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2023鹿島アントラーズ長めの雑感

はじめに

 僕は2019年5月からTwitterをはじめました。その頃からアントラーズのファンではありましたが、アントラーズについて呟くことは殆どなかったと思います。アントラーズについて何事かを呟きたくなる衝動に幾度も駆られるようになったのは、岩政大樹氏がアントラーズの監督に就任してからです。ここ数年、アントラーズに内在する矛盾が氏の就任によって、より強く顕在化したのだろうと思います。それが問題の解決による顕在化であればよいのですが、むしろ「問題の迷走具合に拍車をかけているのではないか」という思いを、何処かに纏めたいというのが当noteの動機です。そのため「今さら言うこと?」という内容が殆どになるでしょうが、悪しからず。
 これを読まれる方への注意としては、なるべく独断と偏見を避けるために記事・データの引用や現象の図示を用いますが、結局のところは僕の「意見」に過ぎないので、そこで語られていることが事実なのか、価値判断を含む解釈や主張なのか、を把握しながら読んで頂ければ幸いです。

1章ー 何が「新しい」のか? ~ ベースと個性

 岩政監督は監督就任直後、那須太亮氏のYouTubeチャンネルにおいて「今のJは目先の一勝を目指すだけではダメで、全てのチームを打ち破っていく圧倒的な力がないと優勝できない。そこへのトライの仕方が定まらずに鹿島はきてしまった。そこに本気でトライする。」と語りました。(※1)また、2022年シーズン後の動画内においては「一つのベースをもとに試合をして数試合経験すると、相手に対する変化が共有されていく。それで勝っていけば優勝する。マリノスみたいに。これをつくれるかどうか。」と語っています。(※2)「ベースを構築し、勝つ」というのが岩政アントラーズに設定されている目標なわけです。 
 2020年1月1日、第99回天皇杯決勝。アントラーズはヴィッセル神戸に0-2で敗北しました。その数時間後、当時のFD鈴木満氏は次のように語っています。「何となく選手任せにしていても勝てない時代になってきた。『こういうサッカーをやるんだ』という絵が描けていて、それを落とし込んでいくことをしていかないと。以前からそうだったのかもしれないが、より一層そういう思いになってきている。」(※3)
 岩政アントラーズに課せられている目標は、ここに語られた問題意識によるものでしょう。岩政監督の言う「トライの仕方が定まらず」とは、20年にその問題意識が提示されたにもかかわらず、結局のところ「結果」によって監督交代を繰り返してきた経緯を指しています。 
 では、岩政監督は如何にしてチームをつくろうとしているのか?その問いの手がかりとして、試合後のコメントを3つ引用します。 
 まず、監督就任後の初戦のアビスパ戦後。「選手たちは先に型を作ってそれに当てはめると躍動しないものだと思っている。『まず自分の個性や持っている情熱を、出すことから始めてほしい。その上で私が捉えていく』と伝えて練習なり試合を進めてきた。少し選手たちにブレーキがかかっているところを外してあげただけ。彼らが持っているものを出しただけだと思う。」(※4)
 次に13節のグランパス戦後。「僕は最初から選手たちに伝えているのは、既製服は作らないということ。みんなに合ったオリジナルのオーダーメイドを作るという話をしている。今の選手に合ったものをずっと模索していて、それがようやく一つ見つかりつつあって~」(※5)
 最後に24節のサガン戦後。「チームとしての枠組みと選手たちの個性のバランスのなかで、現代サッカーでは戦術的になるなか、僕は比較的選手の個性を発揮させてあげたい比重が大きいタイプの監督かもしれない。」(※6)
 一貫しているのは選手の個性からチームのスタイルを導出しようとする点です。ここで素朴且つ根本的な矛盾が浮かびます。「選手の個性に依存するスタイルをベースとして扱うことはできるのか?」結局それは「選手任せ」であり、選手に依存するものを「ベース」とは呼べない。更に言うと、そもそも「選手の個性を先行させる」というサッカー観は伝統的なアントラーズそのものであり、岩政監督は何をもって「新しいアントラーズ」と銘打っているのか? 
 2023年、始動日の練習後、植田と昌子の復帰後の「新しい鹿島と言っておきながら回帰するのか?」という一般の声・記者の質問に対し、岩政監督は「論点が違う」と応答しました。どう論点が違うのか?少し長いですが、記事を引用します。「新しい鹿島を作ると言っている割には、戻るのかみたいな話をしている人たちがいましたけども、完全に論点が違って。僕もそうですね、若いときに成長してきたのはやはり鹿島を体現する選手たちが先輩にいて、その先輩と一緒にプレー、練習、試合をしてその中で自分とその先輩を照らし合わせながら成長していったっていうのがあります」「僕たちは新しい鹿島を作るわけで、新しいFC東京を作るわけでも、新しい川崎フロンターレを作るわけでも、新しい別の何かを作るわけじゃなくて新しい鹿島を作る。その鹿島というものが、どういうものか知らず、何をもって成長すればいいのかっていうのはわからないですからね。」(※7)既出の那須氏のYouTubeでも同様の話をしています。(※2)  
 僕はこの応答を見ても、何処が「的外れ」だったのかわからない。そもそも何故アントラーズは変革を迫られているのか?目先の1試合・1勝の繰り返しでは優勝できなくなっているからです。が、植田も昌子もその「勝ち方」の中で生きてきた選手です。そうした選手の個性からスタイルを導こうとするなら、やはりそれは「回帰」にしかならないでしょう。 
