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「鹿島アントラーズvs町田ゼルビア」を見て思ったこと

はじめに ~ 鹿島を主体として町田戦を振り返る意味

 まず、アントラーズの開幕2試合を大雑把に振り返ります。
グランパス戦は相手が前からプレスにくることが少なく、後ろが重めの5バック。名古屋532の3の脇を2トップの1人であるパトリックが埋めることもあるくらい、常にグランパスは低い位置から守備をはじめていました。そのため、鹿島はボールを進めることに全く苦労しない流れの中、セットプレーとクロスから得点。最後に前がかりになった相手からカウンターを決め勝利しました。
 セレッソ戦、前半は常に押し込まれる展開。セレッソのひらいたCBとワイドに張ったWGに鹿島のSH-SB間が大きく広げられ、中盤のスペースを使われ続けました。後半は鈴木のポストプレーとプレスによって、更に後半の30分にはセレッソが5バックにしたこともあり、鹿島は高い位置から攻撃を始められる展開になりました。
 以上の2試合では、鹿島のボール保持とくにビルドアップ時の振る舞い・ハーフラインまで如何に進めるか?が見えづらかったと僕は感じました。ゼルビア戦はその点を確認できる初めてのゲームだったと思います。
 つまり、本noteは鹿島のボール保持の観点から論じられることになります。

1章 ~ 何の為に後ろを3人にするのか?

 鹿島は町田戦で、幾度も最後尾を2人のCBに加えて1人のDHを加えた計3人でビルドアップをスタートさせようとしました。町田の2トップに対して、後ろを3人する意図について、簡単な図で確認します。

図1
図2

 図1で示しているのはごく単純で、2トップに対する+1を活かしてボールを進める状況です。単に後ろを3人にするだけでなく、2トップを引き付けることが重要です。
 図2で示しているのは、数的不利の2トップに加勢したSHの背後からボール進める状況です。
 町田戦では主に図2の現象が頻発しました。町田のSH平河が頻繁に1列上がって最前線のプレスに参加したためです。それはサイドを左から右に変えた後半も続きました。
 では実際の現象を見ていきます。図3は34分、ゼルビアのプレスを搔い潜り、右サイドでフリーになったパレジへボールを届けられた場面です。ここでは平河が空けたスペース(フリーの濃野)を埋めにSB林が出ていったために、SB林とCBチャンとの間に大きなギャップが生まれています。しかし残念ながら、この後パレジは優位が得られた右サイドから攻撃に行かず内側を選択してしまい、最終的には安西の処でロストしてしまいます。サッカーは数的同数で行われるものですから、優位なサイドの優位性を活かさないということは即ち劣位を選択するということです。

図3

 鹿島のDFライン3人に対し町田のSHが1列ジャンプしてくる現象は、少なくとも29:40、34:15、36:00、37:10、43:25、56:25、 57:00、72:40に見られましたが、その内ボールを進められたのは3回のみでした。進められない原因は、町田のSHがジャンプしてきていないサイドからボールを進めようとしてしまうからです。図2で言う処の左サイドから進めようとしてしまうということです。図2が示す通り、敵SHが自分のポジションンに留まっているサイドには何らの優位性もありません。敵のプレッシャーをモロに受けることになります。(象徴的なのは36:00のシーン、最終的に鈴木がロストする場面。)町田のSH・平河が反対のサイドにボールを誘導できているのかというと、そんなことはないように見えました。(29:40は外切りかな?)。
 鹿島の選手に「なんの為に後ろを3人にしているのか?」「何処に優位性が生まれやすいのか?」という想定・認識が足りていないような印象を受けました。
 「後ろを3人にして敵のSHを引き出す」ということは、その「3」の脇を担う選手は、敵のSHに影響を与えるポジショニングが求められるということです。その点について気になる場面を図4に示します。

