2021.09 良かった新譜

10枚、A→Z順、日付はリリース日です!


AKIRA KURØ - WE ARE AKIRA KURØ
(EP, 2021.01.08, Altarnative Idol)

日本のライブアイドルシーンに影響を受けたと思われる、タイのロック・アイドルグループ。すみません、一応何年か前から認知はしてたんですが、1月に新譜出てたのはごく最近気付きました。BiSHとPassCodeが一曲の中に共存しているかのようなキラーチューン「Cyberbullying」(リマスターされ本作にも収録)の印象が強かったけど、今回は「HOPE」でかなりしっかりブラックメタル領域に進出。前述の2組+NECRONOMIDOL、と形容すれば、各所のアイドルファンにも面白さが伝わるんじゃないでしょうか。日本にもファンが多いであろうモダン・メタルコアNobunaのメンバー提供曲もあり、特定層の国外アイドルシーンへの興味を誘うこと間違いなしの一枚。


arauchi yu - Sisei
(Album, 2021.08.25)

ceroのメンバーによる初のソロ作。心地よいチェンバー・ポップは、良い音を聴くというより、良い音が鳴る空間に誘われるという体験に近い(なんなら、これを流していると自宅の全ての家具や小物が、明確な意味を持ってその場所に置かれているような気持ちになる...)。が、差し込まれるサンプリングなどにより、その奥行きが微かに歪むような、一筋縄では行かなさが美しい。


Bring Me The Horizon - DiE4U
(Single, 2021.09.16)

元々、既存のアイデアをアップデートし新たな型を作ることに長けたバンドだが、本楽曲では昨年リリースのEP「POST HUMAN: SURVIVAL HORROR」でのニューメタル最盛期へのパーソナルな憧憬からさらに一歩踏み込んでいる。
昨年のMachine Gun Kelly「Tickets to My Downfall」の大ヒットに象徴される、00年代ポップパンクリバイバルが席巻しつつある現在のメインストリーム。そして、Porter RobinsonやSan Holoの今年リリースのアルバムが予感させる、10年代EDM再構築・再評価時代の到来。その過去・現在・未来を接続せんとするのが「DiE4U」であり、この展望は意図してのものか否かはともかく、かなり具体的にわかりやすく楽曲に反映されている。ブライトなシンセのサウンドとコーラス部のメロディーはSan Holoの代表曲「Lights」との類似が見られるし、Bメロの扇情的なトップラインと歌唱は、前作でBMTHとコラボしたYUNGBLUDも客演参加しているMachine Gun Kelly「I Think I'm Okay」を彷彿とさせる。それでいてBMTHらしさ全開なのはもはや貫禄すら感じますね。
過去に誠実に、未来に真摯に、シーンの旗手としての強い覚悟が産んだ一曲。そして、この方向性を自ら「Future Emo」と呼称すること(言い得て妙とはまさにこのことですね)には、大きな意味があるでしょう。


Esoctrilihum - Dy'th Requiem for the Serpent Telepath
(Album, 2021.05.21, Black Metal)

フランスのワンマンブラックメタル。コンセプトアルバムであり、各3曲×4セクションに分かれて物語が展開されているとのこと。全12曲75分に渡る長大な作品であるが、前述の章分けに従いサウンドもゆるやかなまとまりを持っていると考えると聴きやすい。#1〜#3では、シンフォニックなメロディを基調としたアトモスフィリックなサウンドを聴かせ、#4〜#6では、ギターリフを軸に組み立てられるバンドサウンドを押し出す。#7〜#9はそれらの混合であり、#10〜#12では、より獰猛で攻撃的に、クライマックスへと駆け抜けていくという構成(実際にはそこまでハッキリと毛色を変えているわけではなく、意図しているか否かも判然とはしませんが、あくまで通し聴きする時のガイドラインとして)。サウンドの圧縮感やドラムサウンドのチープさが目立ったり、尻切れ的に急にフェードアウトする各曲エンディングの違和感(これはかなり批判的に指摘されてるようです)など、気になる点はあるものの、些末な凹凸など覆い尽くすほどの美しいアレンジに、恍惚としてしまう。


FRUN FRIN FRIENDS - FRUN FRIN FRIENDS
(Album, 2021.07.07)

2人組アイドルグループ。実質的なオープニングトラックである#2「Pola」(アシモフが手品師のカバー)の先鋭的なトラックメイクに引き込まれるが、アルバム全体に通底するのは、明け透けすぎるほどにキッチュなインディー・バブルガムポップ。それらの楽曲のメロディーが抜群にキャッチーなのと、舌ったらずななゆたあく・ストレートな宇佐蔵べにの2人の歌唱のバランス感がとにかく絶妙で楽しい。自分達の持ち味を理解した人がセルフプロデュースで活動しているのは本当にカッコいいです。


Homesafe - Nervous Reaction
(Album, 2021.09.03, Alternative Rock ~ Pop Punk)

ポップパンクのアンサンブルで奏でられる陽性のBritpopメロディーは、オルタナ化したOasis、00年代以降エモに傾倒したギャラガー兄弟、とでも形容したくなるような仕上がり(聴けばわかってもらえると思うんですが、#3「Fade Out」のラスト35秒、曲が終わってから急にOasis感が100倍増しになるの面白い)。でも、こういう純然たるバンドサウンドで開けたスケール感を出せるポップパンクって意外と珍しいんじゃないでしょうか。


LOW - HEY WHAT
(Album, 2021.09.10)

音楽が作品として組み上がるとき、まず曲があって、それを形作る音響がある、もしくは曲と音響が同時に作られる、と無意識の内に思い込んでいた。しかしこのアルバムでは、音響に導かれて曲が生まれる様を味わえる。聴いたことのない音像の連続で、自宅でお使いのスピーカーに、あるいはいつも持ち歩いてるヘッドホンに、「こんな音出せたの!?」と声かけたくなると思います。


Sermon Of Flames - I Have Seen the Light, and It Was Repulsive
(Album, 2021.09.03)

インダストリアル・ハーシュノイズ・アヴァンギャルド・ブラッケンド・デスメタル。アートワークや残虐なサウンドスケープ、曲名や歌詞(#2「Cauldrons of Boiling Piss」=沸騰した小便の大釜...)から、神話的な恐怖や超現実的なグロテスクが連想されるが、インダストリアルミュージックが科学技術を手にした社会への批判を背景としているならば、本作に差し込まれるハーシュノイズは意味深だろう。目を見張るほどの新鮮さはないかもしれないが、単なるインダストリアル以上にシニカルで、単なるブラックメタル以上に禍々しい力を放つアルバム。


TORIENA - TORIENA makes me smile
(Album, 2021.09.20)

大きく舵を切った前作「PURE FIRE」の延長にある作品だが、かねてからのTORIENAさんの大きな武器であるチップチューンサウンドとボーカルが、断片的ながら効果的なエッセンスとして用いられており、より「らしさ」の磨かれた作品になった印象。そして、そんなアルバムに自身の名を冠するのはカッコいい!


エース橋本 - Play.Make.Believe
(Album, 2021.05.26, Alternative R&B)

Odd Futureの初期メンバー・Brandun DeShayの別名義による1st。日本好きが高じて移住した経験もあるらしい。どうやら"橋本"の"橋"には、日米を繋ぐ橋になりたいという意味が込められているようだが、その名に偽りなし、向井太一、5lackを含め日・韓・米などからゲストが参加するインターナショナルなアルバム。そして、内容もスムースで聴き心地の良すぎるオルタナティヴR&B。二回目からはついつい「エース橋本です(Listen)」のネームタグ口ずさんじゃうね。


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