 強いチームであるために2,3人の選手個人がそのチームの色を規定するものであってはならないのです。大前提としてチームより大きな選手は存在しません。しかし「らしさ」を取り戻すために或る特定の選手個人が必要になるという論法は、選手≧チームが前提にされています。チームとしての「ベースをつくる」とは「特定の個人への依存度を減らす」ということであり、それが、もともとの問題意識であった筈です。 
 「僕たちは新しい鹿島を作るわけで、新しいFC東京を作るわけでも、新しい川崎フロンターレを作るわけでも、新しい別の何かを作るわけじゃなくて新しい鹿島を作る」という根拠づけは全くのナンセンスでしょう。マリノスは2014年にCFGとのパートナーシップを締結してから2年後、中村俊輔、小林祐三、兵藤慎剛、榎本哲也ら中心選手がチームを去りました。が、彼らは2023年11月現在も間違いなく横浜Fマリノスです。  
 いろいろ書いてしまいましたが、「組織変革のために、その組織の構成員や価値観・思考様式を変える」というごく当たり前の話でしかないのです。「選手任せ」という「らしさ」が変革を要請したのに、いざ変革しようというときにまた「らしさ」に拘っているのです。 
 「ベースor個性」という2択の話をしているのではありません。ある種のベースを定めないと、どういう個性を集めるのかが定まらず、種々雑多な個性による纏まりのないチームになってしまう、という話です。チームとしてのベースを持たず、個性を優先した強化・選手獲得方針が、「シーズンを通して安定して勝ち続けられない」という、そもそもの問題を引き起こしたのです。
 「シーズンを通して安定して勝ち続ける」を「平均勝ち点2以上」とすると、アントラーズがその数字を達成したのは2007年と2017年の2度のみですが、前者は開幕5試合勝ちなしで後者はシーズン途中に監督交代があったシーズンであり、「安定していた」とは言いづらい。 
 また、ベースがないために一貫性のない監督交代の度にチームが0から更新されるという問題が発生しているのです。 
(※2で)先に示した通り、ここでいう「ベース」として岩政監督は「鹿島らしさ」を「各年代の個性を持った若い選手が、経験のある選手と切磋琢磨することで成長し、チームとしても成長していくこと」と再定義しました。が、そもそも各年代の個性を持った若手を相対的なリーグレベルあるいはクラブレベルの位置の変化により獲得できなくなっていますし、仮に獲得できたとしても、上田綺世のようにチームをJ1優勝に導ける水準に成長したらすぐ欧州に移籍してしまう可能性も大きく、現在のアントラーズを取り巻く状況に適っていません。その再定義を認めたとしても、ベースとして機能し得ないのです。 
 岩政監督は幾度も「新しいアントラーズ」という趣旨の言葉を口にしていますが、ここまで見てきたように岩政監督の言葉を振り返っていくと、そもそも何をもって「新しい」と言っているのかが判然としなくなってしまうのです。「ビルドアップを整備する」や「崩しのパターンを仕込む」という戦術的なレベルでの新しさに過ぎなかったのでしょうか?そんな表層的な変化は、どこのチームでもやっていることでしょう。監督が代われば「新しく」なります。そしてなにより、戦術的な新しさ程度のことならば「他に幾らでも適任がいるだろう」という話に帰着するしかないのです。(かと言って、ベース構築に適任な監督である筈もないのですが。) 
 2022年の天皇杯敗退が決まったゲームの直後、岩政監督はサポーターからのブーイングを浴びながら、「簡単に変わるもんじゃないよ。俺たちが失ったものはたくさんあるよ。取り返すのに時間がかかるよ。みんなでやらないのか!?」「川崎やマリノスが何年かかったと思ってる!?」と声を荒げました。(※8)その数か月後、その同じ人物は「ポステコグルーが2年でやれたことを1年でやろう」と選手の前で宣言したようです。(※9)
 マリノスの変革は2014年から始まっていたことは、比較的コアなJリーグのファンであれば誰もが知ることでしょう。約5年の変革を礎にポステコグルー・マリノスは優勝したのです。(※10)
 (サポーターに向ける言葉と選手に向ける言葉との間の整合性がないことに問題はありませんが)ここに岩政監督とアントラーズ強化部が「新しいアントラーズ」というものを、如何に表層的な次元で考えているかが垣間見える気がします。

2章ー オンピッチ ~ ボール非保持

 本章と次章でオンピッチにおける2023年のアントラーズを「ボール非保持」と「ボール保持」に分けて論じます。その途中でトランジションについても触れられればと思います。現象を示さずにオンピッチについて論じるわけにはいかないので、優勝争いのかかったマリノス戦(以下:マ戦)、アビスパ戦(以下:ア戦)、ヴィッセル戦(以下:ヴ戦)の3試合を対象に、幾つか印象的な場面をピックアップしつつ、Football LAB(以下:FL)のデータも閲覧しながら論じていきます。(FLのデータは31節終了時点でのもの。)
 セットDFについてまず指摘したいのは、FLによるとアントラーズは2023年J1において最も横幅を圧縮しているチームだということです。そこでまず想定される問題が「大外を突かれやすい」ということです。図1に示したのは、ア戦の47分、一発のサイドチェンジからで崩された場面です。

