いので結束のときに結構力がいるし、コツがいる。

〇病衣や白衣の場合

洗い上がった病衣は検品しながら手で1枚1枚畳み、先ほどのローラーに通していく。

洗い上がった白衣は検品しつつ、アイロンをかけていく。当然のことながら器用さが求められる作業。やっぱりムディオは苦手である。

(5)納品に行く

出来上がった洗濯物を再び指定の病院、グループホーム、老人ホームに納品に行く。納品に行くものは事前にどれだけ持って行くか、伝票を書いたり回収する袋を用意。納品後、(1)の洗濯物(不潔品)の集荷をついでにする。

このような感じで

(1)洗濯物(不潔品)の回収、集荷

(2)洗濯物の仕分け

(3)洗濯をする

(4)仕上げる

(5)納品に行く

そしてまた(1)に戻るという形でリネンサプライはまわっていく。

これらの間に配達も含めてたくさんの作業工程があり、(4)に至っては洗濯物によって専門が分かれている。シーツ部署、白衣部署、タオル部署、、、など。

いろいろな工程があるため、その人にあわせた仕事の割り振りがされることになる。

3.ソーシャルファームピネルの強みと弱み

(1)強み

ソーシャルファームピネルの強みは大きくわけて2つ。

①毎月一定の売り上げを確保することができる

週サイクルで納品があり、病院やグループホームで必ずシーツやタオルは一定数使用するため、カフェやパンの販売より安定した収益を出すことができる。

②病院と老人ホームのニーズがなくなることは考えられにくい

今回、コロナの影響により、様々な業界がダメージを受け休業する中で、病院や老人ホームはこのコロナ関係なくニーズがあり続ける。取引先が潰れることは考えにくく、病院に入院患者がいる限り、老人ホームを利用する人が居る限りはリネンサプライの仕事はなくならない。

環境の変動によって事業の売り上げが変化しにくいという強みがある。

(2)弱み

一方、毎日のようにある納期。下請けで普通より単価が低い中で1億稼ぐだけの取引相手の数。または、病院や老人ホームは祝日限らず、タオルやシーツの利用は続き、リネン類が必要になる。出勤人数、機械の故障、祝日に限らず、常に一定量の納期に追われることになるため、他事業より余裕が作りにくい。

また、結構仕事重視である事業所なため、レクリエーションが年に1回の旅行ぐらいしかなく、中での交流を促すきっかけはピネルからはあまり提供することは少ない。

4.1億稼いでいるだけで福祉的就労の場として機能しているのか?

ここまで読んだ方はもしかしたら以下のようなことを思ったかもしれない。

「1億稼ぐだけのシステムは凄い。でも、結局ゆとりもなにもないんじゃないの?」

「福祉的就労として機能しているの?」

「精神疾患を抱える人が多いなら、納期はプレッシャーになるはず。もし複数人調子が悪くなったとき、仕事はまわるの?」

「職員の負担が大きいんじゃないの?」

などなど。

下請けという普通より単価が低い状態ながら1億稼ぎ出すリネンサプライという手法をつかうピネル。

故に働いている人にゆとりがないのではないか?

相当ハードなのではないか?

そんな疑問を持つ人もいるかもしれない。

「親に依存しないだけの社会的自立ができるお金を稼ぐことができる場をつくろう」

「精神障害があっても地域で一人暮らしできるだけのお金を稼ぐことができる場をつくろう」

そんな願いから始まったソーシャルファームピネルは20年の間、障害あるなし関係なく、みんなの賃金をあげることをめざし、先人たちの頑張りのもとで売り上げを伸ばし続けてきた。その結果、年間売り上げ1億円を達成した。しかし、臨界点を迎え、ゆとりがなくなってきた時期。

和歌山も福祉もゆかりのない僕はこのソーシャルファームピネルに入職した。

前回の内容、そして今回の内容はもしかしたら過去ピネルで働いたことがある人は書ける内容かもしれない。

次回からはソーシャルファームピネルの年齢が22年目を迎えて僕が入職してからの改革のことが中心に書かれることになる。

今まで記されたことのなかった22年目以降のピネル。そして売り上げとゆとりの両立の奮闘。

先人たちがつくりあげてきたソーシャルファームピネルの実践を引き継ぎ、ピネル初の平成生まれの職員にしか書けない現在のピネル実態と試行錯誤を次回から記していきたい。

それではグッバイオンザビーチ!

#作業所 #福祉 #ソーシャルファーム #障害者

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