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Wannabe

「○○な名前の人って変な人多いよねー」
私だ。ばっちりその特徴に当てはまる。私がいるとは思わずに言ったのだろう。後ろの方から聞こえてきた。足早に階段を下りる。
やっぱり、学校は嫌いだ。雑音が多すぎる。なんで仮にも本分が学業の場所でよけいな陰口を聞いたり、気持ちの悪い自慢話を耳に入れないといけないんだろう。前方の席に座らないと板書を取ってるだけで浮いたり、まるで世界は俺を中心に回ってるとばかりに喋くってる奴らが増えるのも気に入らない。休み時間もみんながぺちゃくちゃさんざめくので本に集中するのが難しかった。集中してからは騒がしい学校を抜けて長野の湖畔の世界に逃げられたからよかったけど。

喋ると言えば今日はゴリラは静かだ。違うやつが喋ってる。ゴリラというのは先学期、私が真面目に授業を受けていたら「なんであんな真面目にできんだよw」と明らかに私に向けた軽い敵意を向けてきた大柄のやつだ。私も人を妬ましく思うことはある。でもそれを大っぴらに本人に直接なすりつけるような不躾さと無礼さを持ち合わせていなくて本当に良かったと、心の底から思えた出来事だった。対して、ここ大学にはそういう自らの汚点を軽率に露出してしまうよなマナーのなっていない輩がごろごろと蔓延っていて辟易とする。早く成長してもらいたい。

私が学校が嫌いなのは、こういった学生の本分とされる学業以外の面での部分が多すぎるからだ。舐められないように気をつけたり、雑音を受け流したり。こういう部分が多すぎる。学習するだけならオンラインで十分だ。議論をする授業なんてほとんどないし。こういうことを言うと、周りに合わせない私が悪い、などと言われるのだが、私に言わせてみれば授業中喋る生徒に合わせて前列へ移動、などということを喋っていない側が合わせなければならない環境の方がよっぽどおかしいし、陰口を叩くけど周りに合わせてるから許される論理の方が訳が分からない。もちろん理想と現実の区別がついてるから仕方なく学校に向かうわけだけど、こうして日々神経をすり減らして得られるのがわずかばかりの単位だなんて本当にぼっち大学生はよくやっているよ。そこらへんの塾バイトより割に合わない。

でも授業が終わるまでは良かった。隙あらば喋り出す人たちの、会話が自分のことを話してるんじゃないかと怯えながら耳を畳んだ。どうせ誰も私のことなんか興味すら持ってない。ありがたいことに、実際そうだった。たまに周りをきょろきょろ見渡すけど、誰も見てやしなかった。安心した。猛獣たちに囲まれてるけど、食われはしないんだ。少し安堵して本をひらいたのだった。

私は周りに合わせない。友達も作らないし変だなって思われるんだろう。その自覚はあるし、だから言われても仕方ないなって思ってる。休み時間にみんなが群れてざわめく中、本を読むし、女の子らしく髪にアイロンを通したりメイクをしたりしない。だから舐められる。かと言って本当は好きなゴリゴリのゴスみたいなファッションをするのはそれはそれで近づきがたすぎて友達が1人もできないんじゃないか。前そういうツイートを見てからあまり尖った格好はし過ぎないようにしている。陰キャがそういう格好するのもなんか虚勢を張っている感じがしてダサいし。

でも合わせるのは嫌だ。私を変と言った子たちみたいに話題がないからと言って目の前の変な子を消費しないといけないような、当たり障りのない、面白くもない会話を続けないといけないみたいな空気感が苦手だし、めんどうだ。そういうことにエネルギーを使うくらいなら空き教室でのんびり映画を見たり本を読んだりする方がマシだった。だから群れない。高校でそういうのは終わりだと思ったのに、いまだに皆群れててバカみたいだ。正直そう思ってしまう自分がいる。だって皆が群れるからぼっちが目立っちゃうんだろう?うんざりだ。みんなでせーので''友達''やめちゃえばいいのに。いつになったら人は群れるのをやめるんだろう。大人になったらもっと群れないといけないらしいけど。

私からしたら皆「皆」の方が「変な人」だ。やりたくもないことに時間を費やして。むしろ凄いと思ってさえいる。もちろん心の底からそのふつうを楽しめる人もいるんだろうけど。

でも、大丈夫だ。私と同じように群れない人達はいて、みんな駆け足で授業が終わるとすぐさま帰っていく。学校が、きらいなんだろうな。もしくは単にバイトの時間が迫っているだけか。たまに、そういう人達同士で仲良くすればいいんじゃないかって思うけど、そういう自分みたいな人達は群れるのが面倒で帰ってるしそういう時間を無駄だと思ってるだろうから無理だなと思った。情報交換くらいはしたら有益だと思うけど。

それに、変だと言われそうなことをすることに満足感を感じる自分もいる。みんなと違って人に頼らなくていい。目立つたびにそれを愉しんでいる自分もいる。最近は変だと言われる度に愉しめるようになってきた。流浪の月のおかげかもしれない。更紗ちゃんになれるかな。本はいつでも待っていて、守ってくれる。でも日本は出る杭を打つ文化だからめんどくさいんだよな。大学の教室の隅でたいくつそうに頬杖をつく生活は、まだ始まったばかりだ。

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