図1

 グランパス戦(A)でも同じようなから形から失点しています。(※11)敵のサイドチェンジに対してスライドが間に合わない・連動が不十分で最終的にCBの手前や SB-CB間を突かれシュートまでもっていかれる場面です。厳密にはサイドチェンジではありませんが、ア戦では38分と56分にもアビスパの3バック中央CB奈良から、左サイドへのロングボールきっかけで崩されかけた場面があり、またヴ戦においては何度かLSB本多の左→右の対角線のロングボールから押し込まれました。また、2失点目は山口蛍の右→左のロングボールからでした。
 しかしマ戦に同じような現象は見られなかったと思います。システム的にアントラーズの4-4の外で浮くWBがいないことと、マリノスのDH以下に対角のサイドチェンジを蹴れる選手がいないためです。ですから、敵に速いサイドチェンジを蹴れる選手がいなければ、このセットDFの横幅圧縮は問題にならないでしょう。またサイドに展開されても、図1の佐野の役割を務めるDH(佐野orピトゥカ)が、敵より先にCB-SB間を埋められている場面も、シーズン中には何度か確認できており、自陣における横幅圧縮のセットDFはある程度機能していると言ってもいいと思います。実際にアントラーズの失点数はリーグ4番目の少なさで1試合平均失点1を下回ることができています。(ただし被ゴール期待値は1.177。)セットプレーや敵のミスに乗じた先制点から、中央を固め逃げ切るパターン勝ちを積み重ねてきました。アントラーズがボール保持率で相手を上回って勝利したのは、雨で水浸しのヨドコウ、セレッソ戦だけです。
 しかし、そもそも何故、アントラーズは他の全てのチームより横幅を狭める必要があるのでしょう。その原因の一つとして考えられる現象が図2です。

図2

 2トップが斜めの関係ではなく平行ラインを形成するために、敵のDHが受けるスペースを閉じられていません。ア戦の56分にはDH平塚にドリブルで鈴木-垣田間を通過される場面もありました。CF-DH間を閉じられなければ、当然SHとSBが内側に絞って中を固める必要性が出てきます。図3。(マ戦の前半30分までは、マリノスのDHを消す守備ができていました。)

図3

 2トップの適切な対応を示す簡単な画を図4としてつけておきます。

図4

 また2トップの平行ライン形成によるCF-DHの空洞化は敵陣でのプレッシングにおいても問題を引き起こします。図5はマ戦の31分、中盤のプレスを剥がされ松原までボールが展開されたシーンです。

図5

 佐野、柴崎、仲間がCFの背後を埋めるために走りましたが、1人ずつ剥がされてしまいました。マ戦では47分、71分、84分にも山根や渡辺からプレスを剥がされ大きく前進される場面がありました。 
 ヴ戦の前線2人は鈴木と荒木。荒木はヴィッセルのアンカー扇原をマークする時間が長かったため、鈴木と荒木は縦関係でした。そのヴ戦の敵陣での守備を図6で見てみます。LSH藤井がRCB山川を見ることに加え、安西は大迫と佐々木のマークにつくため、酒井が浮いている状態が続きました。

図6

 LSH藤井の背後にいるフリーのRSB酒井から前進される同様の場面は14分と15分にも見られました。LSHが仲間に変わった後半にも、ゲームの流れとしてヴィッセルが自陣から丁寧に進める場面が減りましたが、62分に同様の現象が見られました。
 マ戦とヴ戦ともに、最前線からの制限が効いておらず、ハイプレスが機能していたとは言い難い内容です。(ア戦は、アントラーズが押し込む時間が長かったこととアビスパが後ろから繋いでこないもあり、材料にしづらいゲームでした。)  
 FLによれば、アントラーズの「ハイプレス指数」はJ1で17番目です。単純にそもそものハイプレス試行回数が少ないということです。これは植田と関川のコンビがハイラインを敷くCBとして適任ではないからだと推測されます。2人とも背後を狙う敵に対する感度が鈍いように見えます。図6で鈴木がGKまで追うならば、安西は佐々木のマークを外して酒井まで出ていくべきでしょうし、そのためにはDFライン自体が攻撃的である必要があります。しかし、CBの2人はその戦い方に適していない。また、少し話を戻すと、図1の安西の様にSBがCBの背後をケアする場面も多々あり、CBの2人の性質も守備ブロックの横幅を圧縮させる原因の1つでしょう。  
 ここまでを踏まえて、アントラーズの非ボール保持局面での振る舞いをまとめると、自分たちからボールを奪いに行くアグレッシブな守備は数が少なく質も高くはない。自陣における4-4-2の「4-4」の強度と横幅圧縮で敵の攻撃を跳ね返す守備が主、と言えると思います。 
 この守備の仕方はより良い攻撃に繋げづらいものです。高い位置でボールを奪えないという点もそうですし、セットDFにおいて低い中央の位置までSHを動かしてしまうと、ポジトラ時に敵の守りが薄いサイドから陣地を回復する方途が使いづらくなるからです。結果としてアバウトなクリアをCFに何とか納めてもらう必要がでてきます。(マ戦の2失点目は安西のクリアからの被二次攻撃でした。)  
 また、FLの「ロングカウンター指数」と「ショートカウンター指数」、ともに今シーズンのアントラーズは2014年以後のアントラーズと比べで最低の値であり、シュートまで到達した確率はロング、ショートともにリーグで17番目です。これらのことから実際上もポジトラから良い攻撃に繋げられていないことが伺えます。岩政監督は那須太亮氏のYouTube動画内(※1)で「攻守の繋がり」ということについて言及していますが、その繋がりは実現できていないように見えます。むしろ失点しないことに特化した守備という印象を抱かせます。 
 2023年の新体制発表会でアントラーズは「主導権を握り、勝ち切るための勝負強さにこだわるフットボールを目指す」との強化方針を打ち出しています。(※12)(新体制発表会なので)漠然とした内容ですが、その「主導権を握る」という観点から見れば、非保持の際に守備的な守備に終始するアントラーズのプレーは、その方針に適うものではないと言えるでしょう。また守備の方針に関して「守備では様々な試合展開に対応する守りの柔軟性を追求する」とありますが、「自陣でペナ幅よりも狭いブロックを形成し跳ね返す」以外に有効に機能している非保持の場面は見つけづらく、「柔軟性の追求」にも程遠いように思います。

