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奄美と島尾敏雄

日本で詩を書いていた大学ノート30冊をロンドンに送ってもらった。その中から100篇ほど、ロンドンで買ったノートに書き写した。その後、英語の詩を書いている友人もできて、英語の詩をタイプライターで打ち始めた。

100篇ほど打ったところで、どうしても訳してみたいと思っていた、島尾敏雄の『死の棘』を訳してタイプライターを打ち始めた。その頃、英語に訳されてなかった。今はどうだろう?

二十歳の頃、名瀬市の図書館長をなさっていたので、司書を通してアポイントをとって1時間ほどお会いすることができた。その時、40歳ほど年下のわたしに「あなたにとって大切なものは何ですか?」と真面目な顔で尋ねた。その図書館長室からは官舎である建物が見え、庭でミホさんが洗濯ものを干していた。その奥さんを見る視線から、この人にとってはあの人が最も大切なんだとはっきり分かった。

本では読んでいたが、その人と人とは思えない結びつきを感じた。

ロンドンを離れる時、タイプライターもその原稿もどうしたか記憶がない。ロンドンで買ったノート、日本では手に入らないだろうと思った英語版の小説や評論をーーI.B.SingerやJ.Bergerとかーー何冊か、そしてLPは思いので10枚だけ選んで持ち帰った。

あのタイプライターと原稿はどうしたのか、全く思い出せない。





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