図4

 まず津久井と佐野の担うエリアが被っていることが問題ですが、そこは一たん棚上げします。ここで言わんとすることは、植田の受ける場所が低すぎて敵のSHに無影響であり、また自分を孤立させてしまっているということです。植田のパスは林にカットされ町田ボールに移ります。
 ロストする可能性は万に一つもない場面ですから、一時的に植田自身が3列目としてプレーするべき場面です。(津久井のポジションが、そうできなかった原因になり得ますが。)
 繰り返しになりますが、陣形を崩すことや自分のポジショニングが、敵に如何なる影響を与え得るか?という認識が不足している印象をもった場面でした。

2章 ~ ゼルビア2DHの周辺

 上に示したように町田のSH(平河)は頻繁に1列上がって最前線のDFに加わります。そのぶん町田の中盤にはスペースが埋まれることになり、そのスペースを2人のDHの運動量が埋めています。(先発の柴戸と仙頭は、共に途中交代しています。)
 図5はその2DHのギャップから前進した場面です。この後、最終的に鈴木のミドルシュートに至ります。柴戸と仙頭との間から進めることで、最終的には鈴木が仙頭の脇でフリーになることができました。

図5

 町田2DHの間あるいは脇から効果的に進めそうな場面は、少なくとも 41:20、44:40、53:20、62:45、80:40に見られましたが、その内の4つの場面では、個人の判断や技術的ミスでチャンスではなかったかのように見えてしまう結果になりました。特に41分と80分のシーンは、鈴木優磨のサイドチェンジがカットされたことで攻撃の機会が終わってしまいました。
 昨シーズンからですが鈴木のセカンドトップとしての振る舞いは、(感情的に言って)とても酷い。何度も攻撃のチャンスを不意にしています。敵をギリギリまで引き付けてからサイドを変える・中盤を経由する、といったプレーが殆どありません。そもそも、1列目や2列目の選手がサイドを変えるのは、サッカーの構造的におかしいのです。「1、2列目の選手が高い位置で敵を片方サイドに引き付ける。その状況下で前線からのバックパスを受けた3列目やDFがサイドを変える」というのが、サッカーの道理です。セカンドトップあるいはトップ下を得意とする選手(土居、昨シーズンには荒木)がいるにもかかわらず、鈴木の稚拙なトップ下としてのプレーを見させられていると腹立たしく感じてしまいます。

3章 ~ 「DFラインのウラをとる」とは?

 町田ゴールを目指すにあたって、個人的に(悪い意味で)とても気になった選手がいます。仲間隼人です。仲間は頻繁に町田のDFラインの背後を狙ったダッシュを見せていました。前半45分で少なくとも7度。その全てが結果に結びつかず、町田DFラインを混乱させることもできなかったように見えます。更に仲間が大きくポジションを外すので、安西が孤立してしまう場面も散見されます。その1つが図6です。

図6

 仲間の背後へのランの殆どは、町田のDFが背後をケアできているのにも関わらず行われます。DFライン背後へのランには、敵のDFラインとMFラインのライン間を広げるという作用がありますが、前述したように、町田の2DH周辺にはスペースが生まれやすく、町田のライン間はそこまでコンパクトではありません。
 DFの背後をとるためには、DFの背後への警戒心を削ぐ必要があります。その例を3つ提示します。
 例1、2020 J1 第8節「北海道コンサドーレ札幌vsヴィッセル神戸」
このゴールをアシストする西大伍が、如何にして対峙する菅の背後をとっているかに注目してください。菅に背を向けて歩いています。これによって菅は前方への意識を強くします。西はイニエスタがボールを持ちかえた瞬間に踵を返し、菅と入れ替わることに成功します。
 例2、2014 PL 第1節「バーンリーvsチェルシー」
いわゆる「3on-line」ですが、なぜゴールを決めたシュールレはDFの背後でフリーになれたのか?イヴァノヴィッチからセスクへの長めの横パスに、バーンリーDFラインの意識が前向きにさせられたためです。
 例3、2023 FAカップ 準々決勝「マンシティvsバーンリー」
5:45~。マフレズとデ・ブライネの関係です。いわゆる「ドリブルアットからのバックドア」ですが、なぜデ・ブライネはDFラインの背後をとれたのか?マフレズのドリブルによって、バーンリーDFの背後への意識が奪われたからです。
 繰り返しになりますが、3つの例で示したいのは、DFの背後をとるためにはDFを前向きにさせなければいけないということです。そうしたDFの意識を操作するボールの動かし方や個々人のオフザボールの動きが、鹿島には足りていないと感じます。その象徴的な存在が仲間です。
 そうした仲間の直線的で工夫のない動き出しが、鹿島の攻撃を無意味に速くさせてしまう場面を図7に示します。

