月の満ち欠け

あたしは、月のように死んで、生まれ変わる―――――
この七歳の娘が、いまは亡き我が子?
        いまは亡き妻?
        いまは亡き恋人?
そうでないなら、はたしてこの子は何者なのか?
三人の男と一人の女の、三十余年におよぶ人生、
その過ぎし日々が交錯し、幾重にも織り込まれてゆく、
この数奇なる愛の軌跡。

月の満ち欠け 佐藤正午作 岩波文庫的

小指の爪から、第一関節までの長さにも満たない厚さの文庫本。
表紙に記されたあらすじ、
帯の「生まれ変わっても、あなたに会いたい」
という言葉と、なにより、
「月の満ち欠け」 という題名。

それだけで十分もう、胸をきゅっとされて吸い込まれていく。

何気なく、部屋のテーブルの上に置かれたこの本をみたとき、
この1冊のこの厚さに、壮大な物語とひとの人生がはいっているのかと
思うと、これから読んでいくのが楽しみになる一方で、
なんだかおそろしくも感じた。

私の生きる日常では到底起こりえない、
大きくて広くて何十年分もの物語が
私のこの小さな部屋にぽつんと置かれていることは
普通ではないなと思った。

これからその、私をおびやかす大きな物語に、
ただ紙のページをめくるだけで遭遇できること、
世界を知ることができることを
その価値を
楽しみにしながらも
この本をめくっていくことが、おそろしく苦しい

そんな儚さや苦しさや切なさ、
これらよりもっと自分でもわからない感情を
きゅっとつめこみ、包み込み、おさめてくれるのが、
「月の満ち欠け」
という言葉なのだと思う。


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