回顧


あの白い線から落ちたら死んでしまう。
ヨーグルトの蓋に1が書いてあったらラッキー。
牛乳をおかわりできた日は、なんだか誇らしい。
キレイなほうきはクラスのリーダーのあの子にあげる。

あの閉鎖的な小さな箱庭で幾度と無く義務的に描かされた将来の夢は、結局何一つ実現できていない。
それでも今日も多分幸せだと言い聞かせて生きている。

雪崩れるように帰宅して、付けっ放しのトイレの電気に落胆したり、
揃えずに靴を脱いで、靴擦れに痛い痛いと絆創膏を貼っていたりするような女になっているなんて想像もしてなかった。

なんでだろう、思い描いてた大人はもっとかっこよかったはずなのに。



明日起きて私がいなくても何も変わらない。いつも通りどこか他人事なニュースが流れる朝がやってくる。
きっと、私が消えても世界は大丈夫なんだと教えてくれるかのように。

少し大きめのため息をついたら、素早くドアの鍵を閉めて出かける。
今朝も私は、赤信号になりそうな道路を急ぎながら、白い線をこっそりつま先で踏む。


それではまた、今日も特別では無い日を始めよう。

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