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チャーハンという窓から見える景色

#チャーハン大賞 #エッセイ

チャーハンと聞いてあなたは真っ先に何を思い浮かべるだろうか

土曜の昼下がりに誰かが作ってくれた卵と米だけのチャーハン
古びた油まみれの小汚い店舗で出される妙にしっとりしたチャーハン
コンビニのレンジで設定時間より長めに温めた熱々のあんかけチャーハン

身近にありながら奥深い

ラーメンより注目はされず、さりとて決して失われない存在感はある食べ物

それがチャーハンだ

人によりチャーハンを通して見える景色は違う

どこで誰がどのように作るか、どのように食べるかでチャーハンが前景化するものは異なる


家庭で作るチャーハン

すりごまを入れたり梅干しを大量に入れたりキムチをやたらめったに入れたりアレンジは尽きない

タブーなどない

禁忌もない

やりたいように、あなた好みに仕上げても誰からも文句はでない

きわめて属人化されているといってもいいだろうか


町のこじんまりした中華屋のチャーハン

ラードのテカリ

鼻腔を刺激する芳香

ナルトチャーシュー玉子の渾然一体感

そしてあの火力

届きそうで触れられない、家庭では再現できない味

ある種の中毒性を帯びた味

たとえ同じ材料を使ったとしても調理人の技量によって味は大きく異なる

このとらえどころのなさ故にチャーハンは奥深く、愛されると言ってもいいだろう


高級店でだされる洗練された工夫のあるチャーハン

エビやカニ、アワビやフカヒレを使ったあんかけ

最高級、最高品質のチャーシューの細切れ

垢抜けないセンスの人物が急に様変わりするかのごとく高級食材で彩られる

家庭でも町中華でも提供できない味、素材、技術

あれを食するのはなかなか手にすることのできないブランド品を手に入れること似ている

味覚への刺激がもたらすこれ以上ない恍惚 

非日常への入り口


家庭 町中華 高級店

チャーハンと名がつくもののそこで味わえる体験は全く異質だ

かといってどれが優れていてどれが劣っているというわけではない

置かれてる世界が違えばそのあり方も違う

ただそれだけの話だ

単に違いがあるだけであって、それを認め受け入れられれば、チャーハンを通して見える視界はそれだけ広くなる

あなたはあなたの求めるものを食べればいい 誰に何を言われようとも

優劣をつけるなど愚昧である

断絶がある かなしくもあたたかな断絶がそこにある


チャーハンは門でもあり鍵でもある

家庭 町中華 高級店

そこに交わりはあるようで実はない

チャーハンはそれぞれの場所がめいめいに提示してくる言語だ

それぞれの家庭が、店が、チャーハンであなたに語りかけてくる

「おまちどおさま」

目の前にある湯気の立つチャーハン

それをあなたの解釈で受け止めて咀嚼する

口に運び味わうということは対話するということでもある

チャーハンを通して示される価値観や世界観は チャーハンという窓を通じて舌の上を踊る

あなたはあなたの言葉であなた自身のチャーハンを味わおう

門は開き扉は開かれた

そこは案外豊かなことばに満ちている


そんなことを考えながら今日もまた電子レンジでチャーハンを温める

温まるのを待つこの時間も意外と悪くない

これでいいし、これがいいんだ、なかなか

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