3章ー オンピッチ ~ ボール保持 

 ここで7節レイソル戦後、岩政監督のコメントを引用します。「自分たちは流動的なフットボールをしていて、相手に捕まらない、読まれないようなフットボールを目指している。後ろでボールを動かすテンポが大事で、動かしながらどこを見るか、相手がプレスに来ないのであればどう動かすかということに、この数試合取り組んできた。」(※13)このチームのボール保持スタイルを示すコメントを踏まえて、まずビルドアップから見ていきます。 
 FLによれば、アントラーズの「自陣ポゼッション時」の「ロングパス使用率」はリーグで4番目、「空中戦使用率」は3番目の値を示しています。ここで「ボールを動かすテンポ」と言っておきながら、実際にはボールが宙に浮いている場面が多いという点に言葉と現象間の矛盾を感じます。勿論、ロングボールが多いこと自体に問題はありません。リーグ首位のヴィッセルはロングパス・空中戦使用率ともにアントラーズより1つ上の順位です。大迫というJ1ではほぼ競り負けないCFがいて、アントラーズにも鈴木と垣田という空中戦に強い選手がいます。問題なのは岩政監督の言葉と現象との間の矛盾です。監督の思いに反して、なぜ空中戦が増えるのか?地上から進めない理由を考えてみたいと思います。図7に示したのは、ヴ戦の28分、最終的に早川のキックがヴィッセルの井出に渡りピンチをむかえた場面です。

図7

 先ほど図2~図5を使ってマリノスのボール保持に対するアントラーズの問題点を指摘しました。「CF-DH間を消せていない」。これは裏を返せば、ビルドアップの際にDHは敵CF-DH間にポジショニングしなければいけないということでもあります。これはチームによって差が出る話ではなく、サッカーの原理としてボールを地上から進めようと思えば、そうするしかないのです。これについて、ごくごく単純なポンチ絵が図8です。

図8

 サッカーは11人で行うスポーツです。GK1人を除いた残りの10人はDFとMFとFWに分けられ3本のラインを形成します。相手チームも同様です。その2チームの3ラインを嚙み合わせます。おのずとボールを前進させるために(図8の青チームが)しなければならないことが見えてきます。まずポジショニングとしては列を増やすことです。ここでは4-4-2の3ラインを形成する赤チームに対して、青は4-2-3-1の4ラインを形成しボールを進めようとします。個々の役割も導出できます。CB→DHで敵の1st・FWラインを通過し、DH→OH・LSH・RSH(2列目)で敵の2nd・MFラインを通過。最後に2列目→FWで敵のDFラインを超えます。SBはいずれのライン通過にも関われます。言うまでもなく、現実に図のようなことは起こり得ません。非保持側はラインを通過されないように局所的に防衛ラインを増やしたりDFラインを上げて中盤を圧縮したり、、、それに対して保持側もサイドを使ったりポジ        ションを動かしたり、、、あらゆる攻防が現実にはあります。図8はそれらの攻防が根源的に意図していることを、ものすごく簡素に表したものに過ぎません。 
 話を戻して、ボールを地上から前進させようとするなら、必ずDHは敵の1stライン-2ndライン間にいなければならないのです。図7はその原理的な処ができていないことを示すものでした。ビルド時にいなければいけない場所 に誰もおらず簡単なロストに繋がってしまう同種の現象は、ヴ戦では13分、マ戦では42分、ア戦では7分と33分に見られました。流れの中で瞬間的に不在になってしまうことはあり得ますが、それが数秒続いたり、セットOFのスタート段階から誰もポジションにいなかったりする処を見ると、意識づけられていないと考える方が自然に思われます。  
 図9では(少し状況が違うのですが)、敵の1stライン背後にDHがいること・そこで受けることの意味を図示しています。

図9

 簡単に言えば、そこにいることで敵1stラインのプレス・ポジションに影響を与え、地上から前進しやすくなるということです。  
 ビルド時におけるアントラーズのDHのポジショニングの問題に加えて、ボールを持った際の選手個々の判断において指摘したい問題も幾つかあります。図10はア戦の6分、ピトゥカが正しい場所とタイミングで早川からボールを受けた場面です。

