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古武術の先生にインタビューしました

「古武術で相手と向き合うことは、自分の在り方につながる」
そう語るのは、古武道・古武術歴30年以上の経験を持つ永野柔心氏。
永野氏は、古武術研究会「柔剣雷心会」の代表として1000人以上を指導。
古武道・古武術を通して、身体の使い方や相手と向き合う姿勢を教えています。

本記事では、「古武術に興味がある」「未経験から古武術を学んでみたい」といった方々に向けて、古武術の魅力についてお話をうかがいました。
 
文中で「永野氏」と書いていますが、私にとっては10年以上前からの知人であり、密教整体の師匠でもあります。気さくで好奇心旺盛な優しい先生です。


1.古武道・古武術とは

--永野先生、改まってインタビューをするのは気恥ずかしいのですが、今日はよろしくお願いします。

永野氏:こちらこそよろしくお願いします。あとは、あなたの編集次第ですよ。

--ひ~~!!(初めからプレッシャーをかけてくる!)圧が強い!
では、心を落ち着かせて始めます。
そもそも、古武道とはどういうものなのでしょうか?
 
サムライ(武士)がしていた古い武道
永野柔心氏(以下、永野氏):古武道と古武術についての定義というものはないと思うのですが、現代の武道と言われる、剣道・柔道・空手などに対して、現代武道とは違った、いわゆる昔のサムライ(武士)がやっていたような「古い武道」という意味で使われていると思います。

2.古武道と古武術の違い

--古武道とか古武術とか、呼び方が人によって違いますが、その違いは何なのでしょうか?
 
術というドットのつながりが道というラインになる
永野氏:古武道と古武術の違いは、簡単に言うと言葉のとおり「道」と「術」の違いです。
呼び方は人それぞれですが、うちの柔剣雷心会では、特に使い分けてはいません。ただニュアンスとして、私なりの解釈があって、術はドット(点)なのね。ドットを連続して打ち込んで、それを遠くから見るとライン(道)になるでしょ。
「術」は目の前にある一つのやり方・技術的なものであって、武術という点をつなげていって全体を見ると、武道という「道」になる、という感覚ですね。一つ一つの技や稽古が、点になるわけです。そのつながりや積み重ねが「道」となる。
 
また、「道」というのは先人・先達がいて、それを後から追って行く者がいる。歩み続ける道なので終わりがない世界です。そういう意味では、「古武道をやっている」という意識が私は強いですね。ただ単発で見れば、古武術をやっているという認識です。
 

--技術面とか、精神面とかも一つの点としてみれば、術の一つとも言えますね。古武術の技としては、柔術、剣術とかいろいろな種類がありますよね。
 
永野氏:いろいろあるけど、キリがないよね。要するに武士・侍がやっていた術全般というひとくくりでいいんじゃないかなと思っています。
火縄銃だって「砲術」になるし、弓を持っていたら「弓術」になる。手裏剣術とかもあるね。
昔の人は武芸十八本といって、ひととおりできるのが武士のたしなみといわれていたんです。
 

--古武術は、大陸から来たものですか?それとも、日本古来のものですか?
 
永野氏:刀を鞘(さや)に納めた状態から抜くという居合い(居合術)の発想は日本しかないと思います。
日本の場合、特に江戸時代では、武士が鞘に納まっている刀をどう抜くかという、形と精神を重視する意識がより強くなったのかもしれません。

3.古武術の魅力

--永野先生は、元サラリーマンだったと伺いましたが、この道に入ったきっかけというのは何ですか?
 
永野氏:長兄の影響が大きいです。23歳のとき、松聲館に入会し、兄である永野順一が主宰する心形刀流「風心会」に設立から参加しました。
2000年から自分主宰の古武道の研究会を始め、2005年柔剣雷心会を設立しました。
 
--それからずっと古武道を続けてらっしゃるのですね。

相手と向き合うことが自分のあり方につながる
永野氏:たまに、人から「刀の抜き方、斬り方を学んで、何か日常的の役に立つのか」と尋ねられます。
私の柔剣雷心会は、競技をする武道ではないし、格闘技や、護身術を目的としていません。
型稽古をとおして、自分とも向き合うという形にし、その中で少しでも日常の生活に反映させていけばいいのではないかという考えでやっています。日常での対相手との向き合い方の一つとして、武術というツールを使っているといっても過言ではないかと思います。
 
--日常での人間関係やコミュニケーション手段の一つということですね。そして精神面の鍛錬でしょうか?
 
永野氏:精神面というほどのことではないのだけど、結果的にそうなればという思いを大切にしています。
まさにそれは、刀をどう使うか、ではなく、どう活かすか、ですね。
稽古や型をとおして、相手と向き合うことで自分と向き合うことになり、自分自身のあり方につながります。
 

--人間関係においても、相手に寄り添うとか、間合いを取るとか、タイミングを合わせるなどの、相手がどう返してくるか、相手に応じての自分の在り方、立ち位置が大事ですね。
 
永野氏:そうですね。呼吸。全て呼吸だと思います。相手の呼吸をはかれる、理解することができる。そのためには、まず自分の呼吸を整えることが大切になってくるわけです。
 

--古武術って、かっこいい所作だとか、姿などの見える部分であこがれていましたが、実はとても深いのですね。相手がいて最終的には自分と向き合うところにつながっている。

4.古武術を通して伝えたいこと

--古武術に対して興味を持っている人ってたくさんいらっしゃると思うのです。やってみたいという憧れと同時に、「敷居が高いんじゃないかな」「続けられるかな」という不安を持っている方もいるかと思うのですが、いかがでしょうか?

