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2022.3 良かった新譜

ASIAN KUNG-FU GENERATION / Astral Tomb / Awich / Ballista / Black Fucking Cancer / Caracara / DVMP / moreru / Pearly / ろくようび


ASIAN KUNG-FU GENERATION - プラネットフォークス
(Album, 2022.3.30)

 10thフルアルバム。"原点回帰"なアルバム、というのが第一印象だった。が、それは単なる自己模倣ではなく(しかし自己模倣も多分に含みながら)、技術面でもそれ以外の面でも25年超の活動により円熟に達したことで、本来やりたかったことができるようになった、という喜びと開放感に溢れた"原点回帰"。そしてそれがどれだけ健やかなことか。#3「Dororo」#4「エンパシー」では、「リライト」前後のアジカンのパブリックイメージを再定義しつつ、Rachel(chelmico)とOMSBを迎えた#8「星の夜、ひかりの街」ではHIPHOP、#10「雨音」ではシンセポップに接近、一方で#5「ダイアローグ」#6「De Arriba」には、ギターフレーズに彼らのルーツの一つであるOasisの影も見え隠れしたり。バラエティに富みながらもピュアで、歌詞も詩趣を保ちながら芯のあるメッセージを発信していて...そういった風通しのよさが、オープニング#1「You To You」とエンディング#14「Be Alright」(どちらも超好きな曲)のダイナミックなサウンドスケープにそのまま表れていて、バンドがいかに良い状況にあるかが聴いてるだけでありありと伝わってくる。
 「フラッシュバック」「未来の破片」「電波塔」「リライト」「ループ&ループ」「アフターダーク」「ソラニン」...高校時代に軽音でこれでもかというほどアジカンをコピーしてきて、結構自分にとって特別な意味があるバンドだけど、そんな日々から10年近く経って2022年、胸を張って一番好き!と言えるようなアルバムを出してくれたこと、本当に嬉しいな。
 あと純粋に、10枚もアルバム出して、これでもかというほど全曲キャッチなコーラスをまだ書けるゴッチのソングライターとしての能力ってめちゃくちゃ凄いな。

 ナタリーのインタビュー、とにかく4人の間に特別な空気が流れていることが伝わってきて良かったです。


Astral Tomb - Soulgazer
(Album, 2022.3.25)

 コロラド州デンバーの3人組。デスメタルのマナーを無視し、ブラックホールをサイケに描いたアートワークで、このアルバムには「何か」があると確信した。
 アヴァンギャルドなデスメタル+ドローン〜アンビエントで、同郷のBlood Incantationや共にスプリットもリリースしたCryptic Shiftといったコズミック/Sci-fiデスメタルバンド群と同じビジョンを共有しつつ、まだ誰も表現したことのない世界に足を踏み入れようとしている。2バンドに比べ、作曲も演奏もルーズだが、宇宙とその恐怖を描くにあたっては、"所詮人間が到達し得るレベルの"超越的な技巧や建築よりも、この土臭さの方がかえって説得力があるような気もする(それが意図しているか否かに関わらず)。やや冗長なくらいの尺感や唐突なドローン展開など、ギリギリのバランスで成り立ってる危うい雰囲気なんだがそれももしかしたら確信犯的なのかも、と思わせる底知れなさ。不気味に神秘に迫る様に、最近読んだ漫画「ナチュン」を思い出しました。


Awich - Queendom
(Album, 2022.3.4)

 沖縄出身のラッパー・シンガー。ごめんなさい、もう数日早く聴いてたら武道館行ってました。#1「Queendom」の"止められない、Touched by No one / 荊棘を抜け、立つ武道館"のラインで完全に撃ち抜かれたね。
 HIPHOPアーティストとして、沖縄出身者として、女性として、親として。あまりにも多くのものを背負いすぎているアルバムで、表現者としての覚悟の強さに圧倒されると同時に、1リスナーにすら「Awichにここまで背負わせていいのか?」という憂慮を抱かせてしまっている。しかしそれこそがこの作品の強さで、パーソナルな親子関係から新たな決意を紡ぐラストトラック「44 Bars」が終わる頃には、あなたがHIPHOPアーティストでもなく、沖縄出身でもなく、女性でもなく、親でもないとしても、Awichと同じように信念を持って歩みを進めるべく、いてもたってもいられなくなっているだろう。


Ballista - Ballista Territory
(Album, 2022.2.15)