図10

 フリーで運べるスペースがピトゥカにはありましたが、全く意味のない横パスでクリーンに前進する機会を失ってしまいました。最終的にボールは早川まで戻りロングボールを選択することになります。ピトゥカは左足しか使えないことや、ボールを持って敵の方を向きながら駆け引きできないこと等、シーズンを通してビルドアップ時には大きなネックになってしまっています。  
 図11は厳密にはビルドの場面ではないかもしれませんが、現アントラーズの選手個々の判断ミスを象徴する場面として提示します。

図11

 自陣コーナー付近でボールを奪い、藤井が大きなスペースを進んでいく場面です。藤井は井出の誘導に逆らえる十分なスペースを有していましたが、結局は井出一人の誘導に負けロストに繋がってしまいました。この「目の前の敵のプレス誘導に逆らう」プレーができる選手がアントラーズにはとても少ないと感じます。前線にも少ないですし、ビルドアップで重要になるDH、SB、CBにも殆どいない。GK早川が一番上手に見えます。 
 なぜボール保持者が敵の誘導に逆らうことが重要なのかというと、守備ブロックは1stディフェンダーの守備ベクトルに合わせてポジションをとるからです。1stディフェンダーが右サイドにボール保持者を追い込もうとしているのなら、それに合わせて後ろの守備ブロックも右サイドにポジショニングします。ですから、ボール保持者が1stDFの逆を突くということは、敵の守備組織の連動性を狂わせるために重要なのです。  
 図12は敵の背中にいるフリーの佐野を認識できず、かつ斜めの位置に降りてきた樋口の存在も認識できずにインターセプトされてしまったマ戦での植田のプレーです。

図12

 植田はRCBの位置で前向きにボールを持った際に、左の空間・対角を見ることがシーズンを通してできていません。これは敵の守備者からすると非常に助かります。植田がボールを持った時点でボールが飛んでくるエリアをかなり絞って予測できるのです。ボールの蹴り方も、身体の向きと同方向に素直に蹴るので敵の予測通りのプレーをしてしまいます。味方は捕まれてしまうのです。  
 ここで少し紹介しておきたいグループ戦術があります。「3人目のフリーマン」です。その簡単な具体例を図13に示します。

図13

 これに関してガンバ大阪のポヤトス監督が3月のサンフレッチェ戦後に語っていることを引用します。「フリーマンがどこにいるのかを探していく。3人目をどのように作っていくのか、フリーマンをどこで見つけていくのか、どこにスペースがあるのかという処は、私たちのプレースタイルとして置いています。それは広島対策ということでなくて、それはすべての試合でガンバのスタイルになっていくと思います。」(※14)
 「ガンバのスタイル」と言うと、あたかもそれが特殊なものであるような気がしてしまいますが、「3人目のフリーマン」は、まさに「捕まれない」ボール回しをするチーム全てに見られるプレーです。欧州の強豪チームであれば、程度・頻度の差はあれ実践していますし、Jでもガンバはもちろんサガン、アルビレックス、マリノスといった「捕まれない」という印象を与えてくるチームは、3人目のフリーマンをつくり・使うプレーをしてきます。捕まれないチームを目指すのであれば、真っ先に着手して然るべき一般的なグループ戦術だと言って差し支えない。
 ただ、アントラーズは全く仕込まれている気配がありません。まずポジショニングとしてフリーマンができて2人目を経由して届けられそうな場面がありませんし、偶発的にポジショニングが整ったとしても、ボール保持者の1人目や2人目が認識できていない場面が殆どです。図12はそれを示した図でもあります。 
 図14はヴ戦、フリーマン(佐野)に届けられそうな場面を2人目(樋口)で逸してしまった場面です。

図14

 佐野に落とすだけで中央から大きく前進できる場面でしたがそうはならず、最終的に早川のロングボールで終わりました。 
 ここまで「何故、ロングボールが増えてしまうのか?」について論じ、個々人の判断・ポジショニングの問題、グループとしての動きの落とし込み・共通認識不足を指摘しました。勿論、敵のスタイルも考慮すべき話ですが、そもそも地上から繋げられそうなポジションにいない・ボールの持ち方をしていない場面が多いのは明らかです。 
 ビルドアップにおいてもう一つ際立っているFLの数字があります。それは「自陣ポゼッション」からシュートに至った割合がリーグトップであるという点です。これだけを見ると、ビルドアップがうまくいっているように見ますが、先述したようにロングボールと空中戦の割合も多いのです。つまりどういう景色が想像されるかというと、ロングボールを前線の垣田や鈴木が納める、もしくは2ndボールを拾いハーフラインを超えた後、そこから一気にゴールを目指すという画です。その想像を裏付けるデータとして、「敵陣ポゼッション」の指数が過去のアントラーズと比べて2014年以後最低、リーグでは下から5番目であることが挙げられます。以上の内容を示唆する現象が図15です。

