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「〇〇さんしかできない仕事」を減らしたことによって得たもの

こんにちは、赤ワイン買ったはいいけど持て余しているムーディです。ステーキのフランベ専用(尚IHだからフランベできない模様)。

6週連続連載!毎週火曜日更新。「新卒で日本最古の精神障害者福祉工場に入職した男」シリーズ第4弾。2020年6月2日からはじまり、2020年7月7日最終回予定。よろしくですー!!

▼前回の記事はこちら

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「いかに社会的自立ができるだけの売り上げシステムを作るか」


全国の作業所がどこもそれを模索している中、ピネルは先に社会的自立ができるだけの売り上げシステムを作り出し、次の段階に入った。


「社会的自立ができるだけの売り上げを確保しながら、いかにゆとりを作り出すか」

仕事量の抑制と売り上げのバランス調整。

ピネルは最初にゆとりをつくるためにそこに取り組んだ。売り上げ、賃金を落とさずにいかに仕事量を減らすか。

しかし、仕事量が少なくなれば、ゆとりができて働きやすくなるだろうか?


ピネルがゆとりをつくるために取り組んだもう一つのこと。

そして、ゆとりができたことによってどのような効果があったか。

今回はそこを記していく。


1.「〇〇さんしかできない仕事」を減らしていく


ピネルがゆとりをつくるために取り組んだもう一つのこと。

それはクリーニング部門別の人員構成を変化させたことである。

具体的に言えば、部門別の人員を一部シャッフルをすることによって、

・各々のできるクリーニング業務の幅を広げる

・部門別の縦割りをなくし、部門別に納期が厳しいところに助っ人を入れやすくすること


を狙った。

つまり「〇〇さんしかできない仕事」というものを減らしていくこと、または「いろいろな仕事ができる〇〇さん」をたくさん生み出すことでゆとりを作り出そうとした


なぜ「〇〇さんしかできない仕事」というものを減らしていくこと、そして「いろいろな仕事ができる〇〇さん」をたくさん生み出すことでゆとりを作り出せるか。

ピネルで行うクリーニング業務は連携プレーの連続。過去の記事に書いたが、ピネルが行うリネンサプライは

(1)洗濯物(不潔品)の回収、集荷

(2)洗濯物の仕分け

(3)洗濯をする

(4)仕上げる

(5)納品に行く
そしてまた(1)に戻るという形でまわっていく。

▼以下記事参照


工程の中にもいろいろな役割があり、1人だけでは成り立たない仕事。だからこそ、全員で1つの仕事を遂行させるということが必要なのだ。

しかし、「〇〇さんしかできない仕事」というものが多ければ多いほど、仕事の工程で1人仕事が生まれてくる。


仕事の1人仕事化が進めば進むほどは縦割りになっていく。縦割りであればあるほど、手が余っている人がいても「あの仕事はできないから手伝えない」ということになる。

いざ納期ギリギリでみんなで助け合けあわないといけないときにヘルプに入ってくれる人がいない、しんどい状況を作り出してしまうのだ。


しかも、ピネルは毎日納品に追われるぐらいの取引先を持っている。

「〇〇さんしかできない仕事」が多ければ多いほど、

「しんどいから休みたいけど、この仕事できる人少ないから抜けたら迷惑かけちゃう」

としんどいのに頑張らざるならない状況を作り出したり(それがプレッシャーになったり)、

そしてしんどくて抜けてしまったときにその仕事ができる一部の人に大きな負担がかかってしまい、その負担でまた調子を崩してしまうという悪循環を生みだしてしまうことも。

そうなったときに結果、安定して仕事できる人に大きな負担が積み重なり、

「あの人が休むと私がしんどくなる」という感情を生み出し、職場の雰囲気も悪くなる・・・

という悪循環を生む。


でも、逆に言えば、「〇〇さんしかできない仕事」を減らすこと、つまり「いろいろな仕事ができる〇〇さん」を増やすことによって、縦割り仕事、1人仕事は解消される。

「アイロンができるのはAさん」という状態から

「アイロンができるのはAさん、Bさん、Cさん」という状態を作り出す。

部門関係なく、納期で急がないといけない仕事に対してみんなで助け合うことができる。

自分が休んでも納期に余裕を持って間に合うことを作り出すことで、調子を崩したときに安心して休憩や早退をすることができるようになる。

いつでもしんどくなっても休むことができる、またはいざ納期が迫ってきてもみんなで余裕を持って納期に間に合わせることができるという事実がプレッシャーを減らすことができるのである。