 テキサス州ダラスのメタリックハードコア。Age of Apocalypseの最新作に通ずる密室的なリバーブ感+パキパキに歪んだギター・やたら野太くブリブリなベースという特徴的なサウンドメイクが個性と聴き心地を両立していて良い。何気にリフ・展開の引き出しも多く、繰り返し聴ける良盤。エヴァの名台詞をサンプリングした#4「Absolute Terror」(=ATフィールドのAT)なる曲もあるが、一見マッチョだけど神経質でオタクっぽい面は楽曲にも表れていて、それが魅力的でもある。#7「Tusk」はキラーですね。


Black Fucking Cancer - Procreate Invers
(Album, 2022.3.18)

 カリフォルニア州サンノゼのブラックメタル。なんて素晴らしいバンド名なんだ。そして、ハードコア~グラインドコア~マスコアの獰猛さを振りまきながらやや粗い音質で疾走する様は全く名前負けしてなくて尚良し。12分超・15分超の曲でもダレずにやりきってて最高。


Caracara - New Preoccupations
(Album, 2022.3.25)

 ペンシルベニア州フィラデルフィアの4人組。Into It. Over It. みたいな歌ものエモにシューゲイザーのタッチと鍵盤を加えた暖かみのあるサウンド、派手さはないけど素晴らしい!普段ドラマチックな音楽性で叫びまくってるSaosinのAnthonyを客演でピックしたのも面白くて、彼の魅力を新たな角度から照射している。
 とにかく#8「Song For Montana Wildhack」が素晴らしすぎ。映画「ONCE ダブリンの街角で」のGlen Hansardの歌唱を思い出しました。


DVMP - DVMP
(Album, 2022.3.8)

 ドイツの二人組エレクトロニコア。曰くcrust punk × tranceとのことだけど、日本のリスナー向けにわかりやすく一言で言うと「売れるのとかどうでも良くなってサイバーグラインドに接近したFear, and Loathing in Las Vegas」です(実際、ラスベガスやPaleduskなど日本のアーティストからも影響を受けている模様)。やたらとキメキメのフレージングや、突然スイッチを切り替えるような不条理展開は、キャッチーさこそないものの強烈なインパクトを残している。#4「Deutscher Verband Motorradfahrender Polizisten」はガッツリ「Crossover」の引用では?
 Drumcorps、ZOMBIESHARK!、Blind Equationなど、ここ数年はサイバーグラインドのめちゃくちゃ面白いリリースが続いているが、 DVMPのようにアメリカ以外のシーンから彼らに共振するアーティストがどんどん登場してきたら、ジャンル全体が爆発的に盛り上がる可能性もある。Hyperpopで満足できなくなったあなたを待つ場所がここにあります。Spotifyのリスナー数まだ2桁で見つかってなさすぎるのでぜひ聴いてみてください。


moreru - 山田花子
(Album, 2022.3.30)

 日本の6人組ノイズ・ハードコア。激情寄りのサウンドから、HIPHOP、Hyperpop、HexDにもアプローチ。#3「kireta otaku」には9mm Parabellum Bulletや凛として時雨のようなアニソン寄りオルタナ〜残響系邦ロックの再解釈的なニュアンスも感じなくもない。ってことから総合して思うのは、こんなめちゃくちゃやってるバンドなのにめちゃくちゃ"今"っぽいの凄すぎる。意図して時代にキャッチアップしたのか、時代が彼らに追いついたのか。
 ところで、「山田花子」というアルバムタイトルは、身元不明の女性に用いられる仮名を冠したConverge「Jane Doe」を想起させる。エクストリームミュージックをアートに引き上げたのが「Jane Doe」ならば、スノッブなシーンを精液の匂いが充満した部屋に引き摺り下ろす本作が「山田花子」なのは痛快な皮肉だ。


Pearly - Silver Of The Mirror
(Album, 2022.2.11)

 オハイオ州クリーヴランドの2人組。ドリームポップ〜ニューウェイブ〜インディーフォークをドゥームメタルの重苦しいリフとガレージパンクの衝動で覆う音楽性は、話題になったSasamiの新譜にも近いものを感じる。浮遊感と異様なまでの緊張感が同居する奇妙な感覚。


ろくようび - Quiz
(Album, 2022.2.11)

 2021年結成、東京は町田市の二人組。なんか変なアルバムだ。70~80年代のオールドスクールな日本語ロックに影響を受けつつテクニカルな一面も見せ、#5「突然変異」ではオフビートなラップ?語り?に、謎の小芝居が挿入されたり、#6「レッツ・サンキュー」ではハードロック的なヘビィなリフを聴かせたり。てかドラムの椿三期さんが一時期話題になった演奏に熱中しすぎて日野皓正にビンタされた中学生(当時)らしくてビックリした。なんか気になる点が多すぎて、謎が多いけど目が離せね~。


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