図15

 GKからのロングボールをフリーで受けた鈴木。マリノスの陣形は間延びしています。更に垣田と仲間がDFライン背後へ走ることで、更にマリノスは間延びします。アントラーズとしては中盤中央の広大なスペースを使って確実に進める場面でしたが、鈴木は自分がまだフリーな状況で背後への不確実なパスを選択しボールを失ってしまいました。ボール保持者の鈴木の判断にも問題がありますし、山根-渡辺の脇に誰もポジションを取りに来なかった周囲の判断にも問題があります。同様の中盤のスペースを無視して一気にゴール前に迫ろうとしてロストする、もしくはチャンスをふいにしてしまった場面は、マ戦では82分、ア戦では17分と63分、ヴ戦では7分、12分、50分、65分に見られました。
 マリノスが終始間延び気味だったので、マ戦では中盤のスペースを速く消費する攻撃で決定機を3度ほどつくることができています。
 しかし一方で、味方の押し上げ・敵の押し下げが完了する前に攻め切ろうとするので、被カウンターのリスクも大きくなります。23分が象徴的でした。(※15)10秒以内の間に敵ゴール前から自ゴール前まで進まれました。  チャンスになっているので許容されるべきリスクである、という選択をとることもできますが「主導権を握る」や「攻守の繋がり」という観点からすれば、歓迎される選択ではないでしょう。オープンな展開で殴り合うということは、ギャンブル的要素を多分に含んでしまうからです。それにそもそも、こうした中盤をスキップする攻撃が上手くいっていないことは、自陣ポゼッションからのシュート率はリーグトップでありながら、肝心のゴール率はリーグで12位という数字に表れています。 
 中盤のライン間に人がおらず、そのエリアに大きな空間があるため、ボールが循環せずカウンターも受けやすいということを上で論じましたが、「いるべきポジションに人がいないために、攻撃が上手くいかない」という現象は敵陣でのポゼッション時にも見られる現象です。図16と図17はヴ戦のシーン。味方同士が密集した左サイドから右サイドにボールが展開されるも、RSBの広瀬が孤立しているので良い攻撃に繋がらなかった場面です。

図16


図17

ここで普通であればRSB広瀬の隣にはRSH樋口がいるべきなのですが、樋口は反対サイドのLSH藤井より左にポジショニングをとっているため、広瀬は完全に孤立してしまっています。唯一、RCB植田と繋がれるポジションにいますが、2CBの一角を担う植田が攻撃的なサポートをすることはリスク管理のためできません。密集をつくったサイドから敵を崩そうとする素振りのないまま、簡単にサイドを変えてしまうので、結局、先に敵のスライドが間に合う現象が多発しています。サイドチェンジが全く意味をなしていないのです。  
 図18は反対サイドにおける同種の現象です。

図18

 LSB安西の隣にいるべきLSH仲間が右サイドにまでポジションを動かしており、代わりにポジショニングしている選手もいません。ボールが安西に展開されても、サポートに加勢できる3人目の味方はおらず、結局、安西にパスを出した鈴木が敵のブロック外まで20m以上を走ってサポートに入りました。この後、5秒ほどサイドでボールをキープしますが2人の関係は孤立したまま、最終的に攻撃はやり直されます。一方のサイドに反対サイドSHを加えた密集をつくりロストするorサイドを変えてもSBが孤立している、という現象は、少なくとも3試合で12回は見られました。 
 繰り返しになりますが、ポジションバランスが大きく崩れた状態で攻めることには、ネガトラが貧弱になるというリスクがつきまといます。ピトゥカと特に佐野のボール回収が異常に目立つというのは、ポジションバランスを崩している1つの証左と言えます。  
 一方で、SHが普通の(同サイドのSBと繋がれる)ポジションをとることでサイドの崩しを成功させた場面が、ア戦の前半に4~5回ありました。図19と図20はその内の2つです。

図19


図20

サイドのSB-SH+1人の3人の関係性でサイドを崩しています。サッカー的にごく普通かつ有効な崩しですが、この現象はア戦の前半だけで、それ以外の225分では全くと言っていいほど見られませんでした。  
 ここまでで示したように、アントラーズは決して良い敵陣での攻撃を仕掛けられているようには思えませんが、FLによればアントラーズの「敵陣ポゼッション」からの「ゴール率」はリーグトップです。「ロングパス使用率」「空中戦使用率」ともにリーグ2番目の数字であることから、クロスの割合が多いことが推測されます。ただし、アントラーズの「ゴール期待値」はリーグ最下位です。つまり確率の低いクロスからのフィニッシュを高い決定力でゴールに繋げている、という現象が想像でき、シーズンを通した印象とも合致します。ですから、ア戦の前半の様に(敵のCBを少しでも引き出したり敵のSB・WBに背中を気にさせる対応を強いたり)サイドを崩してクロスを上げる機会を増やせれば、もっと楽に点をとれるのではないかと期待できるわけです。 
 ボール保持時におけるデータの概観を見ると、今シーズンのアントラーズの平均ボール保持率47.9%は過去のアントラーズと比べて2012年以後、最低の値です。また、全得点のうちセットプレーが占める割合はリーグトップの32.5%です。ボール保持率が高ければいいわけでもありませんし、セットプレーからの得点を軽んずるわでもありませんが、先に述べたゴール期待値最下位というデータも含めて見ると、ボール保持に関して、かなり厳しい現実があると言わざるを得ません。 
 ここまで見てきたように、ビルドアップからフィニッシュにかけて「いるべき場所にいない」という現象が多発しているわけですが、その原因はおそらく岩政監督の言う「流動性」にあるのだろうと思います。選手のオフボールの動きによって、捕まれないサッカーを実現したい。FLによれば、アントラーズは「自陣ポゼッション」において「21km/h以上の走行平均人数」と「24km/h以上の走行平均人数」がリーグトップです。加えて、「敵陣ポゼッション」における「21km/h以上の走行平均人数」と「24km/h以上の走行平均人数」は、それぞれリーグ3番目と2番目の値を記録しています。自陣でも敵陣でもアントラーズは複数の選手が走っているのです。(単なるチーム全体の「走行距離」ではないことが、ここでは重要です。) 
 「走る」ということに関して岩政監督は、「まず走ろうと。ボールに近い選手が走ったら、スペースが見える。後ろの選手はそこに入って行けばいい。そこから自ずと連動、連続、連係が生まれますからね。」と語っています。(※16)この「走る」というスタイルについて次章では論じたいと思います。