永野氏:続くか続かないかは、難しい問題ですね。そもそも、汗をかいて気持ちいいというような世界ではないので、行きづまる人は、行きづまると思います。問題はその先にある「思うようにできない自分と向き合うことができるか」ということです。自分と向き合うことって、正直つらいと思うので、まずは相手と向き合うことからはじまります。相手を見ることができるにようになってきて、少しずつ自分が変化していくことに気づき、そこに喜びを見い出すことができれば、続きます。

 
--確かに、できない自分を向き合い、認めるのはつらいというか、きついですね。
 
永野氏:最初から自分と向き合うと、自分のダメなところとか見えてきてつらいんですね。自分で自分にダメ出しすると動けなくなっちゃうので、それを型という縛られた稽古法でやるわけです。自由のない、ある程度決まった手順や決まったやり方の元、縛られた不自由な中で学んで自由を得るのです。

 
--ところで、海外の人たちも、古武術に対して、結構興味を持っていますね。

間(ま)というあいまいな感覚を育てる
永野氏:そうですね。古武道・古武術に興味を持ってくれている海外の人たちは、日本的な間(ま)の世界を感じ取ろうとしているんです。
「間」というのは、とてもあいまいなものなんです。日本人は「間が悪い」という言葉を使いますが、「間」って何?と言われると、とってもあいまいなんです。間合いというのは距離感なんだけど、日本人的な「間」というのは、一つじゃないでしょ。

--日常でも、「間を取る」「間が抜ける」「間が合う」という言葉がありますね。
 
そうです。空間のスペースであったり、距離であったり、時間的なものであったりね。もう一つね、意識というものもあります。
意識・空間・時間・距離。この4つの統合された感覚が「間」という言葉で表されているので、非常にわかりづらい。わかりづらいけれども、絶対的なものとして存在しているんです。
存在という「ある」感覚。「ある」ものに対しての「間」。その感覚を育てることが、稽古で培っていく一つの面白さであり、最大の学びです。

意識…相手の意を察知する
空間…状況を把握する
時間…タイミングをはかる
距離…相手との距離をつかむ

--感覚を育てるってよくわかります。マニュアルじゃないから、形だけど形じゃない。その人に応じて形が変わるというか。それは日本独特の世界観かもしれませんね。
 
永野氏:そうです。形は絶対的なものでなくてその時の状況によって変わります。変わるけれども、絶対的な感覚に育てなければならないので、単純にマニュアル化はできない。その感覚を稽古で段階を踏んで培っていくのです。
 

--なるほど。深いですね。相手との向き合い方として、「間」という感覚(感性)を育てるということですね。

5.最後に

--自分はこうしたいんだという意思がしっかりした人のことを「自分軸を持っている」とか「軸がぶれない」とか言いますが、古武術の世界においての軸というのはどのようなものでしょうか。

軸を立てる
永野氏:意識の軸という意味ではぶれないということですね。
古武術という視点で言うと、身体的な軸が基本となります。対相手がいて、その相手との「間」の感覚を育てるためには、目先のことだけ見ていてはだめで、全体の状況把握が大事なわけです。
正しい姿勢で丹田を意識して軸を立てることで、自分がよりリラックスした状態で「間」を把握できます。そのために軸をたてるという身体感覚が必要となります。
それは、結果的に意識としてのぶれない自分が生まれる可能性があるかもしれないですね。
 

--目の前のことだけ見ていたらそのことに振り回されてしまいますね。軸を立てて体の力を抜くことで、心に余裕ができ全体を見ることができるのですね。

6.まとめ

今日は、古武術の魅力や深い話をたくさんいただきました。

  • 相手との向き合い方を学ぶ

  • 自分自身のあり方につながっていく

  • 「間」というあいまいな感覚を育てる

  • 軸を立てて全体を見る

など、古武術は、日常での人間関係やコミュニケーションに活かしていくことができるというお話でした。
SNSが普及し、文字でのやり取りなどが中心となっている世代の中には、リアルなコミュニケーションが苦手な人もいると思います。今日のお話は、日常に活かせる手段の一つかなと思いました。

--永野先生からも、最後にひと言、お願いできますか?
 
永野氏:人とのかかわりは、自分の我(が)が強すぎるとぶつかり合うし、へりくだりすぎると自分の内側にこもってしまう。我はあってもいいんだけれど、そのバランスというか塩梅(あんばい)というものを、非日常的な古武道という世界を体験しながら、少しでも学べればいいんじゃないかと思います。
 

--楽しみながら、非日常の体験を日常に活かそうということですね。
今日は、貴重なお話をいただきありがとうございました。

                     (取材日:2023年8月3日)

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