図7

 仲間がチャヴリッチとの位置関係を変えてまで、背後へ走ります。この段階でSBを上げていないので、サイドの深い位置には誰もいません。異常に縦長の配置バランスになっています。カウンターの場面であれば、こうなることもあり得ますが、これはセットオフェンスのフェーズです。植田の縦パスがカットされた後、こぼれを拾った樋口も縦パスを狙います。縦にしか選択肢がないからです。最終的に樋口のパスもカットされ、町田にカウンターの機会を与えることになりました。
 縦に速く攻められるのは、相手の守備陣形が崩れているときだけです。相手の守備陣形が既に整っているのにも関わらず縦に速く進めようとすれば、相手に絶好のカウンター機会を与えることになります。サイドの幅を使わずに整理されたDFブロックを崩すのは、サッカーの道理としてほぼ不可能でしょう。

4章 ~ セットオフェンス時の配置バランス

 町田を押し込んでゴールを目指す状況における、鹿島のプレーにも幾つか気になる場面がありました。それはサイドに人数をかけすぎていて、ゴール前の脅威がない且つカウンターも受けやすい、という状況です。図8に示す74分の場面が象徴的でした。

図8

 2DHが2人揃ってサイドの崩しに参加する位置にいます。名古がペナ内に侵入し、その後に樋口が1stDFになってしまい、結局は3列目のフィルターが誰もいない状況になりました。
(余談になりますが、樋口の3列目としての戦術レベル・判断は拙いと言わざるを得ません。53:45、左サイドをドリブルで持ち上がった後、確率のとても低いサイドチェンジを試みて相手にカットされてしまいます。町田の藤本が、樋口が空けてしまったサイドを認識していなかったので問題にはなりませんでしたが、その瞬間、町田にはショートカウンターのチャンスがありました。
 64:30、中盤には大きなスペースがあり、パレジと鈴木が左サイドでフリーになっているにもかかわらず、最前線で2CBにマークされているチャヴリッチへロングボールを蹴ってしまい、スムーズな攻撃の機会を逸してしまいました。)
 町田のDFラインに脅威を与えられていない且つ被カウンターの対処も不十分であるような場面は、17:10、25:17、35:10、74:40に見られました。
 この問題は昨シーズンから続いている問題ですが、おそらくボールサイドの人数を増やして、あるいはポジションを流動的に動かし、少ないタッチ数で崩そうとする試みをポポヴィッチ・アントラーズは意識的にしているのだろうと思います。ですから、前任岩政氏からのプレースタイルにおける一貫性はあるのだろうと感じています。(ただ、そのスタイル自体に僕は疑問があります。それについては「2023鹿島アントラーズ長めの雑感」の4章に述べました。)

5章 ~ 最後に

 38:20からはじまる、鹿島の攻撃はとてもスムーズでした。右サイドのSBとSHの関係性で町田のプレスを剥がす。左サイドでもSBとSH+鈴木の△でサイドを崩す。最終的に、パレジがドレシェヴィッチの背後を瞬間的にとることに成功している場面です。
 サイドを3人の関係性で進めることが全くできていないわけでないし、また3章で示したように、盤面上のズレを使ってボールを進めることもできているのです。
 結果的にそれらは取るに足らないものになってしまいましたが、そうした小さな成功体験を見逃さずに、意識に上らせ取り組んでいくことが肝要であろうと思います。
 とはいえ、(セレッソ戦後のコメントにあるように)ポポヴィッチは「流動的なボール支配」を目指していることが町田戦で確認でき、それは岩政前監督と同じ試みなので、ボール保持においては昨シーズンに見られた問題を繰り返すのではないかなぁ、と個人的には思っています。

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