4章ー「走る」ことと「見る」こと ~ 両立可能か?

 岩政監督が思い描いている戦い方に関するコメントで、もう一つ引用しておきたいものがあります。29節、アビスパ戦後のコメントです。「ボールを動かしながら相手を見て、空いたスペースから崩していくというやり方がなかなか浸透していないというところは、正直、あると思う。」(※17)     僕が気になるのは「相手を見て」の部分です。岩政監督はシーズンを通して「相手に対して如何にプレーするか?」という趣旨のコメントを多く残しています。しかし、3章で示したように攻撃時に相手のダメージになるようなプレーができていないシーンが多く、岩政監督も「浸透していない」と言っているように、選手の判断力が向上していないような印象を受けます。
 が、ここで私が指摘したいのは「そもそも、選手の判断力が低下するような戦い方を選んでいるのではないか?」ということです。ここで問題になるのが先述の「走る」です。  
 想像すれば誰でも理解できることだと思いますが、自分が動いているときよりも自分が止まっているとき方が外の景色を正確に把握できます。サッカーで言うと、自分が速く動くほど、敵のプレスの速さや角度、空いているスペースの認識は難しくなるということです。学生時代にちょこっとサッカーをやっていただけの僕の言葉だけでは心もとないので、世界トップレベルのサッカー人たちの言葉を3つ引用します。  
 まず久保建英が語ったD.シルバのアドバイスです。「僕はいつもギアを上げていくので、彼は『スピードを落とせ、そこには必ずスペースがある』と教えてくれるんです。」(※18)短い言葉ですが、ここに語られているのは、岩政監督の目指す「走ることでスペースをつくり、使う」とは正反対のことです。  
 次にベッカム氏が明かした、メッシによるインテル・マイアミのアカデミー生へのアドバイスです。「もっと(周りを)見ることができるから、もっと歩け。」(※19)これも同様に、スピードを落とさなければ周りは見えない、というごく当たり前の話です。 
 最後に、ペップ。当時それまで低調だった自分のチームに対する反省を込めて「We ran too much. We were not in the position. Everyone moved without knowing exactly what we have to do with the ball.」と語りました。(※20)(※21)
 まさに沢山走ることが前提で正確なポジションをとれず、正確な判断がなされない、4章に示したアントラーズの状態です。 
 ここでの3つの引用が示唆することは、「走る」ことを最優先事項に据えつつ「相手を見る」「スペースを見る」ことはとても困難だということです。
 現在のアントラーズはGKとCB以外の選手が、みんな揃って走ることで状況を動かそうとしているように見えます。みんなが捕まらないことを目指しているようにさえ見えます。しかし、数的同数で始まるサッカーにおいてそれは不可能です。捕まらない選手を生み出すためには、意図的に捕まる選手が必要なのです。「如何に捕まれないようにするか?」という問いは「如何に捕まれるか?」という問いと同等です。しかし、岩政アントラーズには後者の問いを棚上げしたまま、前者にばかり答えようとしている印象を抱きます。その結果、スペースができていないのに、無理やりスペースを見つけて走りまくる事態が発生します。何処にスペースを見つけるのでしょうか?敵守備ブロックの外。つまり敵の1stライン手前と大外、そしてDFラインの背後です。結果、中盤のいるべき場所、いるだけで敵にダメージを与え得るポジションに誰もいない現象が頻発し、捕まれるのです。  
 前に引用した3つの言葉はいずれも、ポジショナルプレー的な観点から発されたもので、少し偏っているかもしれないので、ポジショナルプレーとは正反対の、まさに「流動性」によってパスを繋いでいるフルミネンセの動画を見ておきます。(※22)
 敵を引き付けて背後にスペースをつくるまでは、非常にゆっくりプレーしていることに気づかれると思います。そうでなければ、ガンソのような選手が機能する筈はありません。「まず走ろう」よりも、まずボールを餌にして(ある意味で)敵に捕まれることで、スペースをつくってから走っています。もし岩政アントラーズがフルミネンセ・Dinizismoであろうとするならば、走るよりも先に、個々人の敵を引き付け捕まれる技術やテンポライズが求められるだろうと思います。 
 前章の最後に示したように、アントラーズは間違いなく流動的かつ積極的に走っています。ですから、岩政アントラーズには戦術がないわけでも、スタイルがないわけでもありません。実態はそうではなく、その目指している・実践しているスタイルが、そもそもサッカー的に困難なのかもしれないのです。それ故に「何をしたいのかわからない」「いつ完成するの?」と見えてしまうのだろうと思います。
 そしてそれは、ベースとなるスタイルとして全く相応しくない。奇妙奇天烈なスタイルは、選手や監督に左右されないベースにはなり得ない。