もし、不定期に調子を崩す人がいる、時間にハンディを抱えている人がいる職場がすべきことは、ゆとりを作り出すことなのだ。

そして、ゆとりは単に仕事量を減らすのみならず、人員構成の変化で生み出すこともできる場合もある。



2.ゆとりができることによって何が変わったか

・仕事量の抑制と売り上げのバランス調整

・「〇〇さんしかできない仕事」というものを減らしていくこと


ピネルは売り上げを落とさずにゆとりを生み出すためにこの2つに取り組んだ。そうした結果、ピネルにゆとりができた。

ゆとりができたことによってどのようなメリットがあったか。ここではこれを記していきたい。

(1)有給をとることへの心理的ハードルを大きくさげた

「自分が休んで抜けてしまっても自分の仕事はあの人もできる」

ということで心理的に有給を取りやすくなったし、有給をとって抜けても納期に余裕持ってクリアできるために「あの人が有給とると私がしんどい」と思うような人もいなく、職場の雰囲気も悪くならない。ピネルの課題だった「有給を取りにくい」という課題から、有給への心理的ハードルを大きく下げることができた。


(2) 仕事時間中に生活課題への支援や個々の悩みの相談に対応しやすくなった


クリーニング部門別の人員構成の変化により、仕事中でのゆとりも以前よりは生み出され、仕事時間中にじっくりと一緒に働いている人とのコミュニケーションをとる時間が確保されるようになった。ピネルに来ることができていない人に対してもじっくり電話で話せるようになったり、生活課題と向き合えるようになってきた。
職員同士でも仕事時間中にじっくり話し合えるようになったことも見逃せない。

雑談、どうでもいい話ができる余裕ができることで関係性がよくなる。連携がすすむ。


(3)「職員主体」から「全員主体」へ


Aさんは前まで「次はどうしたらいいですか?」「●●やっていいですか?」といちいち職員に確認をとっていた。しかし、今では職員に聞くことなく、Aさんが「次●●行くよー!」と言ってみんなに指示を出したり、みんなと相談しながら職員そっちのけで仕事をまわすようになった。

ゆとりがなかった頃は、納品を間に合わせるために仕事の順番の失敗が許されず、職員がみんなに指示していることが当たり前であった。しかし、ゆとりができたことにより、失敗してもみんなに仕事の順番を任せることができるようになり、そこから主体性が生まれ始めた。クリーニング部門別の人員構成の変化も主体性を育む手助けをした。

失敗できる余裕は挑戦できる環境を生み出し、主体性を育みやすい環境を作り出しやすい。



(4)ピネルの社会運動面強化が期待

私はピネルが作業所団体の会議に参加できていないことが気になり、参加の必要性を確認。ゆとりがない中で2018年9月から作業所団体第2ブロック会議に参加し始める。ただ、第2ブロック会議が16時半からあるため、仕事の関係上行けないことがほとんどだった。行けても会議後にピネルに戻り、抜けた分の仕事を片付けなければいけなかった。

ゆとりができたことによって自分のかわりに仕事ができる人が増えたことによって、第2ブロック会議に安定して出席できるようになった。(といってもたまに忙しくていけないときもあるが)

ピネル外の情報の入手のしやすくなったり、運動面も強化されていくことが期待できる。

(5)みんなの願い「●●したい」が顕著に現れ始めた

「自身の書道の個展をひらきたい」


「古着屋さんをずっとやりたくて、一度古着を売ってみたい」


「人前でバンド演奏したい」

「高校のときにキャプテンだったサッカーやりたい」


 ゆとりが出来た後、ポツポツと「●●をやってみたい」という声がみんなから出始めた。ゆとりがなく、休みを自由に取れなかったときと比べ、ゆとりが生まれたことによって、仕事時間外での仲間の活動が活発になった。もしかしたら、ゆとりが生まれたことによって余裕が生まれ、個々が自己実現へと向かい始めたのかもしれない。

「よっしゃー!やろうぜ!」

「それならあの人に聞いたら実現できるかも」

「ポポロハスマーケットの野外ステージ募集してるよ!」

「知り合いの法人と一緒にサッカーやろう!」

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▲和歌山駅近くみその商店街にて書展を開催


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▲マルシェにて古着を売る。値段設定から商品の配置、仕入れまで本人がやる

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▲(画像がなかったが)ポポロハスマーケットの野外ステージ出演者募集にてバンド演奏。私はポポロハスマーケットのボランティアスタッフに入り密かに鑑賞。

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▲他県からサッカーコーチをよんで、和歌山初のソーシャルフットボールを開催



3.「時間」という選択肢を多様にする環境へ


ゆとりの重要性は単に精神障害者などの障害者だけに当てはまるものではないし、福祉的就労に限った話だけでもない。

誰もが有給を選択的に取得できる。子どもが熱を急に出したときに休むことができる。

ゆとりを作り出すことによって、誰もが時間を選択的に仕事に使うことができる。仕事の選択肢というと職種をイメージする人が多いが、「時間」という選択肢も重要であることは忘れてはならない。

むしろ日本ではこの「時間」の選択肢が限りなく乏しい。誰もが自分らしく働ける社会をもしこの文章を読んでいる人が望むのであれば。

僕と一緒に考える友達になってほしい。


次回は「オーダーメイド型の働く場づくり」について書きたい。

それではグッバイオンザビーチ!


#作業所 #福祉 #ソーシャルファーム #障害者

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