5章ー 最後に ~ 多重な混迷

 岩政監督誕生に至るまでの、アントラーズの強化方針の混乱を確認しておきます。 
 レネ・ヴァイラー氏はアントラーズの監督に就任しようとする際「鹿島でどんなサッカーをしますか?」という問いに、「いる選手の特長を最大限に生かすことが私のやり方」と答えたそうです。(※23)
 この言葉だけを見れば、岩政監督の個性先行的な考え方と同じです。ただ、レネ氏は「勝つため」に招聘された監督でもありました。(※24)
 1章で引用した鈴木満氏のコメント(※3)の後、招聘されたのはザーゴ氏です。間違いなく、ここでは「ベース構築」という要求があった筈です。結局そこが失敗したと判断され、相馬氏が「タイトルを目標」として招聘されました。(※25)そして相馬氏の後任であるレネ氏も、先に見たように「タイトル」を目標に設定しましたが、うまくいかず「ベース構築」という、当初ザーゴに課せられたような問題・目標が岩政監督に帰ってきた。
 たった2年の間に「ベース→タイトル→タイトル→ベース」と、問題意識・目標設定の一貫性のなさが表れています。結局これは「ベースがない」ということに集約されます。
 「ベース構築orタイトル獲得」という2択は存在します。岩政監督の言う「勝ち方が変わった」とは、その2択で早々に前者を選んだチームがベースを完成させ勝ち続ける段階にJリーグはなっている、という意味です。
 岩政監督は「90分、相手を圧倒するための」ベース構築を目標に就任しました。しかし、1章で示したように「ベース」と言いながら、それを「個性」に積極的に依存させようとする。それはベースになり得ない。選手への依存度が低いから「ベース」足り得るのです。
 そもそも、プロチームでの指導経験がない人物にベース構築を任せている強化部も問題ですし、それを引き受けた岩政監督の「ベース」に対する理解にも問題がある。また、4章で見たように、そこで個性に依存させながら実践しようとしているスタイルの実行可能性も怪しい。
 ・「ベース構築」と「タイトル獲得」との間における強化部の迷走。
 ・新人に「ベース構築」という無理難題を任せていること。
 ・その新人と強化部の「ベース」に対する理解の浅薄さ。
 ・「ベース」として落とし込んでいるものの実行不可能性。
 ・その実行不可能性に無自覚なまま、繰り返されるピッチ上の現象。
 僕が感じている、アントラーズに対する違和感をまとめると以上になります。こうした問題を一挙に解決することは、とても難しいでしょう。Jリーグクラブ最多となる主要タイトル20冠を獲得したクラブの歴史の結果として、この混乱があるからです。
 昌子源は2023年のJ1優勝の可能性が消えたこと・大事なゲームを悉く落としたことについて、「試合の展開に応じたゲーム運びがうまくない。タイトルを獲得できていたシーズンは、言葉少なくともそれができていた。普段からあ・うんの呼吸で、チーム全体が共通認識のもとで試合を進められるような組織になることを目指さなければいけない。」という類のことを語っています。(※26) 
 この昌子の考え自体には何の問題もありません。サッカーとは刹那的な判断の繰り返しです。が、やはり負けた際の分析結果として、初めに「あ・うんの呼吸が足りなかった」となるのは、我々がよく知っているアントラーズそのものです。その呼吸を合わせるのが様々な要因で難しくなっているから「新しいアントラーズ」が要請されている筈だったのです。合わせやすいように前提となるベースを欲したのです。しかし、そのベースを岩政監督は種々雑多な個人に依存させる。 
 チームが根本的な処から変わるということには、思考様式の変化も含まれる筈です。サッカーの勝敗には様々な原因があり、それがメンタルなのか、戦術なのか、個なのか、呼吸なのか、、、何処にどれだけの原因を見出すか?は、そのチームの哲学によります。「臨機応変さを欠いた」は、そもそもの「何となく選手任せ」という問題に対する答えに全くなっておらず、依然としてその問題が健在であることを示しているだけです。そのゲームをどう捉えるか?という基準としての枠組みが相変わらず空っぽなのです。
 僕が言えるのは、「まずサッカーの捉え方を変えましょう」ということだけです。その方法は知りません。
 22年の天皇杯敗退が決まった直後、岩政監督はブーイングするサポーターに向かってこうも言っています。「ファンじゃなくてサポーターだろ? サポートするのがサポーターだろ?」「覚悟がなかったらサポーターやめろよ」「負けたのはみんな一緒だろ」と。(※8)しかし、サポーターはこの監督や強化部の操縦する、木に竹を接いでできたような船にどう乗ればいいのでしょうか? 
 と1人のファンでしかない僕は思うのです。それと同時にファンとして、岩政さんの成功・クラブの成功を信じるしかないと思うのです。
 当noteの内容が全くの的外れであることを祈って。

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